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3話 台中

月日がたち、就職できたケンイチは早速台湾の台中に旅行にでかける。そこでエミリーと再会を果たすのだが。

2年間の留学でイギリスから日本に帰国したケンイチは、帰国後しばらくはコンビニでバイトをしていたが、熱心な求職活動が実を結び、秋から東京駅八重洲の小さな製紙の商社に就職した。イギリスの学校で学んだホスピタリティを活かすホテルなどではなかったが、就職できたことで、家族とともに喜んでいた。




そして、翌年の春になった。 



『もうすぐゴールデンウィークだぁ。どうするかな』


ケンイチはカレンダーを見て、仕事の連休になる日を確認し、インターネットで旅行会社のサイトを見て、成田から台湾へ行くにはどのくらいの費用がかかるかを調べていた。


『やっぱ高いなぁ。でも思ったほどでもないし、まぁ、なんとかかき集めればいけるかな』


日程を決めて、格安旅行会社のカウンターで、往復の航空券とホテルの予約をした。


台中には、イギリスで知り合った女性のエミリー*と、男性のスティーブ*が住んでいた。厳密にいうとエミリー*は、台中郊外の街で彰化という街に住んでいたが、ケンイチの為に台中に来てくれることになった。


3人で会うのは5月4日の夜に決まった。日本はゴールディウィークになるが、台湾は平日の為、夕方に会うことになった。


ケンイチが到着する5月3日に台北の蔣介石国際空港(現 桃園空港)に迎えに来て欲しいとエミリーに頼むと、その日の晩は友人の誕生会があるのだが、なんとか時間を作って来てくれることになった。


ケンイチは中華航空に乗って、空港に到着した。


「エミリー、ひさしぶり!。着いたよ」


「ケンイチ、台湾へようこそ!」


エミリーの体型は、最初に会ったイギリスWWOOF**(農業体験)の頃の痩せた姿に戻っていた。成田の時は、欧州の肉中心の生活の影響で一時的に太っていただけだったのだ。




そして二人はリムジンバスに乗り、台中市内へ向かった。


エミリーはビデオカメラを回しだし、ケンイチを撮りながら話しかけた。


「日本から来たケンイチさんです。よろしく。さて質問です。台湾のいいところは?」


「えー、っと、温暖で果物がおいしいし、タピオカも。あとは、人も優しいかな」


「じゃあ、何か台湾語をしゃべってください、どうぞ!」


ケンイチは、数少ない知ってるフレーズを答えた。


「ワタシハ、ケンイチデス。ニクガダイスキデス。ホントウニオイシイデス」


「ハッハッハ。おかしい。なんなのー。でも、前にケンイチから電話で”もしもし”って言われた時の台湾語の発音が完璧で、知らない台湾人の男からかかってきたと思ったわ」


「笑うなよ。あっ、そうだ、オレの携帯でエミリーの写真撮らせてよ!」


「えーっ、嫌だわ。撮らないで!」


「いいじゃないか、写真ぐらい。なぁ」


エミリーは仕方なく、ふてくされて写真に写った。




バスは台中のバスターミナルに着き、エミリーはそのまま友達の家に向かった。


ケンイチは、宿泊するホテルへ行った。




翌日、ケンイチは、一人で台中市内を散策した。孔子廟、自然科学博物館、民族公園などをまわった。 台中に来るのは初めてだが、Fランの大学時代に卒業旅行で友達と台北を2泊3日で旅し、さらにイギリスから帰国の際にも台北と高雄を8泊9日も旅してしまったので、台湾の市街地の観光には何も驚きもなく、暇つぶしのような感じだった。




そして夕方になり、エミリーとスティーブと合流した。


「よく来たな、ケンイチ!」


「元気そうだなぁ、スティーブ!」


エミリーが尋ねた。


「ケンイチー、何のお店に行きたいの?」


「せっかくだし、焼肉がいいなぁ。えへへ」


「ダメ! 今はアジアで牛肉の病気が流行っているから」


エミリーが言うと、スティーブが、


『じゃあ豚肉なら大丈夫だろ。豚の店にしようぜ!』


と言い、3人は豚の焼き肉店へ向かった。




そして、食事会が始まった。


「エミリーってさ、ちょっと飲んだだけですぐに酔っちゃうんだぜ。それでたくさん笑ったりするんだよ」


「それは言わないでよ、バカっ!」


「こないだのはヒドかったよな」


『はぁ? なんだよ、仲いいけど、コイツらデキてんのか?』


ケンイチはスティーブに、自分がエミリーに気があると前からメールで知らせていた。スティーブとエミリーは、ただ単に友達として仲が良いだけだったが、ケンイチは嫉妬していた。




「何これ。へんなのー!」


エミリーがお店に飾ってある大きな木の楽器のようなものを見つけた。


「ねぇ、写真撮ってあげるよ。スティーブとケンイチ、これ持って並んで」


「1,2,3...」カシャ!!


「ケンイチ、どうしてそんなつまらそうな顔をするの? ひどいじゃない!」


「だって.... 嫌だったんだよ」




夜も遅くなり、帰ることになった。


「お金は、俺たちが出すよ」とスティーブ。


「ちょっと、待てよ。オレのほうが君たちより年上だし、働いてるんだぜ」


「ケンイチ、台湾ではね、会の度に順番に奢るの。だからー、次に日本で会ったときは、たくさん奢ってね。」


そう笑顔で話したエミリーを見て、ケンイチは支払いをあきらめた。


「ああ、わかったよ。ありがと」


その場で3人は解散した。




翌日は、ケンイチは、昼に移動し帰国するのだが、エミリーもスティーブも大学の講義がある為、見送りはなく、ケンイチは一人でとぼとぼと日本に帰ることになった。


空港のお土産屋で、笑顔でチョコレートを勧めてきた女性店員を見て、


『なんだ、今回の旅で一番の笑顔だな。チクショウ!!』


と思いながら、言われるがままにチョコレート購入した。




この時、帰国の数時間後に思いもよらないことが起きるとは、知る由もなかった。



つづく




脚注 *エミリー、スティーブ、レイラ、リリーと言う名前は「イングリッシュネーム」といい、アジア等非欧州系の人たちの名前が英語圏では発音がしづらい為、欧米の名前を名乗ることがあります。日本人は利用する人は他に比べると少ないです。

**WOOF(ウーフファームステイ ファームや果樹園での労働をする代わりに宿泊代や食事が無料になる働き方/労働力の対価に食事と宿泊を交換する制度/有機農場や自然が残っていてその環境を大切にする人たちと交流持って働きたいという目的を持った人が応募するもの



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