中2-夏(6)
正直、怖い…。
でも、この状態から抜け出すには、この方法が一番。
携帯電話を再度見る。
『僕たちは君の味方だよ』
味方なんていないと思っていたから、この一文は嬉しかった。勇気をもらった。
だからこそ、巻き込むわけにはいかない。
でも…返信くらいはいいよね…
翼は壱真から連絡が来ないことに、モヤモヤしていた。
「もう1回メール送るか」
「返事が来るのを待った方がいいと思うけど」
「いつになったら、返事が来るんだ」
「さぁ…」
「お前、悠長すぎるぞ」
諸星、さくらにも壱真に連絡をしたことを伝えた。
諸星は壱真をいじめていた先輩のことを更に調査しているよう。詳しいことが分かったら、教えるとのことだ。
「あれ以上詳しいことってある?」
「あると思うよ。内藤君をいじめた背景とかね」
「理由が理由だったら、その先輩殴りたい」
「殴るのはマズい」
「分かっているけどさ…」
杜都の携帯電話が鳴った。
「内藤君から返事が来たよ」
翼は杜都の携帯電話を覗き込んだ。
『連絡してくださってありがとうございます。勇気をもらえました』
「これは連絡してくれてありがとうって意味?」
「それだけじゃない気がする…」
杜都はそう言って携帯電話を操作してポケットにしまった。
「内藤君を探しにいくよ」
「えっ?」
翼は急いで杜都の跡を追った。
「嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
「翼君は、内藤君が行きそうなところ、知らないよね?」
「知るわけないだろ」
翼はある場所を思い浮かべた。
「一か所心当たりあるわ」
「たぶん、僕も同じ場所が浮かんでいるよ」
「先輩の家」
「同じ答えだね。案内して」
2人は急いでマンションに向かった。
「何で、向かったんだろ…」
「前に会った時、一人で行動すると言っていただろ。それが、一人で先輩に立ち向かうことじゃないのかな」
「俺らに言えばよかったのに…」
「僕らを巻き込みたくないって言っていたからね…」
二人はマンションに着いた。
「乗り込むか…」
「一旦待とう」
「時間がない。乗り込む!」
翼は、杜都を振り切って、勢いよく先輩の家のドアを開けた。何人か、男子がいた。その中には壱真もいたが、誰かに殴られたのか鼻血を出していた。
「誰だ、お前?」
この中では年が上そうな男子。こいつが、壱真をいじめていた先輩。
「内藤君の友達だ」
壱真以外の男子が笑った。
「ウソだろ」
「こいつに友達はいねえぞ」
薄汚い笑い声は、翼を苛立たせるのに十分だった。
「この野郎…」
翼は殴りかかろうかと思ったが、何者かが阻止した。
諸星だった。
「余計なことはするな」
小声で翼に伝えてから、諸星は壱真の方に向かい、ハンカチで鼻周りを拭き始めた。
「誰なんですか?」
明らかに年上の諸星に対し、気おくれしている先輩をはじめとするいじめっ子たち。諸星は、嫌々ながらも、先輩たちに顔を向けた。
「お前のことは調べた。かつては内藤君と同じように暴力的な先輩いじめられていた」
「何でそれを…」
図星だったのか、先輩は動揺し、落ち着かない態度で諸星を見た。
「調べたって言ったろ。その頃のうっぷんを晴らすかのように、今度は後輩をいじめる」
「その話しは、止めてください…」
諸星は無視して、後輩たちに尋ね始めた。
「何で、こいつと一緒に内藤君をいじめているのかな」
後輩たちは黙っていたが、この空気に耐えられなくなったのか、一人が口を開いた。
「いじめないと先輩から殴られたりするからです」
「内藤なのは、反発しそうにない同級生を探してほしいと言われたからで…」
「僕たちも本当はいじめたくないんですが、先輩に言われて仕方なく…」
「断ると殴ってくるので…」
「分かった」
諸星は、壱真を背負って部屋を出て行こうとした。
「このことは、学校に伝えておく」
先輩たちがうろたえだした。
「学校には…」
「警察の方が良かったかな」
「嫌です」
「もういじめないので、黙ってほしい」
「勝手なことを言うな…」
諸星がドスの効いた声で言った。誰もが喋れず、凍った空気が流れる。
諸星が部屋を出て行ったので、翼を急いで跡を追う。
「諸星さん、何で来たんですか?」
「天王寺君から、連絡があってから」
「おかげで、いじめの証拠が手に入りましたし」
杜都はそう言って携帯電話を取り出した。
「さっきの様子は携帯電話の動画で記録したよ」
「どうりで、静かだと」
「諸星さんが来てくれたから、誰にも気づかれずに撮影が出来ました」
「その動画を学校側に見せれば、何かしらの対策はするだろう」
「あっ、あの、みなさん…」
壱真が口を開いた。
「巻き込んでしまって、ごめんなさい」
「謝る必要ないだろ。こっちこそ、来るのが遅くなったのに…」
「何で、来てくれたんですか?」
「何でって…」
「僕たち友達だからだよ」
「それで、十分な理由になるだろ」
壱真は嬉しかったのか、諸星の背中で泣き始めた。
「…ありがとうございます…」
「このまま、さくらさん家に行くよ。もう連絡してあるからね」
「用意周到だね」
「翼君みたいに、いきなり乗り込むわけにはいかないから」
「…まずかったか…」
「翼君らしいと思って」
「どういう意味?」
「そのまま」
壱真と諸星がクスッと笑う。翼も納得してない部分はあるが、壱真の様子に安心したのか思わず笑った。