中2-春(3)
店長をはじめ、翼たち5人はスタッフルームに移動して、少年から話しを聞くことにした。
本当のことを言えば、翼は帰りたかったが、無関係だと証明しなければ共犯だと思われる。少年から無関係だと証言を待つしかない。
少年は怯えた表情で俯いていた。
「まずは、名前を聞かせてもらおうか」
店長の顔が怖すぎるのか、少年は更に怯える。
「店長の顔が怖いせいか、怯えて答えづらそうです」
諸星がさりげなく言う。
「元から顔が怖いんだから、しょうがない。文句を言うなら、諸星が質問しろ」
「分かりました」
諸星が少年に向き合う。
「君の名前は?」
「内藤壱真です」
「学校は?」
「仙田青葉第三中学校です」
「学年は?」
「中2です」
淡々と話しを進める諸星。
「何で、腕時計を盗もうと思ったの?」
「…無意識に出来心で…」
「出来心?」
「…魔が差したという方が近いというか…」
たどたどしい喋り方に、翼はだんだんとイラついてきた。
「勝手に盗んでおいて、魔が差したというのはないのでは」
店長もイラついていたのか、壱真を責めた。
「腕時計を盗んだことによって、店側に迷惑をかけることを考えなかったのか」
「…思いました。盗んでごめんなさい」
「謝れば警察はいらない」
警察という単語に、壱真の目が更に泳いだ。
ここで、杜都が壱真に声をかける。
「内藤君だっけ?」
「あっ、はい」
「僕は天王寺杜都。彼は横田沢翼」
「…はい」
「僕たち二人、中学2年生で仙田青葉第一中学校に通っているんだ」
この場で自己紹介した杜都に、店長が何かを言おうとしたが、諸星が止める。
「君が万引きしたせいで、彼が共犯として疑われているんだ」
「あっ、ごめんなさい。僕のせいで…」
「内藤君は翼くんと関係がないよね」
「えっ」
壱真はキョトンとした表情になった。
「ここの店の店長が、君が万引きをしたのは、翼くんが指示したからじゃないかと疑っている」
「ち…ち…違います。万引きは僕の魔が差したことが原因です。僕一人の犯行です」
「翼くんにぶつかったとき、腕時計を彼の手のところに置いたのは?」
「逃げるのに夢中だったので気が付きませんでした…本当にごめんなさい」
杜都は店長の方を向いた。
「翼君は万引きとは無関係ですので、僕たちは帰ってよろしいですか」
「…そうだな。万引き犯扱いして申し訳ない」
店長が頭を下げた。
翼は無罪が証明されたものの、心の中に何かが引っかかっていた。
二人は昼食を食べにマクドナルドにいた。
「あいつ、どうなるんだろうな」
「翼君、気になるの?」
「…杜都は気にならないのか」
「特には」
あっさりと言った。
「…冷たい奴だな」
「赤の他人に興味は持てないよ」
「…そういうことじゃないだろ」
「翼君に一つ忠告」
杜都が翼に真顔で向き合う。
「深く突っ込まない方が良い場合があるんだよ」
「…へっ」
「突っ込む前に、引き返した方がいいよ、今回は」
「何で?」
「何となくね」
杜都はそう言ってポテトを食べた。翼はモヤモヤとしながら、チーズバーガーを口に入れた。