プロローグ
本年もよろしくお願いします。
国の優秀な若者が15才から三年間学ぶ教育機関、王立アカデミーの卒業式を明日に控え、今日は謝恩会を兼ねてのダンスパーティー。皆いつもの制服ではなく華やかにドレスアップし、卒業の喜びを胸に話に花が咲いている。
今年度の卒業生には王太子殿下がいらっしゃるので、なかなか盛況な会になるところ……だった。
「アメリア・キース侯爵令嬢!今日をもってお前との婚約を破棄する!!!」
その王太子が突然、淑女かつ賢女と評判名高いアメリア様を指差して、こんな発言しなければ。
「とうとう来たわ……」
私、ピア・パルメザン伯爵令嬢はその様子をそっと壁の花になり見守る。学生であり研究者という微妙な立場ゆえにこの場には友人もなく、安定の一人ぼっちだ。護衛のマイクはどこかにいると思うけれど。
手にあるかわいいグラスの中身はノンアルコール。酔いのせいで正確な判断が出来ないとまずい。
王太子殿下の横には金髪で大きなピンクの瞳の学生がふるふると身体を震わせながら立っていて、殿下の袖をチョンと摘んでいる様子が庇護欲をそそる。
ああ、懐かしい。ゲームそっくりだ。彼女は確かにキャロライン。地味な私とは……そうそう月とスッポンって言うんだ、こういうときは。
そしてその後ろには、名だたる名家のご子息たち……騎士団長の息子、医療師団長の息子、アカデミーの算術の教師が立ち並び、アメリア様がいかにそのピンクの学生……キャロライン・ラム男爵令嬢をいじめたか、だらだらとバラバラと統率なく言い募る。
そう、だらだらとバラバラと……
ゲームでは、宰相の息子がピシッと箇条書きで読み上げたんだけどなあ。
「ふーん。ピアの予言どおりになったね」
「きゃっ!」
私の横にいつのまにかその宰相の息子、ルーファス・スタン侯爵令息が全く隙のない様子で立っており、私のグラスを取り上げて、一口で飲み干し、ペロリと行儀悪く、唇を舐めた。
「偉いねピア。アルコールじゃない」
「な、な、な、なんてことを!」
同じグラスで飲むなんて家族でもありえない!あまりに親密な行為!有り体に言えばこの世界では……ベッドの中の行為だ!
黒のスーツという地味な装いに反した派手な侯爵令息の行動に、中央の婚約破棄とざわめきが二極化する。そして男の装いのなか唯一の色であるポケットチーフが私のドレスと共布であることに気がついた者は息を飲む。
その色は男の瞳の色、エメラルドグリーン。私の薄灰の瞳とはミスマッチではないだろうか?まあ私の無個性の黒髪は何にでも合うと信じたい。
婚約者同士という私たちの関係は特に秘密でもなく、国王陛下の許可もいただいているけれど、二人こうして人前で並び立つのは、入学前の王宮での子ども世代のお茶会以来かもしれない。あのときもすぐ帰ってしまったし……。
グラスを机にコトリと置くと、ルーファス様はしなやかなしぐさで私を前世風に言えば壁ドンし、私の逃げ道を塞いだ。
ルーファス様は山賊の出る広大な領地を治めるだけに剣技も手を抜かれることはなく、いわゆる細マッチョな体躯で、私よりも頭一つ大きい。最近フィールドワークに出られず研究室にこもりきりの私はどうあがいても逃げられない。
鼻筋の通ったキレイな顔が上から覆い被さり私の耳元に口を寄せる。周囲の女子生徒がきゃあ!と奇声を上げる。彼のすっかり低くなった声が、囁く。
「ピアの予言どおり、王太子殿下は婚約破棄をした。でも私はあの場にいない。ピア、賭けは私の勝ちだね」
ルーファスはクスッと余裕の表情で笑い、我が物顔でいつものように私の額にキスをした。
……どうしてこうなった?
お年始がわりの軽い、定番の話ですが、よろしければ連休の暇潰しに読んでください(*^▽^*)
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