8話―「この世界では呪いの超ショートスリーパーが最高のパッシブスキルになりました」
薄れゆく意識が辿り着いたのは見覚えのある真っ白な世界――あ、天界だ。
俺はダーウィンとの戦闘の途中で死んだから戻されたのか?
俺は天界に素っ裸で降り立つと元の現実世界の身体に戻っていることに気付く――うおっ、久々。 工場勤務で奴隷の如く働いていたから結構筋肉付いているな、俺。
自分の顔や素肌を撫でて何かよく分からない感情に感動する――おぉ。
そこに、女神のメル様が焦った表情で全速力でこっちに走ってきた。
感動の再開だと思い、俺は両手を広げて待っている。
と思いきや、メル様の流れた右手は俺の頬を捕らえ引っぱたいた。
「何しているのよ~!」
俺の顔は身体を連れて遠くに飛んだ――えッ? あ、違った。 感動の再開じゃないのね。
「説明聞かないで何で使っちゃうのよ!」
「す、すみません……」
やっぱりあの爆発は俺が貰ったユニークスキルだったんだ。
メル様に灸を据えられてから今までの事情を話した。
「そっか、事情も聴かずに平手打ちして悪かったわ。 ごめんなさい」
「いえいえ、全然そんなつもりじゃ」
「いえ、私にも責任があるわ」
その後、何度も謝ってくれた――こんなにも素直に接してくれる天使様っているのかな。 僕はもしかして恵まれたのか。 そう、ふと思った。
「それで伊織さん、どうする?」
「どうするって?」
「念の為に確認したら、君の幼馴染が白の魔法の系統に強くて何とか生きているわよ」
シュカの事か? あの子、そうだったのか。
俺は頭でいろいろ考えたが、現実世界に戻ろうなんて選択肢が俺の中に存在するはずも無い。 結論は決まっている。
「そうですね、戻りたいです」
「異世界に?」
「はい」
「分かったわ」
メル様は立ち上がると、俺の頭をくしゃくしゃ撫でた。
「よしッ、そしたら言い忘れていた二つの事伝えるわ。 まぁ、一つは既に伝わっているんだけどね」
「はい! お願いします!」
「まず、伊織さんは魔力無しってこと。 で、魔力無しになった理由は転生するときの人間のパラメーターを私達が調整するんだけど、貴方が貰ったユニークスキルは大女神様からのだから純度が高すぎて使える基準まで貴方のパラメーターを全振りしなくちゃいけなかったの」
「はい」
「だから、貴方には魔力が存在しないの」
なるほど。 分かるが分からない。
「はい、あの~理解できたんですけど、俺、魔力無いですよね? なのにユニークスキルは使えるんですか?」
「そう。 貴方の場合のユニークスキルは特殊だから。 ここですっごく大切な話になります」
「はい」
なんだろうか。 実は一回しか使えないとか、寿命を等価交換してるとか。 そんなんじゃないよな。 聞くことが怖い……。
「貴方のユニークスキルは『1日の中にある自分のエネルギーを膨大な魔力に変換して使えるような仕組みになっています』」
? 自分のエネルギー?
「簡単な話、貴方は一日一回も寝ずにずっと全力で仕事できますか?」
「はい」
「……」
「……」
なんだこの間は。 メル様が無表情だ……。
「え? 何で?」
「えっと、僕、超ショートスリーパーなので」
「……超ショートスリーパー?」
「はい」
メル様は訝しげに俺を見ながら手に持っていた書類を確認し始めた。
「嘘ッ、ほんとだッ」
「はい」
「貴方凄いわね。 1日2時間くらいしか寝なくても、いやそれ以下でも動けるのね。 野生の動物みたいね、天使ながら唖然だわ」
野生の動物……。
「あ、ありがとうございます」
メル様は説明に困り口を紡いで沈黙する。
「そうね~、何て言ったら良いのかしら。 まぁ、普通の人は無理なのよ。 更にずっとなんて」
「はい」
「何で普通の人には無理かって、そもそも、人間の身体は体内エネルギーを消費しながら動いているの。 それは休憩や睡眠を取って回復するんだけど、0パーセントになったら身体が物理的に動かなくなっちゃうの。 だって消費する物が無いんだもの。 だから無理なの」
確かに。
「はい」
「で、貴方のユニークスキル、名前は『模倣』。 見たもの触れたものを再現できる能力。 この模倣は一度見ただけで再現ができるから貴方のお姉さんの技を貴方が無意識に模倣してダーウィンって人に放ったって理屈」
そうか、つまりコピー能力なのか。
「はい」
「で、そのとき貴方の中で何が起きていたのかと言うと、ユニークスキルが発動して貴方の体内エネルギーを膨大な魔力に瞬時変換したの。 その魔力を消費してお姉さんの技を放ったって流れなんだけど、明らかに貴方の炎の球の方が強かったわよね?」
そうだな、あいつデカい身体だったけどぶっ飛んだもんな。
「そうですね」
「それは、貴方が根本的に人よりも体内エネルギー量が爆発的に多いっていうのと、慣れてないから『変換量』を間違えたって感じだと思うわ」
ってことは、技に関しては繰り返し練習必須って感じか。 チートスキルでは無いんだな。
「なるほど、でも体内エネルギー多いのに死にそうになったのは何でですか?」
「そりゃ魔力始動した日に、莫大な魔力量を1回の技で使い切って初めてでやったら、それは身体が驚いちゃうわよ」
「つまり、僕の身体が慣れていけばもっと変換回数をこなせるってことですか?」
「そうね、正直私もびっくりする位このスキルと貴方体質の相性は最高だわ」
なるほど、僕の身体の成長に伴ってか。 戻ったら基礎体力から付けないとな。
それにしても本当に良かった。 本当に。 これで村に父母に恩返しが少しでもできる!
「色々と教えて下さりありがとうございます」
「こちらこそよ」――大女神様はこれを知って、一見非効率に見えるスキルを渡したのかしら。 だとしたら流石は大女神様ね。
「もう行く?」
「そうですね、ずっと居ても仕方ないんで」
よしッ! もう一度頑張るぞ! 俺!
俺は目を瞑ると段々と身体が光の粒子に分解される。
途中天界が恋しくなり、薄っすら目を開くとメル様が微笑んで口を動かした――頑張って。
俺の心は軽くなり、決意と共に光の粒子と消えていった――。
メル様は伊織が消えてから真顔になり、手に持っていた書類にもう一度目を通す。
額には汗を滲ませ手を顎に掛ける。
あの子、これに気付いたら相当やばいわね。
普通あの大きさの炎の球を放ったら一般的には総魔力量の3割~5割位は消費するわ。
でも、あの子――。
あの子にとっては呪いだった寝れない体質を幸福の条件に変えるなんて、本当に凄いわ、大女神様。 あぁ~、もっと頑張るか~!
メル様が両手を広げて背伸びをしたときに、一枚の書類が手をすり抜けて床に落ちた。
そこには村式伊織のステータスと共にメモ書きが書かれていた。
「寝れない体質により異常な体内エネルギー保有。 今回魔力使用時、体内エネルギー消費量たった3パーセント。 残り97パーセント。 『超危険人物――』」
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