1話ー「女性なくして男成り立ず」
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「生まれてきてくれてありがとうね、心から愛しているわ、アリム」
俺が忌み嫌っていた「家族」という概念が初めて揺らいだ言葉だった。
俺は10年前に拍手と感動の涙の中、盛大に産声を上げた。
周りにはちょっと良い恰好をした人やメイド服の女性達は俺を大切に見つめ、神秘的な瞬間に触れている。
溢れんばかりに涙を目に堪えていた。
「おめでとうございます! 元気な男の子です!」
「あ、ありが…とう」
この貧弱そうな声は今俺を産んでくれた中流貴族スタイル家の領主の妻「スタイル・ミシェル」だ。
既に他2人子供を産んでいると思えない程、長い黒髪が似合う綺麗な女性だ。
スタイル家の大切な女性――いや、俺の(僕の)母親だ。
「ご無理でなければ抱きかかえられますか?」
「え、ええ……」
母は衰弱した表情をしながらも無理して身体を起こし小さな小さな俺を抱きかかえる。
その顔は段々を破顔していきボロボロと涙を零した。
「う、うぅ、生まれてきてくれてありがとうね……。 心から愛しているわ、アリム」
赤ちゃんの俺には思考が追い付かず只々言われた言葉を記憶するだけしかこの時はできなかった。
ただ、転生前の多少の記憶と感情があるからなのだろうか――俺の頭にある「家族」のイメージが温かい色に変わった瞬間だった――。
俺はその瞬間泣き止み、口をぽかんと開き母と同じ様に破顔した。
☩
あれから10年が経つ。
あの歓喜の場の後、スタイル家には地獄が待っていた。
約10年前、スタイル家は現領主スタイル・カルマとその妻スタイル・ミシェルが中流貴族として街を繁栄させていた。
元々二人は冒険家でそれなりの成績をギルム王国に収め王国貢献を多大にしていた。
故にそのことが評価され、二人が結婚して冒険家を辞める際に王族から直接下級貴族への出世を言い渡された。
元は下級貴族、数年の努力で中流貴族まででのし上がってきた素晴らしい人間なのだ。
ただ話によると、確かに冒険者としては腕利きだったのだが2人共頭を使う仕事が得意ではなく下級貴族に成り上がった際にはとんだ苦労をしたらしい。
だが、領主カルマの性格や人柄もあって1から教えてくれる人情に溢れた上流貴族に目を付けられ繁栄に多大なる協力をしてもらい、ここまで成り上がった。 みたいだ。
それから月日は経ち、今から丁度10年前にスタイル家に上流貴族への出世が言い渡された。
実はその「スタイル家の上流貴族」への正式なパーティーは俺が生まれた日の同時刻に裏で開催された。
だからなのか、僕が生まれることが世間にとっても特別になっていたのは。
特別な日に特別な事が重なる日は何かある。 それが良くない事でも。
時は丁度その重なった日に戻る。
ミシェルの下に若く爽やかな青年が勢い良くドアを開け入ってきた。
恰好は細長く綺麗な手細工が施されたレイピアを腰に据えキラキラと輝く服飾を身に着けている。
雰囲気は貴族というより――若い冒険家。
「ミっ、ミシェル!!」
「カルマ? お祝いのパーティーはどうしたの?」
「そ、それが……」
息を切らしどうも落ち着かない様子のカルマにミシェルはゆっくり質問した。
「? 落ち着いてカルマ、ゆっくりで良いから話して」
ミシェルは俺を産んだばかりで顔色も体調も優れていなかったが、カルマの焦燥しきった表情に直観的に自らが落ち着きを払い話を聞くことに勤しんだ。
「……。 いや、いいんだ、今日はめでたい日だ。 それにアリムを産んでくれたばっかり。 また明日話すよ。 それより、アリムの顔を見せてくれ」
カルマをミシェルから俺を預かると口を強く結び喜んだ。
「ア、アリム。 ほ、本当に生まれてきた。 あぁ~、なんて可愛いんだ」
「そうね……。 本当に可愛すぎて食べたくなっちゃうわね」
(赤ちゃんだからよく理解できないが、今怖い言葉のような……)
「あはは、ミシェル。 君が食べるなんて言うからアリムの顔が強張っているぞ」
「嘘っ、冗談でちゅよ~、アリムちゃん~」
二人と俺を包んだ空気は微笑ましく心豊かなものだった。
「で、あなた?」
「あ、そうだね。 でも……」
「あのね、私はアリムで三人目よ。 特にこの子はお腹で暴れる事も無かったし出産時間も早くて出血も最初に比べたら池とコップの差よ。 私は大丈夫だから、ね? 話して」
カルマは眉をしかめ生唾を飲み込む。
「あの、驚かないで聞いて欲しんだ」
「ええ」
「裏で開催されてるパーティーの途中に急に王族の方々に呼び出されて、上流貴族への出世話は『無し』と言われた」
「……。 そうなの」
ミシェルは一瞬身体を揺らし動揺を見せたが、何よりも愛する旦那にこれ以上心配を掛けまいと深呼吸して荒ぶる心を落ち着かせた。
「それで、何で無しになったか聞いたの?」
「いや、まだ聞けてない。 今日中にアシュタルト王から直接話をしていただけるみたいだから夫人も直ぐに連れてきてくれって言われて……」
「え? 私出産したばっかよ。 王族の方々がそれを本当に言ったの?」
ミシェルは上流貴族への出世話が駄目になったよりも、子を産んだ人間に配慮しない王族の行動に驚きを隠せなかった。
こんなこと今までの紳士的な王族ならば絶対にしない。
しかも今日中だなんて――ありえない。
何かあると睨んだミシェルは大きく溜息を吐く。
「ふぅ、分かったわ」
「いや、でも、今日の君は出産した直後だから。 流石に、えっと、動いちゃまずいと……」
我慢していたのか。
この会話を聞いていたスタイル家のメイドや産婆さん達がはち切れんばかりに話に割って入ってくる。
「そうですよ!! ミシェル様」
「私もそう思います!!」
「そんなことを今日突然言ってくる王族も王族だわ!!」
「ここは安静にして下さい。 ミシェル様。 お願いです」
まあ、当然の事だ。
少々過度に言い過ぎてもあるが、彼女らはミシェルが雇わなければ今でも重労働を強いられていたり、運が悪かったら身売の道具にされていた人達だ。
満場一致でスタイル家の保身よりミシェルの身体の安静を願い出た。
「皆ありがとう。 本当に嬉しいわ」
ミシェルの顔つきが精悍に変わり覚悟を露わにした。
「でも、王様が直接というならばここで黙って見ていられません。 何より王族の命令は皆さんが知っている通り暗黙の了解で強制命令の一択。 私も行かねば何が街に起こるかカルマの身に何が起こるか、恐ろしくて堪りません。 また、皆さんの知っている王族はそんな安い人間では無いでしょう?」
メイド一同俯き暗転して目を泳がせる。
「そ、そうですが…」
ミシェルの顔が柔らかく砕け朗らかに喋る。
「私は大丈夫。 今日はアリムが生まれてくれた日ですよ? こんな素敵な日に何か不出来な事が起こるはずがありません」
「そ、そうですね! アリム様が生まれた日ですものねっ!」
そのこの部屋にいる誰よりも秀麗な笑顔が皆を元気にし、明転させた――。
「では、カルマ。 向かいましょう」
こうなったミシェルを止められない、いや、止められる者がそもそもいない。
この街を発展させたのは領主カルマと謳われているが、その陰で彼女の支えが無ければ今頃カルマとて自分の領主としての才能のなさに冒険家に戻っていただろう。
それほど、成功者の裏には女性が関与しているものだ。
「わ、分かった、ミシェル。 その代わり一つ約束してくれ。 無理をするのは絶対に禁止だ」
「分かったわ。 約束するわ」
カルマがミシェルの身体を支え、もしもの時の為に2人メイドと1人産婆が付いて、王宮行きの馬車に乗った――。
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