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第7話:初めての逃走

どもどもべべでございます!

今回もご投稿~。どうぞ、お楽しみあれ~

 

 状況は好転とは言い難く。

 されど、暗雲は立ち込めていない。

 どう転がるかわからなくなった、というのが正しいだろうか?


 数の上で有利だと判断すれば、調子に乗るのが小鬼ゴブリンだ。そんな奴らが現在2体。

 対してこちらは4人……頭数が上回れば、警戒から攻め手は緩む。

 その間に、『めがね』は馬車の中に潜り込み、商人の女性の安全を確保する事に努めた。


「だ、大丈夫でしたか?」

「ヒッ……あ、ぇ……あ、ありがとぉぉ~!」

「わぷ! お、お礼はまだ早いですから! 抱きつかないで!」


 馬車の中から戦況を見てみれば、陣形が変わっている。

 冒険者の男と『あらくれ』は互いに離れ、小鬼2体を片方ずつ相手取る形になっていた。

 拳を構える『あらくれ』の背後には『けもなー』がおり、魔法を使って小鬼を牽制しつつ、召喚獣であるツノちゃんをけしかけていた。


 対し、男は純粋な1体1。

 ツノちゃんと『あらくれ』、そして『けもなー』がそろってようやく相手取れている子鬼を相手に、怪我を負いながらやりあえているのだから大したものである。


「お姉さん、この馬車の中、武器あります?」

「え、えぇ、もちろん! 防具はないけど……私、武器専門の業者だし……」

「うぅん、それは残念ですけど……とりあえず、何か後方から撃てるようなものありますかね? 僕も援護しなきゃ」

「あ、だったらこれがいいわ!」


 商人の女が馬車の奥から引っ張り出してきたのは、一式揃ったクロスボウだ。


「一番安いやつだけど、貴方が扱うならこれくらいの方が良いと思うわ」

「あ、ありがとうございます!」


 華が咲いたような笑顔でクロスボウを受け取り、早速矢をつがえる。

 さほど力を込めなくてもよいものだった。まぁ、それすなわち威力はないのだろうが、確かに『めがね』の力ではこのくらいが妥当だろう。


「よし、あとはなんとか逃げないといけませんね……」

「何か、手があるの?」

「えぇ、今なら行けるはずです」


 現状、子鬼は2体。

 対し、こちらは消耗したEクラスが1人。残りは頭数にも入らないビギナーと低ランクの兎1匹。

 唯一、ギリギリで『あらくれ』が立ち回れる程度の戦闘力こそあるが……それでもなお、戦闘員は2人だけという事だ。

 こんな状況で、まともに戦ってもさらなる犠牲者を作るだけ。だからこそ、逃げるのがベター。

 そして、逃走の鍵を握っているのは……


「頼みましたよ……『ばくし』さん」




    ◆  ◆  ◆




「チッ、そろそろヤベェか……!」

「キャホホホホホ!!」


 奇声を上げる子鬼の猛攻をしのぎつつ、男は悪態を漏らす。

 先程のカウンターでスキルも尽きた。あとは純粋な剣の腕で凌ぐしかない状況だ。

 新人共の援護は正直ありがたいが、それをあてにはし過ぎないほうが良い。むしろ、どうやってあのメンツを逃がそうかと考えてしまう。


「あうぅ、もう魔法、打てません~……!」


 背後からは、劣勢の声色が響く。

 子鬼の攻撃を『あらくれ』が仲間を庇う事で戦線を維持していたが……魔法使いである『けもなー』のMPが尽きた事で、攻め手がなくなってしまった。

 このままでは、子鬼のペースに飲まれてしまいかねない。


「ギキィィィィ!!」

「…………!」


 振り下ろされる子鬼の棍棒を、『あらくれ』が防ぐ。彼の体は生傷でいっぱいになっていた。

 もし彼が普通の戦士だったらば、この段階で行動はできなくなっていただろう。……とはいえ、現象そう長くない未来で動けなくなることは必至なのだが。


「皆さん! 馬車の近くに寄っておいてください!」


 ふと、馬車から声が響くと同時に、一本の矢が飛来してくる。

 その矢は男と対峙していた子鬼の腕に刺さり、子鬼が情けない悲鳴を上げる。


「『めがね』くん~! もういけるの~!?」

「はいっ、ようやく整ったみたいです!」

「…………?」

「『あらくれ』さん~、はやく馬車へ~」


 先程馬車に駆け込んでいた、眼鏡の少年が声をかけていた。

 その手にはクロスボウが握られている。おそらく、この矢も彼が放ったものだろう。


「おらっ!」


 子鬼が怯んだ所で、男は足を狙って剣を振るう。

 血しぶきが舞い、子鬼が地面に転がったのを確認すると、息つく間もなく『あらくれ』が抑えている子鬼に斬りかかった。


「なんか知らんが、手があるんなら馬車に駆け込め!」

「…………っ!(会釈)」

「お兄さん! 貴方も、早く!」

「ギリギリで飛び込む! それまではこいつをおさえとくさ!」


 男がつばぜり合いをしている間に、これ幸いと新人達は馬車に乗り込んでいった。

 特に『あらくれ』は満身創痍だ。顔面蒼白になった『めがね』が、慌てて医療キットを取り出しているのが視界に映る。

 あの様子ならば、命に別状はないだろう。


「よーし、行くわよアンタ達!」


 ふと、馬車の前方で別の声が響いた。

 男は思う。あれは確か、うちの取り巻きに食って掛かっていた獣人の女だと。


「よーしよし、いい子ねっ、さぁ行きなさい!」


 なるほど、そういうことかと笑い、男は子鬼を蹴り倒す。

 やっこさんがバランスを崩すと同時に踵を返し、馬車の中に体を滑り込ませ……それと同時に、馬車が動き出した。最高のタイミングだ。


「自分たちを囮にして、仲間に馬車を任せてたのかい……大胆な真似をシやがる」

「ふぅ……うまくいきましたね~」


 そう、『けもなー』がいなかった理由がこれだ。

 他の面々が子鬼を抑えている間に、馬を落ち着かせ、馬車を走らせられる様にする。一番大事な仕事である。


「ンッギッィィィィィィィイイ!!」


 起き上がった子鬼達は、地団駄を踏んで馬車を見送っていた。

 もはや追いつけぬと悟っているのか……追いかけてくる様子は、ない。

 まさに、大勝利と呼べる結果だと言えよう。

 

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