中2-夏(5)
あの後、諸星はマンションに侵入するも、誰もいなかったとの連絡が来た。翼は残念がった。
「何か手がかりがあれば…」
そのあと、諸星からの連絡は途絶え、翼と杜都は家に帰った。
翌日。部活帰りの翼に、諸星からメールが届いた。マンションの住民に聞き込みし得た情報が載せられていた。
いじめている先輩は、父親、母親、兄(高校生)の4人兄弟。両親も共働きで、兄もコンビニでバイトをしている。日中は、先輩しかいなく、友達も連れてくることも多いらしいが、住民曰く素行は良くなさそう。最近では、後輩らしき人達も出入りしているとのこと。
諸星は同じ内容のメールを、杜都、さくらにも送信していた。翼は、二人と話し合いたかったが、さくらは就活関連で忙しく、諸星もバイトということで、杜都と話しを進めることにした。
姉の樹志花がバイトで家にいないとのことで、杜都の家で話し合うことにした。
「ここは、直接乗り込んで、内藤君をいじめないように言うべきじゃないのか」
「直接言うにしても、相手を刺激しないやり方を考えないとね」
「何で?」
「同じ中学ならともかく、僕たちと内藤君は別の中学校。他校の生徒に言われたところで、いじめを止めるとは思わない。それに…」
「それに?」
「いじめが酷くなる可能性もある」
翼は黙った。直接言うことしか頭になかった。そのあとのことも考えるべきだった。
「いじめが酷くなるのは嫌だな…」
「俺だって同意だ」
「内藤君の体に青あざやタバコの跡が複数あっただろ」
「うん」
「担任の先生に見せたけど、いじめられているのは気のせいだと言われただろ」
「うん」
翼は担任の対応にふつふつと怒りが沸いてきた。あのとき、いじめであることを信じていたら、壱真が苦しまなかったのに。
「気のせいじゃないことを証明出来れば…」
「んっ?」
「いじめられていることを証明するんだよ」
「どうやって?」
「これまでのメールを先生に見せる」
「それだけで信用するか?」
「しないだろうね」
翼は少々イラついた。
「他にないのかよ」
「いじめている場面を動画に撮って見せる」
「おい」
「その場合、内藤君の協力なしでは無理」
「いや、そもそも…」
「言っておくけど、これは最終手段だよ」
「最終手段?」
「この方法は僕も反対だ。証明とはいえ、内藤君が傷つくのは見たくない」
「俺も一緒だ」
「本当にどうしようもないときにしか使わないでおこう」
「…だな」
「僕、昨日考えたんだけど、内藤君に連絡して直接会うのはどうかな?」
「会うのか?」
「ここで話し合っていても、内藤君が何を望んでいるか分からないし、直接聞いた方がいいのかなって」
「でも、昨日、一人で行動したいって…」
「内藤君も言ってたでしょ。他人である僕たちを巻き込みたくないって。でも、本当は僕たちと一緒に立ち向かいたいんじゃないかな」
「そうなのか…」
「一人で立ち向かえるほど、内藤君は強くないと思う」
「…一人で行動するには勇気がいるよな…」
翼は壱真の死んだ表情を思い出す。
「連絡するか…」
翼と杜都は、壱真にメールを送るために、一緒に文面を考えることにした。