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最終話 台北

ミサキを失ったケンイチは猛烈に働き、資格取得に目指して励んでいた。数年後会社の社員旅行で台湾に行くことになり、台北でたまたま放映されていた日本大ヒットアニメ映画を観て気持ちが高ぶり、駆け出した。そこに待っていた意外な出来事とは? 感動のラスト。

ミサキにフラれて、ひとりになったケンイチは、しばらく仕事に集中していた。営業成績も入社当初は常に最下位争いだったが、今や会社のトップまではいかないが、準エース級にまで成長していた。


また、休みの日には外国人観光客をガイドするボランティアに参加し、プロとしてガイドのできる通訳案内士の資格をとる為に猛勉強していた。


そんなある日、東京で会って以来、ひさしぶりにエミリーからメールが届いた。


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メールには写真が2枚添付されていた。イスタンブールのバザールとカッパドキアで、エミリーが一人で写っているが、通行人にでも撮ってもらったのだろうか、1枚は目をつぶっている写真だった。


『へぇ、トルコか。いいなぁ。それにしてもエミリー、こうしてよく見ると、かわいいなぁ。オレとつき合ってたら、どうなっていたんだろうな』




エミリーは大学を卒業後、台湾の有名な半導体メーカーに就職していた。当初はケンイチとのメールのやりとりはHotmailを使っていたが、無料版を30日以上ログインしなくて、アカウントが消滅し、その後会社のメールを使って、ケンイチと連絡を取っていた。




それから半年後、エミリーからケンイチにメールが届いた。


ケンイチ、ひさしぶり! なんと超ビッグニュースだよ!  私、結婚するよ(^^)/ 写真を見れるようにしておくから、見てね。元気でね!!

ケンイチはびっくりして、飲みかけていた牛乳を噴き出してしまった。


『そうかぁ、いつかはそうなると思ってたけど、ついにきたか。ふぅ』


メールには、デジタルアルバムのリンクが貼ってあった。写真館で撮ったもので、結婚式はこれからなのか、いろいろな衣装で旦那さんと映っていた。


旦那さんは、柔道家を思わせるような大柄の体型だが、顔はぬいぐるみのクマのような感じだった。


『へぇ、優しそうな旦那さんだな。アイツこういうのがタイプなんだな。幸せになるんだぞ』


意外にもケンイチのショックは少なく、何か、気持ちが区切れそうな感じがして、逆に清々しい気持ちになっていた。




さらに1年が過ぎた。


ケンイチは、黙々と仕事をし、係長にまで出世していた。


ある日、会社で仲の良い営業の先輩のタカユキと話していた時にタカユキから、


「おい、ウチの会社、前期業績良かっただろ、そんで社長が機嫌良くなって、今度社員旅行に行くみたいだそ!」


この会社は以前は毎年行っていた社員旅行だったが、時代の流れで行かなくなっていて、ケンイチは入社以来一度も経験していなかった。


「そうなんですか。なんか緊張しそうです。ちなみにどこに行くんですかね?」


「なんか聞いた話だと、いくつか候補があって、投票で決めるらしい」


「へ? 何すか、それ」


社員旅行の候補は、グアム、台湾、沖縄となっていた。ケンイチは沖縄に投票していた。




後日、タカユキはケンイチに声をかけた。


「よう、社員旅行、台湾に決まったらしいぞ」


「そうなんですか。うーん」


「俺は海外初めてだから楽しみだなー。パスポート持ってないけど、会社が払ってくれるのかなぁ」


「さぁ。わからないっす」




こうしてケンイチは、自分の意思ではなく、会社の意思で台湾に行くことになった。 一瞬エミリーのことが頭によぎったが、以前は台中近郊の彰化に住んでて、就職後に台北近郊に引っ越したとまでは聞いていた。しかしながら、エミリーが結婚を機に会社を退職して、メールアカウントが消え、連絡が取れなくなったので、どこにいるかわからなかった。




そして10月のある日、ケンイチの勤める会社の社員一行は、成田から台北の桃園空港(旧蒋介石国際空港)へ飛び立った。


初日は夕方に市内に到着し、夜は宴会だったが、その前に社員表彰があり、ケンイチは入社以来初めて優秀社員賞を獲って、賞金5万円をもらっていた。


翌日、10月というのにうだるような暑さの中、昼間は、バスで故宮博物院や台北101等を周り、夕方にホテルに戻り、その後自由時間となった。


希望者は二班に分かれて、士林の夜市に行くか、Barに行くかということになり、タカユキが、


「おう、Barでも行こうぜ!」とケンイチに誘うと、


「すいません、遠慮します」


「はぁ、せっかく海外に来たんだし、外人のかわいいお姉ちゃんがいるかもしれないだろ、行こうぜ!」


「なんかちょっと、食事が合わなかったのか、腹とか調子悪いんで、ホントすいません。先輩」


「そうか。じゃあいいわ」


タカユキは、ケンイチよりさらに若い男性社員3人を連れ、ニコニコしながらタクシーでBarに消えて行った。


ケンイチは今回が4度目の台湾で、台北市内のことはだいぶ把握していた。初めて大学の友達と来たときに、映画館の大きな看板にハリウッド映画のポスターが貼ってあって、タイトルを漢字で表記していたのが、なぜか面白くて、いつか映画館に行ってみたいなと、なんとなく思っていた。


『みんなとは別に、映画でも観に行こうかな』


そう思うと、電車に乗って、映画館がたくさんある西門町に行くことにした。観たい映画は特になく、字幕が台湾語でもハリウッド映画なら内容がわかるだろうと思い、ハリウッド映画を探したが、ちょうど入れ替わりなのか、上映しているところが見当たらなかった。


ふと目に留まったのが、”Your name"という日本のアニメ映画だった。ケンイチはネットニュースで、この映画が記録的大ヒットという記事を目にしたことがあったが、内容は知らなかった。


『日本の映画なら、音声が日本語だから意味わかるし、まぁこれでいいか』とチケットを購入した。


まだ公開2日目で、映画館に入ると超満員だった。客は若者が多く、カップルも多かった。ケンイチは"SLAM DUNK"の連載終了と同時にマンガもアニメも卒業していたので、アニメを観るのに最初は抵抗があった。


映画が始まった。男女の高校生が都会と田舎で暮らしていて、お互いの体と心が入れ替わるという内容だった。途中のシーンで、女性の男友達が「カフェ行こうぜ!」とド田舎で誘い、女性が大喜びするも、自販機で缶ジュースを買うだけで、女性ががっくりするというシーンで、一同大爆笑となって、その様子を見てケンイチは、


『台湾人も日本人と笑うとツボは同じだなー、やっぱ』とすこしほっこりしていた。


途中から映画の内容が時空を超えて、過去に隕石が落ちてなくなった村を見つけようと男性が女性のいた田舎までいったりして、奇想天外な内容になっていった。過去に戻って、隕石から人々を救おうというハラハラする内容で、ケンイチも途中から作品に釘付けになっていた。


ラストに男女が東京でばったり会うシーンを見ると、なぜかケンイチの心臓がドクドクと高鳴っていた。


映画が終わり、エンディングテーマが流れ出すと、せっかちな台湾人の若者たちは、最後まで待たずに、次々と出て行った。




心臓がドクドクしていたケンイチは、ふと、イギリスのWWOOF(農業体験)から、成田、台中、東京でのエミリーとの出来事が一気によみがえってきて、自然と涙がわきでてきて、頭を抱えて、うずくまった。




このまま映画館を出ても泣き止みそうになく、通路から隣接するデパートを通って外に出るのに、号泣している自分の顔を誰にも見られたくなかった。


たまらず、ケンイチは全力で走り出して、映画館を出て、通路を渡った。




『なんでだよ、チキショウ、もう台湾には来たくなかったのに、いつも一生懸命やってきたのに、オレは!!』




すると、


ドカッ!!


エスカレーターを乗り換える2Fフロアで、たまたま歩いていた見知らぬ男性とぶつかって転んでしまった。


男もその場に倒れ、手に持っていた買い物袋から、ベビー服とおもちゃが飛び出した。


泣き顔を見られたくないケンイチはすぐに起き上がり、その男の顔も見ずに


「ごめんなさい (Sorry)!!」


と大きな声で謝り、そのままダッシュして、1Fフロアへエスカレーターを駆け降りて、外に出て行ってしまった。


男は、


「いってぇな。ったく。アイツ、英語だったけど、韓国人か?」


男の後ろで陰にいた女性が、走り去るケンイチの後ろ姿を見て、


「ケッ...?!」


その女性の声を遮るように男が、


「しょうがねぇな。外人は。まぁ、ぶつかられたのが、身重のお前じゃなくて俺で良かったぜ。なぁ、エミリー。」


ぶつかった男性の連れは、エミリーだったのだ。


「....うっ、うん。そうだね」


「どうした? 泣いてるのか?」


「...ううん、目にほこりが入っただけだよ。」


男は袋にベビー服とおもちゃを入れて、


「あー、もうこんな時間だ。そろそろご飯を食べに行くか」


「...うん。私、久しぶりに焼肉にいきたい! だってずっと我慢してたから」


「おおっ、そうだな。久しぶりにいくかー!」


「ねぇ、豚のお店にしよっ!」


「えぇっ? 牛じゃなくて?」


「私、今日はそういう気分なの。いいでしょ、ダーリン!」


「ああ、わかったよ」




この3か月後、エミリーは、無事に2860gの元気な女の子の赤ちゃんを出産した。



ケンイチは、この2年後に31歳で、通訳案内士の試験に合格し、東京の外国人向けボランティアガイドで知り合った1歳年上の都内の女子高校の国語教師シオリと結婚した。新婚旅行は、思い出の地イギリスを希望したが、シオリに却下され、なんのゆかりもないエジプトに行き、ピラミッド等の古代遺跡を見てまわったという。




おわり




脚注 *エミリーと言う名前は「イングリッシュネーム」といい、アジア等非欧州系の人たちの名前が英語圏では発音がしづらい為、欧米の名前を名乗ることがあります。日本人は利用する人は他に比べると少ないです。


**Hotmailホットメールは、MSNが提供していたWebメールサービス

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