第5話:初めての冒険
どもどもべべでございます!
最近は涼しくなってきましたね~。台風近づいてますけど~w
けどまぁめげずにご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~
薬草摘み。それは冒険者にとっての登竜門。
常に張り出されている理由は1つ。ポーションの材料になるからだ。
ポーションは傷の回復力を促し、痛みを緩和させる魔法の薬。その材料として、薬草である【ナオリ草】は欠かせない。
冒険者のいる町では、このポーションの需要は常に最高値で、消費量も留まることを知らないのである。
特に、リネンスタは研究を生業としている者が大多数を占める町だ。ナオリ草だけでなく、他の薬草も通用より高値で取引されることはザラではない。
「だからこうして、初心者冒険者は町の近くでナオリ草を探すんですって~」
「ふぅ~ん」
リネンスタ付近、林にて。
依頼を受注した4人の冒険者は、草木をかきわけえっちらおっちら薬草摘みに勤しんでした。
「……けど……あれは私、どうかと思うわ」
「うふふ、楽しそうですね~」
薬草と雑草の区別がとんとつかない『ばくし』と『けもなー』。2人の視線の先には、白衣の少年が覗える。
「ふはぁ、凄い……これ、【パララ草】だ。麻酔に使える……ふ、ふふふ、こんなに群生してるなんて……! あぁ、そこには【アカギレゼンマイ】まで……! ふ、ふへ、えへぇ……!」
その少年……『めがね』は、まったく関係ない薬草を摘んでは鼻息も荒くブツブツとなにかしらをつぶやいている。
彼のスキル、【薬物知識】と【薬物鑑定】の効果により、『めがね』は薬草摘みのスペシャリストと言っても過言ではない存在となっていた。
しかし、それは脱線しなければ、の話である。
「ねぇ『めがね』ー! 目的の薬草は見つけたのー!?」
「えへへ……ち、ちょっとまってください。このアカギレゼンマイを採取し終わったら探しますから……これだけあれば、止血剤がいくつ作れるかな……」
「んもーっ、アンタじゃないと薬草がどれだかわかんないんだからねー!?」
「…………(もくもく)」
「フシッ」
脱線組がイチャコラしている間にも、『あらくれ』とツノちゃんがソレらしき薬草を摘んでいたのがなによりの救いであろう。
まぁ、『めがね』の行動もまた、自分のクラスに則った正しい行動ではあるのだが……。
「ふぅ……すみません、おまたせしました」
「『めがね』くん、楽しそうね~?」
「ハイッ。薬の材料を自分で取りに来れるなんて、最高です! あ、ナオリ草はギルドに出す分とは別にいくつか取っといてくださいね!?」
「嫌よ。全部金に変えるに決まってるでしょ?」
「僕なら格安でポーション作れるんですよー!」
確かに、『めがね』はポーションの作成が可能なクラスではある。しかし、レベルから言ってそこまで強力なポーションが作れるわけでは無いだろう。
とはいえ、新人冒険者のお財布事情を考えれば、自分たちで使う分だけを格安で手に入れられるというのは相当なアドバンテージだ。
「…………(これこれ)」
「あ、これはナオリ草ですねっ。『あらくれ』さん、凄いです!」
「…………(グッ)」
冒険者。それは魔物と戦い、ダンジョンに潜り、日々を戦いの中で過ごすと言っても過言ではない職。
しかし、蓋を開けてみればそういった華のある瞬間は、実力者にしか訪れないのだとわかる。
現に、先立つものが無ければ装備も買えないのであっては、必然的にこういった地味な仕事しかやることがないのだ。
これが現実。これが日常。
冒険者とて、全てが殺伐としているわけがないのであった。
「はぁ……僕、もう一生薬草摘みで生計立てて行けばいいかなぁ……」
「ちょっ、ダメよ『めがね』!? 私達の事も考えなさいよ!?」
「そうですよ~『めがね』くん~」
「あ、あう、すみません……」
特に危険もない現実に、思わず本音をぽろりしてしまった『めがね』は、女性陣から総スカンを食らうことと相成った。
まぁ、いつか首が回らなくなるのは目に見えている。より厳しい仕事に従事しなければならない時というのは訪れるだろう。
故に、今はこの偽りの平和を満喫するべきなのであった。
◆ ◆ ◆
「…………(どっさり)」
あれから数刻。
結局4人は『めがね』の指導のもと、大量の草花を採取するに至った。
その総数は、全員の荷物入れがパンパンになるくらいだと言っていい。
「ふわぁぁぁ……【マナ草】まで採れるなんて、最高の結果ですよぉ! これは魔力回復のポーションになるんです。ナオリ草よりも珍しいから、体力回復のポーションよりも高いんですよ!」
「つまりお金になる訳ね!」
「うぅん……まぁ、僕や『けもなー』さんが魔力を回復できるんですけど、今は売っちゃった方がいいいでしょうねぇ」
結果は上場。これならば相場よりも高く売れることだろうと、『めがね』は確信していた。
すぐにでも帰って、スモーキンにより許可が出た実験室でポーションを作ろうと妄想を膨らませている。
「は~い、それじゃあリネンスタに戻りましょうか~」
「…………(こくこく)」
これ以上採取が出来ないのであれば仕方がない。
4人は特に何も考えず、林を出てリネンスタへの帰路に付くことにした。
ここは、町が視認できるほどにほど近い場所だ。おまけに街道だってある。迷いようがない上、基本的に魔物もでない。
出てきてせいぜい玉兎(ゆちゆちと歩き、コロコロと転がる種を指す)くらいだ。故に、薬草摘みはわりと安全な出稼ぎと言えるのである。
「…………(ぴたっ)」
「わぶっ! なによ『あらくれ』ぇ、鼻打ったじゃないっ」
しかし、そんな街道付近で不意に、『あらくれ』が動きを止めた。
全員を腕で静止し、じっとしている。
「……『あらくれ』さん~?」
「どうし……ん?」
次に気づいたのは『ばくし』、次いで『めがね』であった。
ツノちゃんは割と最初から警戒していたのか、『けもなー』の足元から離れない。主を守ろうとしているらしい。
「…………(ちょいちょい)」
手招きしながら、『あらくれ』が近くの茂みに体を隠す。
3人も特に不満を言うでもなく、ソレに付いていった。
その、一瞬後である。
「キャァァァアアアアア!?」
絹を引き裂く悲鳴とは、まさにこの事であろう。もったいない。
更には馬の嘶きまで聞こえてきた。
「な、なに、どうしたってのよ?」
「誰かが……襲われてる?」
「え~? こんな町の近くでですか~?」
4人は、茂みから顔を覗かせてその光景をよく見ようとしている。
するとわかるのだが……そこそこに離れた街道にて。馬車が一台止まっていた。
その馬車は、なにやら3人の人影に取り囲まれており、2人の男性と思しき人物が武器を片手にそいつらと対峙している。
「……小鬼」
それを見ていた『けもなー』が、ポツリとつぶやく。
「劣悪な環境でも生きていける、別名【人類の天敵】。繁殖力、成長速度、共にトップクラスの……魔物です~」
「え、え……な、なんでそんな奴らがココに?」
「それはわかりませんが~、二人では少々厳しい相手なのでは~?」
的確な『けもなー』の言葉に、『めがね』はキュッと心臓が握られた気分になる。
今回は、戦いなどまったく覚悟して来ていない。そのヌルい精神が、たった今押しつぶされたのだ。
「……ねぇ……どうするのよ……」
「……お助けしに行かないんですか……?」
『ばくし』と『けもなー』が、視線を巡らせる。
彼女たちは、この状況で、あの馬車を助けるつもりなのだ。
「いや……無理だよ、流石に……」
「でも、あの人達ピンチですよ~? なんとかしてあげなくちゃ……」
「そうよ、薬草摘みなんてしてる場合じゃないわ!」
とはいえ、この状況で助けに言ったところで、何ができると言うのだろう。
4人は、本当の本当に駆け出しの冒険者でしかないと言うのに。
「う~ん……あのねぇ、『ばくし』さん、『けもなー』さん。僕らが加勢した所で、あの現状は打破できないと思うんだ。心苦しいけれど、ここは見捨てて逃げないとこっちも危ないんだよ?」
「そうですか? うちには『あらくれ』さんもいますし、ツノちゃんも頑張るって言ってますよ?」
「フシッ!?(首を思い切り横にブンブン)」
「そうよ『めがね』。それに、小鬼からアイツら助けたらお礼貰えるかも!」
「……あのですねぇ……」
確かに、『あらくれ』ならば戦闘は可能だろう。
彼のクラスは【バーバリアン】。鎧を着ずに戦う事で真価を発揮するクラスだ。
その筋肉は、例え刃物だろうと容易に通さない、天然の鎧であると言える。
しかし、残りの3人はそうではないのだ。
「僕らはっ! まだ武器も防具も揃えられていない、「底辺の雑魚冒険者」なんです! 小鬼なんて相手にしたら、死んじゃうんですってばー!」
ここにきて、『めがね』は目尻に涙を溜めていた。
死ぬ。そう口にしてしまったが故の決壊。
初めての冒険。それは……己の弱さを認識するものである。