中2-夏(2)
互いに自己紹介(アルバイト店員は諸星英輝と名乗った)し、翼は尾行した理由を話した。
「内藤君を追ってて見失ったけど、同じ中学校の制服を着た子がいるから、その人たちを尾行してたら、このマンションに入っていったと…」
「諸星さんは、何でここに?」
「明らかに尾行している様子の横田沢君を見たら、何かあったのかと思ってね」
「…分かりやすかったですか?」
「うん」
翼としては、完璧に尾行したと思っていただけに、少々ショックを受けた。
「6階で降りたのは分かったけど、どこの部屋に行ったのかは分からない…」
「1戸ずつ尋ねますか?間違えたら謝ればいいですし」
「内藤君がここにいるかも分からないのに」
「だから、尋ねてみるんじゃないですか。いなかったらその時はその時っす」
そこへタイミングよく翼のケータイが鳴った。諸星に断って出てみると杜都からだった。
「尾行はどう?」
「それがさあ…」
翼は今までのことを杜都に話し、マンションにいることも伝えた。
「で、今から1戸ずつ尋ねようかと思って…」
「丁度よかった」
丁度よかった?
「何もせずにその場から離れて」
「何で?」
「嫌な予感がするから」
翼はムッとした。
「嫌な予感がするだけで離れろと」
「そう」
「前にも忠告したけど、深く突っ込まない方が良い場合があるよ。今回のように」
「杜都…」
翼ははっきりと告げた。
「俺も嫌な予感がするけど、今回は深く突っ込む」
「…翼君…」
「忠告ありがとな。電話切るぞ」
電話を切った翼を、諸星が無表情に見ていた。
「…言いたいことがあるんですか?」
「考え方が友人にそっくりだと思って」
「友人?」
「友人というより親友と言うべきか…んっ」
ドアが開いた。中から壱真が出てきた。
1軒ずつ尋ねる必要がなくなったぞ。
翼は一瞬喜んだが、壱真の表情を見て喜びを引っ込めた。
表情が死んでる。
壱真が翼たちに気づかず、エレベーターのボタンを押す。程なくして、扉が開いた。乗り込む壱真。急いで翼たちも乗り込む。
「何があったんでしょうか?」
翼は小声で諸星に声を掛けた。
「分からないが、良いことじゃないことだけは確かだ」
1階に着き、エレベーターを降りた壱真の跡を追うことにした翼たち。壱真はボ~としていたのが、電柱にぶつかり倒れた。
「大丈夫か?」
翼が声をかけるも反応なし。心配して顔を覗き込み驚く。泣いていたのだ。
「諸星さん…」
「顔に傷が出来てるね。俺の家で手当てしたいんだが、地下鉄に乗るしな…」
「俺の家でもいいけど少し歩く。ここの近くに住んでいる人だと…」
一人いた。翼のいとこの横田沢さくら。実家は山形だが、大学に進学し、仙田で一人暮らし。ここからだと翼の家よりも近い。
急いで連絡する翼。さくらはすぐに電話に出た。
「翼ちゃんから電話が来るなんて珍しい」
「急ぎの要件があってね。今から、さくらちゃん家に行ってもいい?」
翼はこれまでのことを話す。
「いいけど、来るのは翼ちゃんと内藤君って子だけ?」
「あと一人、諸星さんっていう人も一緒にいるんだけど…」
「せっかくだから、全員で来たら」
「いいの?」
「いいの、いいの。救急箱出しておくからね」
翼はさくらにお礼を言って電話を切った。
「諸星さんも、来ていいって」
「…帰るつもりでいたんだけど」
「いいから、いいから。遠慮しないで。さくらちゃんもいいって言ってるし」
「…僕も帰っていいですか…」
壱真が小声で言った。
「ケガしてんだから、手当してもらった方がいいだろ。さくらちゃんが救急箱出しておくっていうしさ…」
「でも、ご迷惑じゃ…」
「内藤君。ここはお言葉に甘えよう」
諸星が優しく言った。壱真は少し考えてから首を縦に振った。
「それじゃ、さくらちゃん家に向かいましょう」




