2話 成田
英国から帰国したケンイチはアルバイトする日々を送っていたが、ある日遅れて台湾に帰国するエミリーがトランジットで成田空港に寄ることがわかり、合いに行くが...
イギリスから帰国したケンイチは、就職先を探したが、なかなか見つからず、実家暮らしではあるが、さらに駅前留学(英会話)まで始めてしまい、見かねた父親から「生活費を入れろ」と言われて、とりあえずコンビニでバイトをしていた。
日本に帰国する直前に、台湾の台北と高雄を9日間観光し、イギリスで知り合った友達と再会した。高雄では、屋台で買った焼き鳥を食べてノロにかかり、病院に担ぎこまれた。その為、台北で友人のスティーブ*、高雄で友人のレイラ*には会えたが、後半に会う予定だったリリー*には会えなかった。
そして、ある日、エミリー*からメールが届いた
ケンイチ、今日はいいニュースだよ。私6月に帰国するよ。なんと、トランジットで東京に寄るよ(^^♪ 予定空いてたら、会いにきてね。
『マジか? これならエミリーに会える。やったー』
でも一つだけお願いがあるの。私ね、体がだいぶ大きくなってるけど、会った時に笑わないでね( ;∀;)
『絶対大丈夫。笑うもんか!』
ケンイチは、これと言った取り柄もなく、モテない男ではあったが、中学以来、女性に対してデブとかブスとか面と向かっていうことは決してなかった。
ハイランド地方でのWWOOF**(農業体験)で、夜は自炊でみんなで料理をしていた時に、リーダーから「ケンイチ、スシ作ってくれよ」と頼まれても
「できません。」と答え、
「ラーメンはどう?」と聞かれても
「できません。」と答える姿に、
エミリーからも、
「ケンイチ、君は本当に日本人?」
と言われるほどの酷さだった。
そこには、日本人はケンイチ一人だったので、心の中では、
『ここでは自分が日本を代表しているようなもんだから、もっとしっかりしないと』
とは思ってはいたが、実際は、料理に関しては全く役に立たなかった。
さらにWWOOFのイギリス人女性スタッフからも、グループで話す時に無口になる姿から、
「ケンイチ is shy!」とダメ男の代名詞呼ばわりされてしまう始末だった。
6月16日の早朝、ロンドン発、日本航空の便が成田空港に到着した。数日前にケンイチはコンビニバイトの店長に無理を言って、シフトを休み、5時始発の総武線・成田線を乗り継いで、成田空港に向かった。
ケンイチが第一ターミナルの到着ロビーAに着くと、既にほとんど人はおらず、一人だけ女の子が本を読んでいて、イスにちょこんと腰かけていた。
「エミリーッ!!」
「ケンイチ!」
「ひさしぶり! ごめん、待った? これ以上早く着く電車がなくて。」
「大丈夫だよ、私、本を読んでたから」
メールで書いてあったとおり、エミリーは全身がふくよかで、昨年イギリスで会った時に比べて10Kgぐらい太っているように見えた。しかしケンイチは気にならなかった。
それから、お店で食事を取ろうと、二人は移動した。
空港のレストラン街をしばらく決めかねて、ようやく洋食レストランにすることになり、たまたま入口に近かったエミリーが先に入り、ケンイチがそれについていくと、
「は? なんで後からついてくるの(You follow me)⁈」
とエミリーは驚いて、怪訝な表情をした。ケンイチは女性のエスコートに慣れていなかったのだ。
食事中エミリーは、帰国前最後にアイルランドを旅した様子をケンイチに話した。
そして、店を出た後、台湾の両親に国際電話を公衆電話からかけようとするが、かからない。
「先にお金いれなきゃだめだよ」
「えーそうなの。よくわかんない」
イギリスの公衆電話と勝手が違っていて、しきりに非常用のボタンを押すがかからず、ケンイチが小銭を数枚入れて、ようやく通話ができた。
それからトランジットで台北行きの飛行機の準備が整い、放送が流れた。
エミリーが出国ゲートに向かう際に、ケンイチにハグして、
「じゃあね(good bye)!」
ケンイチはちょっとびっくりして、
「また会おうね。エミリー!」
『もう、絶対に早いうちに台湾に行くから!!』
と思ったが、恥ずかしくなり、口には出せなかった。
エミリーを乗せた日本航空の便は、台北に向かって離陸した。
ケンイチはそれをデッキで見届けた後、成田・総武線に乗って、船橋に帰宅した。
昨年夏にイギリスのハイランド地方で出会った若者たちは、こうして全員がそれぞれの祖国に戻った。
つづく
脚注 *エミリー、スティーブ、レイラ、リリーと言う名前は「イングリッシュネーム」といい、アジア等非欧州系の人たちの名前が英語圏では発音がしづらい為、欧米の名前を名乗ることがあります。日本人は利用する人は他に比べると少ないです。
**WOOFファームステイ ファームや果樹園での労働をする代わりに宿泊代や食事が無料になる働き方/労働力の対価に食事と宿泊を交換する制度/有機農場や自然が残っていてその環境を大切にする人たちと交流持って働きたいという目的を持った人が応募するもの