3話―「俺は、僕は、生まれ変わる」
日の出と鳥のさえずりが僕に朝が来たと通達する。
想い想いに待ちわびた日だからなのか、僕はいつもなら2時間は寝るのに一睡も出来なかった。
まあ、転生前を含めると30年弱この体質だからもう慣れたも同然なのだが。
今日だけはからっと乾いたような爽やかな気持ちだった。
「アリム~、ご飯よ~」
2階にいる俺に一階から声を掛けるのはスタイル・ミシェル――俺の大好きなお母さんだ。
「は~い、母さん~」
「アサトとアリスもついでに起こしてもらえる~?」
「は~い」
俺は母親に呼ばれ指示されるがまま兄のアサトにぃ、姉のアリスねぇを起こしに向かう。
では、向かっている間少し俺の話をしようか。
俺の名前はスタイル・アリム――ピチピチの10歳だ。
転生前は「村式伊織」という名前で生きていたが、正直クソみたいな人生過ぎて俺は転生された事を心から感謝している。
転生が起きたのはクソ超ブラック企業に行く直前で、突如「住んでいる家」を囲った巨大な魔法陣にかっさられてこの世界に飛ばされた。
途中「天界」を経由したのだが、咄嗟の事過ぎて話や状況が呑み込めずに理解なんてできなかった。
だが俺はこの世界に来る事を選んだ――選んだ理由は分かるだろ? 消去法で考えて現実世界なんてやってられなかったからだよ。
天界にて女神様が何か素晴らしい力をくれたのは確かみたいで、ユニークスキルってやつを頂いた。
そして、それが今日判明する日なのだ!
俺は誓う。
あのときのクソ人生なんかは二度と送らない。
死んでも送って堪るものか!
(「「「俺は、僕は、生まれ変わる!」」」)
☩
俺は兄の部屋のドアをノックする。
「アサトにぃ~、ご飯できたよ~」
目の前のドアが勢いよく開くと短髪で銀色の頭をした兄が顔を覗かせる。
「アリム?」
まだ片目瞑っていて寝ぼけているのだが。
「うん」
「おお~! 今日も可愛いな! おはよ~!」
猫のような両目がぱっちり見開くと、俺の顔見るなりアサトにぃは抱き締め頭を撫でる――俺は実の兄に溺愛されているみたいだ。 現実世界とは大違いだ。
「アサトにぃ、苦しいよ~」
「あ、ごめんごめん。 今日からアリムも魔力が使えるようになるのか! 俺がしっかり使いこなせるように傍にいるからな!」
「う、うん」
アサトにぃは本人である俺より楽しそうに言う――転生前にも兄が居たが性格が真逆だ。 根暗でいつも部屋に閉じこもっていたからいつかカビでも生えるんじゃないかと危惧していた程だ。 まぁ、遠い昔の話だが。
ちなみに、こう見えてアサトにぃは「剣術の麒麟児」だ。
10歳のときに魔力始動が始まり教会の司祭様にその系統を調べてもらうのだが、肉体強化系統に全振りでそれ以外の魔法センスが皆無だった。
その代わり、小さい頃から剣術は既に一般冒険者の域に達しており、これからの成長の幅を考えると天井が見えない程だ。
「母さんがご飯だって。 じゃ、アリスねぇのとこに行くから」
「おう! 直ぐそこだけど気をつけてな」
(人生で初めて廊下を歩くだけで気を付けてと言われた、兄優し過ぎっ)
俺はアリスねぇの部屋のドアをノックする。
「アリスねぇ~?」
「はぁい、あれアリム? おはよ~う」
このゆったりとした喋り方は生れた時かららしい。
「うん、おはよう」
急にアサトにぃと同じ様に抱き着いてくる。
アリスねぇもアサトにぃと似て優しい。
だが、性格はマイペースでいつも兎のパジャマ姿で居るちょっと変わった人だ。
「ん~、今日も可愛いねぇ~、アリム~」
「う、うん」
もはやさっきと同じ流れだ。――二人共俺よりも5,6歳上だから、可愛く思ってしまうのは無理もない。 二人にとってはぬいぐるみのような存在なのだろう。
こう見えてもアサトにぃと同様にあまり周知されていないが天才の一人だ。
魔法系統が「炎属性」に振り切っていて、若くして最上級の魔法まで使いこなすことができ魔力量も他の魔術師と比べても多す過ぎる位多い。
「母さんがご飯の用意できたから降りてきてだって」
「うん、分かった。 ありがとうね~」
「うん」
二人共溢れんばかりの才能に恵まれている。
僕にはどんな才能に恵まれるか。
腹から不気味な声が出そうな程、期待が膨れている。
俺は先に下に降りて朝食を頂く。
「とうとう今日ね、アリム」
「うん!」
一緒に食卓に座っている男も俺に声を掛ける。
「アリム、今日はお祝い一杯用意して待っているからな!」
この声が若いのにガタイの良い男の人は俺の父スタイル・カルマだ。
今はこんなボロボロの一軒家に住んでいるが実は元ギルム王国の中流貴族だった男だ。
昔、無実の罪で「国家反逆罪」を被せられてしまい全てを失った。
罪の内容は父と母が王宮に隠されし「禁断の古代魔法術書」を盗み出して王族を殺そうとしたかららしい――ハッキリ言おう。 勿論そんなことは無い。 騙されたのだ。 昔、父母と四人パーティーを組んでいた「グリム夫妻」に。
何が原因で元パーティーがそんな事をやったのか明白になっていないが、村の噂ではスタイル家の上流貴族への出世が発端になったらしい父は「。
そんな安い感情で振り回される人間じゃなかった」と言っていたから、多分何か裏があるのだろう。
まぁ、10歳の子供の俺が今それについて考えても誰かの特大権力で押し潰されるだけ。
だから、深く触れないようにしている。
俺は慌ただしく朝食を食べ終わると持ってきていた草臥れたショルダーを背負って玄関に向かった。
「それじぁ、行ってくるね! 父さん、母さん!」
「うん! 気を付けていってくるのよ」
「おう! いってらっしゃい!」
俺はそのまま駆け足で家を飛び出し司祭様が待っていらっしゃる教会に向かった――さぁ、女神さまの賜物を受け取りに行くとしますか!
☩
「アリム、行っちゃったわね」
「ああ、どんな魔力系統なんだろうなぁ」
「ふふ、ユニークスキル『真眼』だったら嫌ね」
「そうだな、僕たちの正体がばれちゃうからね」
「えぇ」
アリムの旅立ちの背を押すかのように温かい優しい風が走るアリムを撫でた。
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