[調]02/3X:無と白と黒のコミュニティ
いきなり評価、誠にありがとうございます!
<雰囲気が壊れたら申し訳ありません…!>
先のディベートが終わる頃には日も沈み始めていたので、
さりげなくユキトは『あ、そろそろ遅いんで続きはまた今度…』と
無理やりスルーしてしまおうと試みたが。
「そ・う・は・い・き・ま・せ・ん・わ・よッ!?」
ユキトの腕に「むにゃぽよぉん♪」と胸が当たるのもお構いなしに
今にも噴火しそうな顔のテミスはガッチリにも程があるホールドをしてくる。
『ちょ、おま…!』
「吉岡さん! ユキエ! ランディ! とにかく彼らをあそこへ連行しますわ!」
「だからテミス僕の苗字呼びはやめてくださいって…!」
「あのぅユーゼス様? それよりは彼を抑える役を代わるべきでは…?」
今朝からの諸々で色々と麻痺しつつもやはり健全な青少年のユキトの困惑も
お構い無しにテミスは彼を近くに見えた意識高い系っちゃ高い系御用達な
大手コーヒーショップでもあるカフェへ引きずるように連れて行く。
「あー…すまん。悪いようにはしないから俺らに付いて来てくれるよな?」
「別にそれは構いませんけど…」
「え、ちょ…私、今月お小遣い厳しいんだけど」
「俺もこの間色々買い過ぎ食い過ぎでちょっと…」
「あー心配すんな…俺とかテミスとか金色だプラチナに黒いカードも持ってるし
普通に完全オゴリだから遠慮とか一切合財大丈夫だから…だからマジで頼む…!
テミスが不完全燃焼だと俺マジで彼女のお父上様に首とかを割と物理的に…!」
「うげ…」
「…マジかよ」
「それ絶対断っちゃいけないやつじゃないですか…」
この中では一番大人のランディが申し訳無さそう…というか切実に
ご丁寧に合掌も添えて深々~と90度も下回るレベルで頭を下げてくるので
あれからテミス達に対する悪感情自体は綺麗サッパリでもあったヨリコ達は
何となく年相応に動揺するユキトをコッソリ撮影してみたりしながら
ランディの先導に応じることにした。
そんなわけで八人は普通の学生にはちょっと敷居の高いカフェへ場所を移す。
「この話はキッチリつけさせてもらいますよ!」(ユーゼス)
「このまま逃がしてなるものですか!」
『…チッ…結局煙に撒けなかった…ああ、帰りたい』
「「Are you listening to me?! The hell you are!?
(お前絶対にこっちの話し聞く気ないよな?! マジで無いよな!?)」」
『英語で言われても困るんだけど』
「こ、こんのジャッ…!」
「テミスそれ以上はいけません!」
「オーケーオーケー…お前ら…ほら、抹茶クリームフラペチーノのVサイズ。
これ飲んでクールダウンしようぜ?」(ランディ)
『「「「「「「「「ふぅ…」」」」」」」』
色々ヒートアップした一部は特に冷たい飲み物が染み渡っただろう。
「ぬわぁんもうドッと疲れたぁ…」
「ナナミ…なんかその…アレだぞ、その言い方?」
「アレってなによシンジ?」
「いや、それはほら例の」
「あ、それより二人ともホラこれ見て見て…?」
「「うっわ、まじか…うっわくっそやべーwww」」
正直ヨリコ、シンジ、ナナミの三人は自分達から切り出す必要が
何となく無さそうな気がしたので先ほどの録画を再生して見始めたようだ。
そのやり取りはユキトの視界に入っていたが、
そちらに注意を向ける余裕なんて存在しなかった。
「まず…先に言うべき言葉があるんじゃありませんこと?」
「その通りですね。えーと多分、無のコミュニティの…」
『コミュニティ…? また横文字か…俺の英語は万年及第点だぞ』
「あのぅ…えっとその…普通な感じの…」
『君に普通って言われると凄く悲しくなるんだけど』
「ふぇっ!?」
「「だからそうじゃなくてっ!!」」
『…今日は今朝から散々だな』
「「………#####!!!!!」」
「あーあーブレークブレーク…! 全然話が進まねぇから!
あとテミス、ユーゼス…ここでスマホ構えても意味無いって…
…そんなわけだからこの俺、ランディ・ラインズマンが一旦この場を仕切る!」
またもヒートアップし始めたテミス達の肩を気持ち強めに叩き、
三人が場の視線などにも気づいたのも相まって沈黙した隙に
ランディはカフェ店員さんに黒いカードと小切手を見せ
「請求額はここに幾らでも記入して下さって構いませんので、ちょっと
騒がしくなりますが平にご容赦、ご勘弁ください」と素早く
大人の対応(?)をしてから八人のテーブル席へ舞い戻ってくる。
「ったく…! お前らホントマジで有り余ってんな…!
まぁいい兎に角仕切り直し…な? あんまり酷ぇと俺も俺で
社会人として相応の対応をせにゃならなくなるぞ★」
大人の世界の修羅場を潜り抜けたであろう「とても恐良い笑顔」のランディ。
流石にテミスも顔の赤みがすっかり抜け落ちたようだ。
「さて…とりあえず改めて自己紹介しようぜ…って言っても俺とテミスは
今更なんで…まずはそこの…モb…ああいやバッタライダーの少年から」
『(バッタライダー…?!)……普代ユキト…』
「平良ヨリコです。ユキトくんと同じ□△校の二年生です」
「私、三部ナナミ。以下同文」
「ナナミに同じく園田シンジ…」
「いいね! バッタライダーのユキトに妖精のヨリコ、あと候補の
ナナミにシンジだな! オッケイ! んじゃー次は吉岡と宵崎な?」
誰であろうと苗字呼ばわりは嫌なのか、金髪少年のユーゼスは
不愉快そうな表情を隠そうともせずに口を開く。
「僕はユーゼス…何度も聞いてるだろうから苗字は絶対に言わないし
何が何でも苗字呼ばわりはさせませんよ? 良いですね?」
「あ、えっと…宵崎ユキエなのです…アノニマス校の一年生です」
『(アイツはブロンド吉岡で良いな)………』
「キミ…今、最ッ高に不愉快なコトを考えたんじゃないか?」
『………┐(´-`)┌』
「せめて言葉を返したまえよ!?」
「ユーゼス様…真に受け過ぎなのでは?」
「仕方が無いのですわ、ユキエ…吉おk…ユーゼスはそういう人でしたから」
「また苗字を…というかまだ一ヶ月未満なのに過去形なぬがががッ!?」
「ハイハイやめやめ、お前らはマジで柔らかくなってくれや…んで、だ…
まぁこれまでのやり取りを色々思い返したり云々で分かったが…
お前らは契約者の初心者で"無のコミュニティ"の一つと考えて良いんだよな?」
ランディの言葉が切れた瞬間を見て挙手するのはヨリコ。
「あの…初心者だからこそ聞きますが…さっきから何回か出てた
無…? ともかくコミュニティとは一体何でしょうか?」
「えっ」「えっ」
手元の飲み物の入ったコップをそこそこに口に傾けてから、
ランディはヨリコの質問に答える。
曰く、コミュニティとは友好的、利害の一致的含め協力関係にある
契約者同士によるチーム…をより強い意味合いで表す呼称だそうで、
主にテミスらを筆頭にした白、その白と基本的に敵対関係にある黒…
そしてどちらにも属さない、属す気がない無の三系統で大まかに分かれており、
白と黒は兎も角、時折利害の関係から無も交えた
事実上三つ巴の相関関係がずっとずっと昔からあるそうなのだ。
「ちなみに大規模になると…若干定義がフワフワ~ってな感じで
ちょっと曖昧化してるんだが、最初にテミスが宣言してたように
"クラン"を名乗ることが許され…? 義務…? まあ兎に角そうなってる」
『何で曖昧なんだろう…』
「歴史ですわ」
『歴史…?』
何気に手元に菓子類があったであろう皿を何枚か重ねているテミスが
スイーツで溜飲が下がった為か微笑みながら説明し始める。
「先ほどランディが言ったように、異界存在契約者の白・黒・無のコミュニティは
私達が確証を得ているだけでも軽く6000年前から存在してますわ」
「六千年ねぇー?」
ストロー咥えて頬杖をつきながらナナミが相槌を打つ。
「下手をするとさらに昔…それこそ混沌的なので
一々言いませんけど…それだけ時間を掛けているせいか、
私達も黒の連中も曖昧化しつつある現状には困っていますの」
「まぁ…ケンカにしろ競争にしろ…長期戦は心身共にキツイよな…
そこに加えて大事っぽい部分が曖昧化じゃ余計に」
「だねー」
「だからこそ!」
ダァン! とテーブルを叩いて起立するテミス。
「恥を偲んで私達は…まぁ黒も形振り構わず…
無の陣営に丁寧に協力を求めようと動いているわけなのです! ですから!
貴方達ッ! 私達のクランないし属コミュになりなさい!」
『お断りします。っていうか最初に俺らを攻撃しようとしたよな?』
「そうそう最初からそうやって素直に…即否定からの難癖!?」
再び入店前の感じにループしそうだったので素早く止めに入るランディ。
「あー…テミスまだ完全に落ち着いてなかったな…ったく普段は
遊んでる最中のニートレベルで大人しいのに…」
「ランディさん。流石にニートは酷く無いっすか?」
「俺だって最初はそう思ったよ★###www」
スキンヘッドではないが超短髪なのでランディの頭には青筋ビッキビキである。
もちろん「とても恐良い笑顔」のままである。
「そう、なんですか…あは、は…」
しっかり水分とってるはずだがヨリコの笑い声は乾いている。
「まぁ今回は即否定で有り難いですね。僕は……正直言って…
ユキト…キミの態度…いや人格からして好きになれない…いや嫌いですね」
『奇遇だな俺も…おっとすまん建前が』
整っているからこそ歪むと恐い顔のユーゼスを悲しげな顔で静止するランディ。
「あーでもまぁ比較的穏便に済みそうで良かったぜ。これでもしも
ユキト達が黒寄りだったらヤバかったぜ。何しろ相手は新参者の契約者だ。
うっかり一撃で残存魔力全損とかでもなっちまったらこっちも酷い風評被害で
それこそ6000年ワンモアの始まりなんて可能性あったし」
「…やはり、エルシーが言っていたように…その…」
冷気さえ感じそうな無表情になったランディは間髪入れずに答える。
「死ぬ。しかもただ死ぬわけじゃねえ…契約者以外には存在さえ認識されねぇ…
存在さえ無かった事に成りかねないんだ。言っとくが、ジョークじゃねえぞ」
『「「「…ッ!」」」』
>>>
カフェを出たときにはすっかり暗くなっていた。
「忠告と言いますか…警告と言いますか…今後も無のコミュニティと
見なされるのであれば…気をつけなさいな。無コミュは白黒と違って
横も縦もロクに繋がってませんから…無コミュ同士は
白と黒よりも潰し合いが恐ろしいですのよ」
「ユキトは嫌いだけど、僕はキミ達まで嫌いじゃないです。まぁ、
ユキトであっても誠心誠意頼み込むのであれば、僕達白コミュは
いつでもキミ達のクラン加入ないし属コミュ加盟を歓迎します」
「えっと…いつか一緒に行動できたら…その時は…!」
「んじゃな…それ関係で連絡したかったらさっき渡した名刺の宛先に宜しく」
何時の間に手配していたのか間違いなくベンツ的な高級車に
何の臆面も無くテミス達はホイホイ乗り込んで走り去っていった。
『「「「………」」」』
テミス達の高級車が曲がり角に入って見えなくなるまで四人は無言だった。
『さりげなく恫喝…された気がする』
「何か…ユキトくん…今朝で大分変わった気がする」
まさか? と返そうとしたらスマホから聞いたことの無い音が鳴る。
見ればヨリコのスマホも同じで、二人で並んで画面を見れば…
「AR異界存在」アプリのSNSフォームが起動していた。
<その辺、説明してやろうか?>[ファズゥズ@Phjazuz]
<聞きたい~? 全然おkだよー★?>[エルシー@El=Sidhe]
それぞれのフォームにファズゥズとエルシーのメッセージが一緒に出ていた。
<どういうことだ>[幽鬼刀@Yukito]
<あれ、何かお前の真名違う気がする>[ファズゥズ@Phjazuz]
<俺にもお前みたいな時があったんだ神に呪われろ>[幽鬼刀@Yukito]
<契約者のお前が言うと意外と洒落にならんぞ>[ファズゥズ@Phjazuz]
<なにそれ(呪い返しが)こわいw>[エルシー@El=Sidhe]
<悪いんだけど、真面目に説明して>[依子@Pompomcake☆Twinkle♪Star]
<お、おう…>[ファズゥズ@Phjazuz]
<………あ、うん……うん…?>[エルシー@El=Sidhe]
<…末尾IDはSIMだから改変不可なの>[依子@Pompomcake☆Twinkle♪Star]
<そうか…何だかんだで大変だな、ニンゲンは>[ファズゥズ@Phjazuz]
<古今東西相も変らぬ宿命なのかねぇー…★?>[エルシー@El=Sidhe]
ユキトはヨリコを見るが、彼女の顔は画面から動かない。
<で、俺が変わったという妙な件なんだが>[幽鬼刀@Yukito]
<初回契約のメリットその1:感情改革>[ファズゥズ@Phjazuz]
思わず眉根を潜めたユキト。ヨリコも少し首が傾く。
<さっきのテミスとかいう子は例外っぽ…ん???>[エルシー@El=Sidhe]
<契約者は敵対者との戦いを全ては避けられねぇ>[ファズゥズ@Phjazuz]
<だから本人の性格に応じて感情が改革される>[エルシー@El=Sidhe]
<……だから…なのか…? 俺が自然と連中を煽ったのは>[幽鬼刀@Yukito]
<ああ、何故かあの金髪二人は煽り耐性低いのが謎だが>[ファズゥズ@Phjazuz]
<大人しい者は攻撃性、激情家は冷徹性を底上げ★>[エルシー@El=Sidhe]
<…今あの二人の件を納得したわ>[ファズゥズ@Phjazuz]
今度は目だけヨリコを見る。彼女は口に手を当てて小刻みに震えていた。
<悪く言えば文字通り人格が変わる>[ファズゥズ@Phjazuz]
<控えめに言ったら度胸が百倍★?>[エルシー@El=Sidhe]
<つーか、それくらい無いと心が弱いヤツに不公平だ>[ファズゥズ@Phjazuz]
<それこそ夕方の顕現間も無く抹殺とか洒落にならない>[エルシー@El=Sidhe]
『…つまり契約者になった以上、どうあっても戦わざるを得なくなる…のか』
横は見なかったがヨリコが自分を抱きしめて縮こまったのが感じ取れた。
ユキトの呟きが聞こえたらしいシンジとナナミは口をパクパクさせつつ絶句。
<初回契約のメリットその2:心技体能力ボーナス>[ファズゥズ@Phjazuz]
<これもその1に似たようなヤツね。素質があれば…>[エルシー@El=Sidhe]
<洟垂れガキでもボケ老人でも…ってな>[ファズゥズ@Phjazuz]
<契約者本人同士の殺し合いでも基本差は埋まる…かね>[幽鬼刀@Yukito]
<ぴんぽんぴんぽーん!>[エルシー@El=Sidhe]
「ざっけんなよ!? ホントに殺し合えってのか?! 何のために?!」
「ちょ、シンジ!?」
本来であればユキト自身も吠え立てていただろうが、その感情は
腹の底でジリジリと炭火のように燃え続けるだけに留まっていた。
「こ、わいのに…恐くない…う………あ…!?」
<ホントにヤバくならない限り…激情はスッとレジスト★>[エルシー@El=Sidhe]
<慣れたくないけど…嫌でも慣れさせられるんだな>[幽鬼刀@Yukito]
<それに、嫌なことばかりじゃねえぞ>[ファズゥズ@Phjazuz]
<そー★ そー★ 魔力値あるでそー★?>[エルシー@El=Sidhe]
<それが、何なの>[依子@Pompomcake☆Twinkle♪Star]
まるで数時間のように感じる数分の後、再びメッセージ。
<戦って勝つ、新しい異界存在と契約>[ファズゥズ@Phjazuz]
<他にもあるけどー★? 兎も角一定値貯めるとねー★?>[エルシー@El=Sidhe]
表示文字数限界に苛立ちが隠せなくなってきた四人。
<現世…地球世界での常識を超越した願いが叶うぞ♪?>[ファズゥズ@Phjazuz]
<条件範囲は魔力値毎にあるけどねー★?>[エルシー@El=Sidhe]
<まず666ならホンモノの現金の完璧な複製が出る>[ファズゥズ@Phjazuz]
<これゾロ目になる度だねぇ★ 金で買えるモノはぁ…?>[エルシー@El=Sidhe]
<一切合財何も気にせず手に入れられるな?>[ファズゥズ@Phjazuz]
<1000…四桁更新ごとに…生命保険★ク★ヒ★ヒ★>[エルシー@El=Sidhe]
<ストック分だけ魔力全損時の死亡無効化♪>[ファズゥズ@Phjazuz]
<五桁更新はぁ…★? ナント下位者の死生大自在★★★>[エルシー@El=Sidhe]
<無自覚精神支配のオマケ付き♪ 肉壁万歳♪>[ファズゥズ@Phjazuz]
<肉欲も忘れてるぅ★イ★ヒ★ャ★ヒ★ャ★ヒ★ャ★>[エルシー@El=Sidhe]
<少しルール違反だが、この戦いを制すれば…?>[ファズゥズ@Phjazuz]
<世界は統べて★汝のモノ★>[エルシー@El=Sidhe]
目を逸らしたいのに逸らせない。得体の知れない強制力が
初回契約したユキトとヨリコのみならず、後ろの候補二人も釘付ける。
<故に、我が主よ>[ファズゥズ@Phjazuz]
<戦え、欲望のままに>[エルシー@El=Sidhe]
<集めよ。魔力を>[ファズゥズ@Phjazuz]
<勝ち取れ。全てを>[エルシー@El=Sidhe]
<奪われたくなければ、先に奪え>[ファズゥズ@Phjazuz]
<戦うも戦わぬも汝らの自由はある>[エルシー@El=Sidhe]
<生か、死か>[ファズゥズ@Phjazuz]
<選択そのものは強制しない>[エルシー@El=Sidhe]
<自由自在は汝らニンゲン…業魔族の生来の特権>[ファズゥズ@Phjazuz]
<力を以って業魔の王となるも由し>[エルシー@El=Sidhe]
<慈愛を翳して人の神と成るも好し>[ファズゥズ@Phjazuz]
<選び給へ>[エルシー@El=Sidhe]
<悩み厭へ>[ファズゥズ@Phjazuz]
片目からは涙が、逆向きの口角は釣り上がる。
<総ては、初めに契約した時点で、確約なり>[ファズゥズ@Phjazuz]
<総ては、初めに契約した時点で、確約なり>[エルシー@El=Sidhe]
<そしてそれを初めの始めに選びしは俺自身の魂の随に>
<そしてそれを初めの始めに選びしは私自身の魂の随に>
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ふと、気が付いたとき…ユキトは一人、自宅の前に立っていた。
スマホを見れば、さほど遅い時間でもなかった。それこそ
普段遊びに出かけた時に帰ってくる時間帯だった。
ふとタップしてみた「AR異界存在」アプリは、SNSフォームが
どんなタイミングだろうと開けるようになっていた。あの魔物…
いや相棒にしなければならない異形とも普通にメッセージで会話できた。
当然だが、ヨリコともメッセージをやり取りできる。
<…逃げ場は死に場だな>[幽鬼刀@Yukito]
<…や、る…しか…ないの…?>[依子@Pompomcake☆Twinkle♪Star]
<あんだけ煽っておいて言うのも何なんだがよ>[ファズゥズ@Phjazuz]
<まずは雑魚狩り、ないし屈従で魔力のお布施だね★>[エルシー@El=Sidhe]
<妖魔のが言うように殺さなくても大丈夫な場合もある>[ファズゥズ@Phjazuz]
<命を折るよりは心を折る方が楽々だよね>[エルシー@El=Sidhe]
<とりま四桁特典の生命ストックが手に入るまでは>[ファズゥズ@Phjazuz]
<懐柔でもおk★>[エルシー@El=Sidhe]
<まー序盤から逃げ続けなけりゃ良いんだよ>[ファズゥズ@Phjazuz]
<そ★れ★な★禿★同★>[エルシー@El=Sidhe]
『ただいま…』
―おかえり~…! ……ユキトー? 今日はアケミちゃん来てるわよー?
何だかハルトと一緒に貴方だけに相談したいことがあるんですってー?
アケミとはユキトの従妹:新島暁美の事であり、
ハルトは実弟の春斗の事である。何故かは深く考えたく無かったが、
そう再確認しないと、本当に自分自身が変わり果てる気がしたのだ。
『とりあえず…先に晩メs…晩御飯…』
―じゃあ早く手洗い・うがいに着替えて二人も呼んできなさいな?
『あぁ……うん…分かったよ……………kぁ…あ…?』
リビングの前のドア向こうから聞こえてくる声は…家族の誰だったろうか…?
胃が捩れそうで、思いの外そうでもないというモヤモヤを感じながら、
反芻したくないが反芻しなければならない…。
そう頭の中で独白しながら、ユキトは自分の部屋のある二階へ足を運んだ。
―ねえハル君…ユキ君…信じてくれるかな?
―兄さんは…少なくとも話は聞いてくれるよ。もしかしたら兄さんも…
―ユキ君も…? してる、かも……契約、を?
ユキトは足音を殺して近寄り、自室ドア前に立ちつくした。
―そうであって欲しい、そうで無ければ良い…兎に角…無視さえされなきゃいい。
―そう、だね……あっ…ナベリウスが…えっ……えっ…?!
―…ボクが契約したタムズ=アドニスも……な…?!
自分の部屋の中で、今の段階では同類が確定した実弟と従妹が、
最初に契約した異形と何をやり取りしているのだろうか…
敵対か、恭順か、それともまた別の…?
考えるのを止めたユキトはアプリのSNSフォームにメッセージを残した。
<どうやら俺の弟に従妹も契約者になっているようだ>[幽鬼刀@Yukito]
<それも両方初回契約を終えているらしい>[幽鬼刀@Yukito]
<あぁ…クソが>[幽鬼刀@Yukito]
ユキトは自室のドアノブを握り締める。ミギギリリィ…! という鈍い音は、
明らかに前とは比べ物にならない筋力が付与されているのが確認できた。
[調]02/3X:無と白と黒のコミュニティ<END>
妖精…大袈裟な広義では妖精も鬼神であり悪神である。