プロローグ:冒険者、降り立つ(なお戦わないもよう)
どもどもべべでございます!
今回から新しい作品をご投稿! チートなし俺つえぇなし、転生なしの昔ながらの昭和なファンタジーを書いて行きますよー!
チートないしお金もないから、全っ然ストーリー進んでいきませんが、まぁ現実なんてそんなもんですし?
どうぞお楽しみくださいませ~!
とある世界。とある国の、とある街道にて。
物語の幕は上がる。
町から町へと繋がれた一本道の石畳は、人々が明日へと生きる為に作られた血と汗の結晶であるといえるだろう。
何人もの人間がこの道のために石を運び、身重の妻や食わせるべき我が子の笑顔を想像しながら敷いていったのだと思えば、ここを通る度に先人への感謝が止まらなくなることは受け合いだ。
天気は快晴。小鳥も歌う。
周りを見渡せば、自然豊かな緑の平野が広がって、通る者の心を癒やしてくれることだろう。
平野を彩るように配色された、深緑の藪から顔を覗かせる玉兎(ゆちゆちと歩き、ポンポンと転がる種の兎を指す)が、子供を連れてお散歩している光景を眺めるのも最高だ。
たとえここが、危険極まるモンスターの彷徨く世界であると言えども、ゆとりを忘れてしまってはならない。
……が、しかし。しかしである。
「キャアアアアアアア!?」
そのゆとりも、絹を引き裂かんばかりに高らかな悲鳴を聞いてしまえば失せてしまうというものだ。
つい先程まで視点の主役となっていた、一本の街道。その上を、一台の馬車が走っていた。
実用性を重視した大きめの荷馬車だが、細々とした所に小奇麗な装飾が伺える。おそらくは、どこかの商会が管理している物だろう。
本来ならば馬を操る行者が存在するその馬車の上には、誰もいない。そして、馬車を引く2頭の馬は戸惑ったように動きを止めてしまっていた。
ドッキリでも仕掛けられたかのように、哀れにわたつくお馬さん達の視線の先には……人体構造上、向いちゃいけない方向を見て倒れている男性が1人。
どうやら、彼がこの馬車の行者さんだったようである。……否、行者「だった」という方が正しいか。
「こ、来ないで! 来ないでぇ!」
「お嬢、顔を出しちゃあいけやせんぜ!」
「あぁ……まさか、小鬼が町の近くで網張ってるたぁな。予想外だぜ」
馬車の後ろ、荷物と人の出入り口となっている空間からは、3人の男女が確認できた。
2人の男は武器を取り出し、警戒を露わにしている。しかし、もう1人の女性は武器も持たずに泣きわめいているばかり。
まぁ、わかりやすく、「商人さんと護衛のお2人」といったところであろう。
「ギキキキィ!」
「キキキ!」
「キャホーォウ!」
そんな彼らの馬車を取り囲んでいるのは、全身をドブのような色合いの緑に染め上げた、醜悪な外見のチビ共。
理解ある読者諸君であるならば、その名を聞いただけでイメージが湧くであろうファンタジーの代名詞。
小鬼。まさに永劫の誉れある敵役の名を恣にする、下品下劣下衆の3Gが揃った高物件である。
「チッ! 『けびん』、お前は馬車をなんとか走らせてくれ! おそらく『とごっと』はもうダメだ。俺がコイツらを抑えてる間に、馬の所まで行くんだ!」
「い、いくら兄貴でも、1人で小鬼3匹となんて……勝てるわけがねぇですぜ!?」
「馬鹿野郎。2人だろうと一緒だよ! だったら生き残る目が高い手に出ねぇといけねぇだろうが!」
作戦タイムは、一瞬。
剣を構えた男が馬車を背後に小鬼を引きつけ、『けびん』と呼ばれた男が隙きを伺う図が出来上がる。
2人の決死の表情を見る限り、どうやらこの世界における小鬼とは、それなりのヒエラルキー上位者らしい。
こうなっては、まさに生きるか死ぬか。
彼らの明日を賭けた戦いが、今始まったのであった。
◆ ◆ ◆
さて、熱い展開ではあるが……この物語の主人公は、実は彼らではないのだ。
いかにもな雰囲気に期待させてしまったのならば、深く謝罪の念を送らせてもらおう。
だが、安心して欲しい。物語の主人公は、確かに今、この辺りにいる。
よくよく探してみるとしよう。
(……ねぇ……どうするのよ……)
(……お助けしに行かないんですか……?)
先程、玉兎の親子が出てきた藪を覚えておいでだろうか。
その藪の中。草木がソコソコに集まる場所にて。小さな小さな声が響いている。
どうやら、お目当ての存在が見つかったようである。
(いや……無理だよ、流石に……)
(でも、あの人達ピンチですよ? なんとかしてあげなくちゃ……)
(そうよ、薬草摘みなんてしてる場合じゃないわ!)
藪の中を覗いてみる。
そこには、4人の男女と、1匹の角兎(のそのそ歩いてぴょんぴょん跳ぶ、角の生えた種の兎を指す)がいた。
全員が全員、藪の中から一点……馬車を見つめているのがわかる。
(う~ん……あのねぇ、『ばくし』、『けもなー』。僕らが加勢した所で、あの現状は打破できないと思うんだ。心苦しいけれど、ここは見捨てて逃げないとこっちも危ないんだよ?)
4人の内、栗色の髪の少年。最も背の低い……メガネと前髪で目元の見えない彼が、諭すように小声で言う。
(そうですか? うちには『あらくれ』さんもいますし、ツノちゃんも頑張るって言ってますよ?)
(フシッ!?(首を思い切り横にブンブン))
(そうよ『めがね』。それに、小鬼からアイツら助けたらお礼貰えるかも!)
ぽんのりした雰囲気の、『けもなー』と呼ばれた金髪の少女が指差すのは、『あらくれ』と呼ばれた覆面姿の巨大な筋肉ダルマ。
強気な風貌の『ばくし』と呼ばれた赤髪のケモモフ女性は、出来もしない妄言を隠そうともしない。
そんな2人の姿に、『めがね』と呼ばれた少年は『あらくれ』と視線を合わせて、互いに軽くため息をついた。
(……あのですねぇ……)
まったく、どうしてこうなってしまったのか。
今頃自分は、自宅の研究所で楽しい楽しい薬品開発に努めていたはずだというのに。
まったく、どうしてチームの半分がおバカなのだろうか。
彼女達ももう少ししっかりしていれば、こんな立場には落ちなかっただろうに。
少年『めがね』は、大きく息を吸って肺に貯め込む。
全世界に呪いあれ。負の感情と共に、フラストレーションを遥か彼方にぶん投げるための弾丸を装填して……一気に放った。
(僕らはっ! まだ武器も防具も揃えられていない、「底辺の雑魚冒険者」なんです! 小鬼なんて相手にしたら、死んじゃうんですってばー!)
けして見つかるまい。だがどうしても叫びたい。そんな想いが奇跡となり、星々の彼方まで響く小声となって昇華していく。
そう、彼らは冒険者。それも新参中の新参にして、明日を生きる金すら持ち合わせていないダメ人間。
後に伝説も生み出さない、一束いくらの一兵卒。
そんな彼らに焦点を当て、彼らの人生を見守るのがこの物語。
題して……『すちゃらか冒険者のスローな冒険記』。
こんなダメダメな彼らを応援してくれるという、慈しみの精神に満ち溢れた稀有な読者諸君がいるならば、どうぞ次のページをめくってほしい。
説明しよう。何故彼らが冒険者となったのか。
説明しよう。この世界における、冒険者とはどんな立場であるのかを。