9話―「模倣! 模倣! 模倣! ひたすら!模倣!」
俺は目が覚めると自室のベッドに居た。
そのまま上半身を起こし辺りを見渡すと、隣には目の下に大きなクマを作ったシュカがコーヒーを飲んで椅子に座っていた――多分、メル様が言っていた白魔法で僕の事を看病してくれていたのだろう。 本当にありがとう。 というか、その歳でコーヒーかい。
「おはよう、シュカ」
「元気になったみたいね」
俺が目を覚ました事に全く声色を変えずに返事をした。
「えへへ、ありがとうね」
何だかついつい嬉しくて綻んでしまった。
「? 元気なら良いわ」
いつも通り無表情でクールだ。
俺は起き立ち上がるとまだ村式伊織の身体のつもりでいたのか、シュカの頭を無意識に撫でた――俺は現実世界では22歳。 彼女はまだ10歳の子共。 正直、こんなに頑張る子供がいるとつい良い子良い子くらいしたくなるものだ。
シュカは相変わらず無表情で嫌がりもしなかった。
俺も気にされてすらいないと思いそのまま1階に降りて行った。
俺が出てってからシュカは腰が砕け椅子から滑り落ちてしまう。
真っ赤に熟した林檎のような顔を両手で覆う。
「そんなの、ずるいじゃない……」
☩
俺は1階に降りると父さん母さん、アサトにぃとアリスねぇがご飯を食べていた。
皆ご飯を食べていたはずなのだが、一斉に抱き着いてきた。
「おおおおおッ! アリム! 生きてて良かった! お父さん、お父さん、ぐすん……」
「本当に良かったわ、アリム。 こんなに抱き締めた苦しいわよね。 でも、もう少しこのまま居させて」
「アリム~~~! 俺、俺、もっと強くなるからな! アリムの事もっと守るからな! ごめんな~、危険な目に遭わせて、ごめんな~!」
「アリム、ごめんね~。 お姉ちゃん、正直もう駄目かと……でも本当に良かった。 愛しているよ~、アリム」
今までの僕、村式伊織にとっての家族は邪悪で各々が私利私欲に生きる動物の集団。
そう思って生きてきた。
それが『家族の形』だと思っていなくては自分の心が愛を欲してしまうから。 生きる為にそう信じ込んだ。
だが、今は不思議と僕の心は鬱蒼と生い茂る煌びやかな大地に包まれたような居心地良さで満たされていた。
過去体験を追憶してしまう変われない自分がいることに今満たされた自分が腹立たしさを感じる、と共に生きる為にクソ家族を基準とした自分を否定されているような反対側の気持ちでいっぱいだったが、この家族は埋めてしまう。
僕が本当に求めていた『家族の形』を。
「僕は大丈夫だよ、父さん母さん、アサトにぃ、アリスねぇ」
そう言いながら力一杯抱き締め返した。
俺は外に出ると、家族には何も言わずに早速と村を抜けて小さな森に入って行った。
模倣。 再現できる力か。
強大な力の上、普通よりも根本的な体内エネルギーが多いから弱い魔法でも強く放つことができる。 まとめるとそんな感じか。
よしッ!
俺は模倣をあらゆる角度で試し始めた。
まずは、簡単な所からやりたいが、そうだ! 木の枝でも模倣してみるか。
目の前に置いてあった木の枝を見つめ、何も置いてない箇所に手をかざして叫ぶ。
「模倣!」
すると、手の平には虹色の魔法陣があのときのように現れ、光の粒子が集まり木の枝を完全では無いにしろ再現する。
以前のような意識が飛びそうになるような感じは無い。
良い感じだ! 明らかに再現した方がでかいけど、できたはできた!
もっと、もっとやろう!
それから約1週間、何度も木の枝を再現してコントロールすることに専念した。
だが、簡単にはいかなかった。
完全再現できているように見えるのは約1割程。 いや、実際はそれ以下かもしれない。
やはり特殊故に扱いが難しい。 ユニークスキル『模倣』。
けど、そんな程度で最早折れる俺じゃ無くなっていた。
この日も朝から晩まで行いちょっと疲れたのか、足取りが初めて重く感じられた。
今までの精神的な疲れ方ではなく、むしろ気持ちの良い疲れ方に俺は興奮した。
帰り道、もっとコントロールを上手くできるには。と考えていたそんなとき、ふと閃いた。
これなら――村を、このスタイル家を復興できるかもしれない!
俺は重くなったはずの足取りを軽やかなステップに変えて自宅に向かった。
ご拝読ありがとうございますッ!
どんな評価でも頂けると嬉しいですッ!
モチベーションになるので良かったらお願いしますッ! ( *´艸`)