中2-夏(1)
夏休みといっても、お盆期間以外の平日は部活に充てられた。
「午前中だけっつても、毎日だと嫌だよな」
「ホント!せめて、宿題を無くしてほしい」
「夏休みなんだから、休ませろ!」
「そうだ!そうだ!」
部活練習が終わった翼たちは、夏休みの部活に対しての文句を言い合っていた。
「翼は、旅行とか行くの?」
「たぶん、行かない。お前は?」
「沖縄」
「いいなぁ~」
「いいよなぁ。俺なんて、山梨のばあちゃん家に行くんだぞ」
「県外に行けるだけでもいいじゃん」
「山梨って何があるんだ?」
「武田信玄」
「信玄餅」
「ほうとう」
「ほうとうって何だ?」
会話が盛り上がっていた翼たちは、コンビニにアイスを買うことにした。
「ジャイアントコーンあるかな?」
「俺、アイスの実」
「ガリガリ君!」
コンビニに入るとき、別の中学校の制服を着た男子とすれ違う。その男子に見覚えのある翼。
「あれって…」
「あの制服は仙田青葉第三中のだよ」
この一言で翼は思い出した。
あのときの、万引き少年!名前は確か…忘れた!
「ここら辺で三中に通う人はあまり見かけないよな」
翼は嫌な予感がしていた。
「ごめん。俺、アイスいらないや。先に帰るわ」
「えっ、翼?」
翼は跡を追うことにした。
「内藤壱真君だよ」
「よく覚えていたな」
「忘れられない出来事だからね。当事者の翼君が忘れていた方が驚きだけど」
「名前を覚える余裕なんてなかったから仕方ないだろ」
翼は追っている最中、杜都に連絡した。杜都は、万引き事件について、しっかり覚えていた。
「で、君は追ってどうするの?」
「…分からん」
「何も決めてないのに追うの?」
「嫌な予感がするんだ」
「…前にも、忠告したけど…」
壱真が後ろを振り返った。翼と目が合う。
「やっべ、気づかれた…」
壱真は、足早に先を行く。
「電話、切るから。連絡するなよ」
「つば…」
翼は尾行に集中することにした。
壱真はいくつかの角を曲がり、翼をまこうとしていたが、そうはさせぬ、と必死で追いかける。だが、何回目かの角を曲がったとき、見失ってしまった。
「ど~こに行ったんだが…」
翼は仙田青葉第三中の制服を着た男子たちを見かけた。
「これは…」
壱真と関係があるのではないかと思い、その男子たちの跡を追う翼。男子たちは尾行されていることに気づかず、とあるマンションに入っていった。気づかれないように、中に入ると、男子たちはエレベーターに乗っていた。6階で止まった。男子たちは6階で降りたのだろうか。
翼はひとまずエレベーターで6階に上がることにした。扉は閉めようとしたとき、人が入ってきた。マンションの住民かと思ったが、別の場所で会ったことがある気がする。
「あのときは、巻き込んですまなかった?」
「あのとき…」
「4月の万引き騒動で、店長から共犯と疑われていただろ」
翼は思い出した。
あのとき、壱真を捕まえたアルバイト店員だった。