4話 上野
台中でエミリーと再会を果たすも期待外れに終わり、帰国し、家路に向かう途中に思いもよらぬ人物から一本の電話が。恋の行方が急展開となる。
台湾から帰国の途についたケンイチは、成田空港から自宅のある船橋まで帰るのに電車に乗っていた。エミリー*と再会を果たしたものの、思うようにかみ合わず、ひどく落ち込んでいた。
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"プルルル、プルルル、プルルル"
突然、成田・総武線の中で、ケンイチの携帯電話が鳴った。
『あれぇ、誰だろ?』
見知らぬ番号だった。
「もしもし、ケンイチ?」
「はい、そうですが?」
「私、覚えてる?」
「えっ? .....もしかしてミサキさん?」
「そう。久しぶり!」
ケンイチはイギリスに渡る時に携帯を解約しており、帰国後、別の携帯会社と契約した為、番号は変わり、ごく一部の人のアドレスしかメモに控えていなかったので、電話してきたのがミサキとわからなかった。
「おーっ、久しぶり。びっくりしたよ。なんでオレの電話番号分かったの?」
「ごめん。クミちゃんに教えてもらったんだ」
ミサキは、ケンイチがFランの大学時代に所属していた旅行サークルの女友達クミの友達で、ある時から3人でたまに遊んだりしていた。ディズニーランドや横浜・中華街などに行ったりしていた。
「どうしたの?」
「あの.... ケンイチは今、彼女いるの?」
『なんだ⁈ オレってエミリーとは、付き合ってはないよな。うんうん』
「いないけど...」
「じゃあ、私なんかどうかな?」
「え..........................................................⁉」
ケンイチは、イギリスに渡る直前にミサキに会っていた。ケンイチがイギリス1年目でグラスゴーにいた頃に、語学学校の日本人の友達連中と飲み会をした時には、恋バナの話になり、日本にいた時に気になっていた女性としてミサキについて話していた。
その後に一度国際電話をかけたことがあったが、時差もあり、たまたまミサキは忙しかったようで、軽くあしらわれてしまい、頭にきて、それ以来電話しなくなった。
その後は、徐々に英語でコミュニケーションできるようになり、外国人の友人がたくさんでき、WWOOF**での共同生活等もあり、外国人のことばかり考えていて、すっかりミサキの存在を忘れていた。
『そういえばオレ、イギリスに行く時ミサキさんに、帰国したら会おうって言ってたよな。やべぇな。』
ケンイチは申し訳なさそうに、
「そしたらさ、今度ひさしぶりに会おうか」
「うん!!」
「ちょっと、今は電車だから、また連絡するよ」
「わかった、ありがとう」
2週間後の土曜日、二人は上野でデートをした。これまでは共通の友人のクミがいて、三人で合っていたので、二人で会うのはこれが初めてだった。
レストランでランチにオムライスを食べて、上野の森美術館に行き、上野公園を散策した。
夕方、公園のベンチに二人は腰かけていた。
「ミサキさん、今日は楽しかったね」
「うん、天気も良かったし、いろいろ見れて良かったね」
ケンイチは、これ以上自分がタイワニーズの女性を追いかけても、どうにもならないと感じていた。そしてなぜか、自分が以前想いを馳せていたこともあるが、3年も音信不通だったのに、突然自分に好意を示してきた目の前にいる女性に、交際を断ることはできないと思っていた。
ケンイチより2つ下のミサキは小柄で目の細い美人で、短大卒業して都内の企業に事務として勤めていたが、体調を崩して退職していた。先が見えず、不安を感じていた時に、以前クミと遊んだことのあったケンイチを思い出して、思い切って先日電話をしたのだった。
「じゃあ、つき合おうよ」
「本当⁈ よかったぁ。うれしい!!」
ミサキは自分の願いが叶ったので、緊張がとけて、ホッとした。
「ミサキさん、これからよろしくね」
「わかったぁ。こちらこそ」
手をつなぎながら、二人は上野駅へ向かった。
結局、ケンイチはイギリスから日本に帰国した時に、学生時代の男友達と酒を飲みに行った時に話した「もうオレは日本人の女性とつきあわない」というしょーもない誓いをいとも簡単に破ったのだった。
その後、二人は順調に交際を重ねていった。女性をもてなすのが得意でないケンイチではあったが、毎週のようにデートして、大好きなプロ野球や車展示会などを観に千葉マリンスタジアムや幕張メッセに行くこともあったが、行きたいとこへは交互にすべきと考え、ミサキの好きな美術館や博物館にも都内や千葉であちこち行ったり、葛西水族館やディズニーシーもランドも連れて行った。
そして、千葉県船橋市在住のケンイチと、東京都 田端在住のミサキは、いつしか船橋のアパートで同棲をするようになっていた。
つづく
脚注 *エミリーと言う名前は「イングリッシュネーム」といい、アジア等非欧州系の人たちの名前が英語圏では発音がしづらい為、欧米の名前を名乗ることがあります。日本人は利用する人は他に比べると少ないです。
**WOOFファームステイ ファームや果樹園での労働をする代わりに宿泊代や食事が無料になる働き方/労働力の対価に食事と宿泊を交換する制度/有機農場や自然が残っていてその環境を大切にする人たちと交流持って働きたいという目的を持った人が応募するもの