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激斧熊谷  作者: おしりファルコン
1/1

プロローグ

ときは古代中国。


悪徳で知られる役人が番兵もろとも殺された。

一晩かけて行われた殺戮の翌朝、役人宅で犯人の男が捕らえられた。

男の名は熊谷くまがい。動機は、三日前、役人に嫁いだ妹の処遇が不服だったため。


熊谷は屠殺業を営む。村では好青年で知られた。

人一倍の図体で力持ちだった。


熊谷の殺した番兵のほとんどが眉間に斧を撃ち込まれ一撃で倒されていた。

さながら牛馬の屠殺であったという。

殺し損ね、襲いかかってくる番兵も、やはり殺し損ね、暴れまわる牛馬に比べれば赤子のようだった。

中には剛の者もいたが、腕や脚の関節など、やはり牛馬に比べれば赤子のようで、解体は手間だが容易かった。


一晩かけて47人を殺害した動機は、嫁いだはずの妹の首が文書と共に自宅に届いた際、

「やはり下賤の者、愛妾が匂い敵わぬとて」と書かれていたため、熊谷は激昂し役人宅に押し入った。


そうして引っ立てられた熊谷の裁判が開かれる。

役人殺しの大事件のため裁判官に県令。しかし県令が何を聞いても熊谷は一言も話さなかった。

来る日も来る日も頑なに口を閉ざしたままの熊谷。

その一方で助命嘆願に訪れる村人は後を絶たず、中には「叶わぬなら連座して死罪になる」という老人までいた。

それでも一向に口を開く気配のない熊谷。

あきれかえった県令は聞く、

「このままでは貴殿を県令に不敬の者として断罪しなくてはならない。」

「しかし貴殿ほどの悪漢を、そのような罪状で処断はできぬのだ。ところでなぜ処断を恐れぬ?」

熊谷は言う、

「私の膂力は牛馬を殺すトサツ業をして培ったもの、それでどうあれ人を殺した」

「職で得た力で暴を振るった者は断罪されて然るべきと心得る」

それを聞いた県令は大口をあけて一息吐き、一呼吸してから、言った。

「鍛えぬき、誉を抱いた力を振るい、治世の障りを除いた者を断罪できるはずなかろう」

「しかし貴殿が納得いかぬのなら、血と汗が滲んだ斧は我が預かる」

そして真新しい斧を熊谷に与え、またよく営むべしと不問にした。


悪徳役人の悪業は計り知れず、熊谷の妹のような殺人は「不敬につき」の一言ですべて執り行ってきた。

県令もみかねていたが、不法でなければ裁くことができず、最近では体調不良を理由に会おうともせず、

かと言って番兵たちも侮れず、なんとか殺せぬものかと悩んでいた。そんな県令に熊谷は功労者だった。


村に戻った熊谷は斧を手にとっても、もう牛馬を殺す気になれなかった。

そもそも妹を食わせるために懸命に働いていた。妹を殺され、妹を食わすために鍛えた体で復讐した、熊谷は空っぽだった。

やがて屠殺業を辞して、釣りや耕作で自給自足の暮らしをはじめた。


しかしそれが3年も続くと、噂を聞いた県令が熊谷を呼んだ。

「斧を返すぞ熊谷、我の身辺警護を任せる」

これまでの経緯を知る県令は熊谷を登用した。

職で得た膂力を殺戮に使ってしまったことが、心のどこかに影を落としていると、県令なりに考え、再起になればと思った。

もっとも腕の立つ純朴な警護人はかねてから欲しかった。


身辺警護を任された熊谷は3年かけてなまった身体をよく鍛え、よく県令に尽くした。

死に体の自分に水を向けてくれた恩だけは返したいと思ったが、次第に県令を主人と思うようになる。

熊谷の背には二つの斧があり「年季の違う二つの斧、立派なものだ」と人から言われると「どちらも県令様より賜った」と答えたという。


図体の大きな熊谷は乗馬が苦手であり、あまりにも馬と呼吸があわず、もはや馬では馬がへばるので牛で訓練をしたという。

「なんだ熊谷、乗るほうが好きか!」と牛に乗る熊谷を県令はからかった。

そのかいあってか熊谷の乗馬は上達し、県令はやがて四六時中、熊谷を連れまわしては、任地を見て回った。

熊谷は身辺警護で付き従っては、県令の指図で悪徳役人を排斥した。


やがて役人達は県令が訪れると知ると、仮病と偽り面会を断るようになった。

噂が噂を呼んだ。県令は鬼を連れ歩き、些細なことで処断してまわると広まってしまった。

中には県令に賄賂を贈って見逃してもらうよう図った者もいた。

県令は熊谷に命じた。

「賄賂の多寡は悪徳の多寡だ。桁の違うものをよく調べよく戒めよ。」

熊谷はそのような警察行為を県令から直々に命じられた。


しかしそれが2年も続いた日、県令は倒れる。原因は毒。遅行性の毒を盛られ危篤に至るが、医師も病気と区別がつかず。

犯人は隣県の県令、悪徳役人達がこぞって賄賂を贈り、茶席にて奸計は成功した。


つづく

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