7話―「初陣にて学ぶこと多き」
ダーウィンは宙を舞い地面に叩きつけられたときに意識を取り戻した。
(はっ、な、何だ。 一瞬巨大な炎の球が見え――。 あのガキッ、何をした……)
アリムから謎の攻撃を食らった鎧の箇所は穴が大きく焦げ付いて穴が空いていた。 それを確認したダーウィンはひやりと額から汗を垂れ流した。
思わぬ事に生唾を飲み込む。
(とりあえず、あのガキは何かできる……一番危険かもしれない)
ダーウィンが警戒しアリムを考察していると、アリムは強烈な目眩に襲われ地面にうつ伏せでぶっ倒れる。
(何だ。 急に天と地がひっくり返って見える。 意識がっ、指一本動かない……。 やばい。 これはやばいッ)
現状、謎の力とは言えダーウィンと闘えるのは自分しかいない。
その自分が地面に平伏したのならば、これは既に勝負が付いたという事。
アリムは動かない身体を必死に動かそうとする。
ダーウィンはアリムが動けないのを目視できると高らかに笑う。
(何だ、急にぶっ倒れた。 もしかするとさっきの一発はまぐれなのか。 落ち着いて考えればあれ程の爆発、相当な魔力を消費するはず。 だとしたら……)
「はっはっはっははははは! 何かの奇跡が起きたのか! まあ、目の前で親兄弟を殺されそうになればそうなるか。 だが、戦場で敗因を作る事は全て己の実力不足。 所詮はやはり大クズの子共も大クズか!」
安堵し大剣を支えに立ち上がり、アリム達に向かってまた前進して来る。
しかし先程の「まぐれ」が相当効いたのだろう。
片足を引きずりよろけながらゆっくりと向かって来る。
(畜生ッ、 動けっ! 動けぇッx! 動けよッ! 俺の身体ッッ!)
俺は幾度となく身体を、手を指を再起させようとするが全く命令に従わない。
むしろ、意識が飛びかける寸前を留めるのに精一杯だった。
(畜生ッッ……)
俺は悔しさのあまり双眸から溢れた涙が零れる。
絶望の淵に立たされたその瞬間、隣の男と女がよろめきながら立ち上がった――アサトにぃとアリスねぇだ。
「ふぅぅ、やってくれたな。 木偶の棒」
「あ~、木偶の坊に失礼だよ~? アサト」
二人共平気な振りを装い心理的な圧迫を掛けるが、アリスに関しては立っているのが限界の様子だ。
「ほぉ、まだ息をしていたか大クズの大クズ共」
アサトとアリスはゆっくり前進する。
「お前は絶対にやっちゃいけねぇことをした」
「そうだね、こいつは禁忌を犯した」
またダーウィンは俺達を嘲笑った。
「はっはっは、一体何の事だ、そもそもお前らに出来る事なんか何もねぇんだよ、消えされ雑魚兄弟」
二人は深く深呼吸し目を瞑る。
「魔力量の消費がハンパねぇから本当は使うつもりは無かったんだが」
「そうだね~、でも今はそんなこと言えない状況だね」
「「「あの世で後悔しろ、ユニークスキル発動。 『魔装:漆黒血の王』、『オーバードライブ』」」」
二人から急に突風が吹き、ダーウィンは腰を落とし大剣を構える。
(何だ、雰囲気が変わった?)
アサトの身体をタイトな漆黒の仮面と鎧が包み、深赤色の線の幾つもがその鎧の縁を彩る。
手に持っていた剣も同様に漆黒をベースに深赤色が刃先から柄の部分まで綺麗な直線を描いている。 朱色のマントが月光を吸収し――まるで、龍の騎士の様に見える。
アリスは大きな見た目の変化は無いが、目から陽炎に似た虹色のオーラが噴き出ている――まるで、それは何かの覚醒者のような。
「てめぇの罪は『超絶可愛い俺の弟虐待罪』だからな」
「お前ぇ~、まじで許さんからな~」
見ただけでも分かる圧倒的な変化に元団長とて威勢も出てこない。
しかし、ここまでやっておいて引くにも引けない状態。
全員でかかれば、そう、全員でかかれば! ダーウィンは配下の騎士に命令をする。
「お前らぁ! 目の前の気に食わねぇ鎧は俺がやる! 奥の女はお前らで切り裂けェェェ! いいなあああァァァ!」
「「「はっ、はいッ!」」」
ダーウィン以外の騎士が扇の様に対陣を開き剣を構える。
「行けえええェェェ!」
ダーウィンの怒号の号令と共に騎士隊全員で真っ向から駆ける。
ダーウィンがアサトを目の前にし大剣を残りの全てを絞って振り切ろうとした瞬間、アサトから溢れ出ている魔力がオーラが、龍のように見え筋肉が振り切る前に硬直する。
(なッ、何だ! こいつは、人間か?)
刹那、アサトがダーウィンの振り切る速度の何倍もの速さで刀を振り切り、ダーウィンは肩から腰に掛けて一直線に切れる。
「今まで父親が世話になった。 ありがとう」
ダーウィンは両手から大剣を落とし微かに微笑んだ。
(さっきまで殺そうとしていた敵に礼か。 ちッ、昔のあのカルマ様に似ていやがる。 全てが、気に……食わんな……)
大量の血飛沫が空に振り上がり、血雨に変わるとアサトの頭に鎧に剣に流れ落ちた。
幾千もの戦場を駆け抜けた血は色濃く、振り切った刀の線は衝撃破を生み出し「見えない刃」となって男の魂を連れ彼方へ飛んで行った――。
同刻、アリスに向かっていた騎士達の影を突如「何か」が塗り潰した。
天空から炎に纏われた岩が何個も騎士達の全てを黒く染め上げる。
状況を理解しその場で静かに立ち止まった騎士達は剣を下ろした。
「御業か……」
「ダーウィン様、最後までお供いたします」
その言葉をアリスは重く受け止める。
「今、すごく輝いて見えるよ」
地に降り注ぐと、轟音と共に騎士達の姿は消え無くなっていった――。
二人は直ぐに武装を解除すると、尋常じゃない疲労が表情に表れる。
しかし、這ってでも向かおうと言わんばりにアリムの元に我慢して歩く。
「アリム、終わったぞ」
「アリム~、さっきは凄かったね~」
2人は辛い表情を一切見せずに声を掛けるがアリムからの返事は無い。
シュカがアリムを仰向けにして抱きかかえていたのだが、その表情はいつも以上に固く暗かった。
二人に向けてシュカは顔をゆっくり上げるがその瞳からは何粒もの涙が零れ、顎から滴り落ちていた。
「アリムの……心臓が動いてない……」
アサトもアリスも駆け寄り胸に耳を付け確認するが、心の臓は機能していなかった――。
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