失敗作
僕はある日不思議な夢を見た。
僕は一面真っ白な空間の中に居て、目の前に光の塊がいた。
その光が僕に話しかけてくる。
「子供達よ。私はお前たちを甘やかしすぎていたようだ。お前たちは失敗作だった。私はお前たちを失敗作としてつくってしまった責任を取ろうと、お前たちが暮らしやすい世の中になるよう、手助けをしてきた。しかし、今、世の中は私が思い描いた平等なものとはかけ離れてしまった。私はこれより、真に平等な世の中の実現のために動く。そのことにより、お前たちはこれまで通り暮らすことはできないかもしれない。これからの世の中でどう暮らすかは、お前たち自身で見つけ出すのだ。」
そこで僕は目を覚ました。
不思議な夢だとは感じたが、僕は夢のことは深く考えず、朝の支度を整えて仕事に出かけた。
その日は特に変わったこともなく、僕は家に帰ってきた。
その夜、テレビを見ているとあるニュースが入ってきた。
「特集のコーナーです。今日の特集は新しい給与体系についてです。障害者差別解消法が施行され、様々な障害に対する関心が高まりました。そんな中、ある企業では障害を持った人の能力を活かそうと新しい給与体系を実施しています。」
この特集で取り上げられていた企業は僕が勤めている会社とも取引がある、某大手企業だった。
特集によると、その企業が実施している給与体系は能力別基本賃金制というらしい。その内容をまとめると、「障害者」「一般」双方の従業員に能力値測定試験というものを受けさせ、一人一人の能力を能力値という値で数値化する。その結果により従業員は最も自分の能力が活かせる部署に配属される。そしてその部署で最も重要視される能力の能力値に対応した固定賃金が従業員ごとに設定され、業績をあげれば、さらに賃金がそこに上乗せされる。
この制度の狙いは、能力の評価と固定賃金によって、従業員の自信とモチベーションを高めることで、従業員がより良い業績を上げるようになり、結果的に企業全体の業績が上がることらしい。
次の日、僕が出社すると部長から能力値測定試験を受けてから普段の仕事をするよう言われた。来月から僕の会社でも能力別基本賃金制を導入するらしい。あまりに急な決定に僕は少し違和感を感じていた。
翌月から、僕の勤める会社で能力別基本賃金制が実施された。結局、僕は部署の異動はなかったが、数人の同僚が異動となり、また他の部署からも数人が僕の部署に来たようだった。ちなみに僕の固定賃金はこれまでの月給よりすこし少ないくらいだった。入社一年目で減給とは、ついていない。
その後、部署内で固定賃金のことがけっこう話題になり、同僚たちと話をした結果、障害者枠で入社した従業員のほとんど、特に発達障害者は固定賃金が以前の月給より多くなり、逆に一般枠で入社した従業員のほとんどは固定賃金が以前の月給より少なくなっていることがわかった。
それから能力別基本賃金制を導入する企業は増えていき、年が明ける頃にはほとんどの企業がそうなっていた。
さらに年度が変わった頃、障害者の雇用率が急激に上がったとテレビで見た。背景には能力別基本賃金制の導入により、障害者枠で入社した従業員の業績が飛躍的に上がったことがあるとされていた。
さらに数年後には、中小企業を中心に、障害者枠で入社した従業員が社長や副社長になるということが増えていた。
これほどに世の中が変化したのを見て、僕は夢のことを思い出していた。そしてあの夢の光はもしかすると神様だったのではないかと思い、僕は教会に行き神父様に夢のことを話した。
「なるほど、あなたは神の啓示をうけたのかもしれません。だとするとこれは神が私たちに課した試練なのでしょう。そして、よく聞いてください。あなたが神の啓示を受けたのなら、きっとあなたは神の試練を乗り越えるのに重要な位置にいるのでしょう。あなたはそのために動くべきです。」
そう神父様は僕に言った。
あれから5年、俺は教会に行った後、真に平等な世の中を作ることを目的とした組織を作った。組織にはいろいろな人間が集まってきた。障害者、そうでない者、俺と同じ目的をもつ者、俺の考えに共感した者、俺と同じように神の啓示を受けた者もいた。そして今、組織は十分世の中を変えられる規模になった。
俺は今、世の中を変える作戦を実行しようとしている。
まずは永田町に乗り込み、国の中枢をたたく、そして国の主導権を握る。次は、全国の失敗作どもを徹底的に粛清し、この国の仕組みを根底から崩す。そして、新しい世の中を作るのだ。
「さあ、革命の始まりだ!!」
あの日、俺は革命のための戦いを決行した。
結果は失敗だった。俺たちは官僚どもが一度に国会議事堂に集まる日を狙い襲撃を決行した。俺たちは役立たずの政治家どもを半数ほど殲滅した。だが、そこで到着した自衛隊や警察の特殊部隊の総攻撃にあい、襲撃部隊はほぼ壊滅し、俺を含めた数人は逮捕された。
裁判の結果、国会議事堂襲撃の首謀者として、俺には死刑判決が言い渡された。
(なぜだ?俺は神の啓示を受け、神が語った理想の世界の実現のために革命を起こした。しかし、それにも関わらず革命は失敗し、俺は今ここにいる。正義は俺たちではなく、国にあったというのか?)
そこまで考えたところで、俺は新しい疑問を感じた。
(そもそもなぜ襲撃が失敗した?俺はあいつが言った襲撃が絶対に成功する日に合わせて決行したはず。だが結果として襲撃は失敗に終わった。なぜだ?あいつの能力が未熟だったから?それともあいつは嘘をついていたのか?いずれにしてもこのまま終わるわけにはいかない。たとえ、俺の命がここで終わっても、俺は幽霊になってでもこの世界を変えるのだ。)
「フフ、私が視た未来の通りになったわね。リーダーは私のことを信用しきってたから、私が嘘をついてるとは思いもせずに、考えた通りに動いてくれたわ。まあ、この未来も私の目には視えていたけど。」
革命団のアジトで、リーダーの椅子に座りながら瞳をはじめとした組織幹部はこれからの組織について話し合っていた。
「しかし瞳、もしリーダーが生霊をとばしてきたり怨霊となったらどうするつもりだ?お前のことだから、何か策は講じてあるのだろう。」
そう真司が指摘すると
「朱里ちゃんに結界を張ってもらってるから大丈夫よ。」
と瞳は返した。
「体がある敵だったらあたしが全員排除する。半径300メートル以内なら外さないから。」
そう千里が付け加える。
「もし入ってこられても、姉さんは僕が守る。」
すかさず磨那呼が口をはさむ。
「ありがとう磨那呼、千里ちゃん。みんな頼りにしてるわ。」
「それより瞳。そろそろなぜリーダーに嘘の未来を伝えたのか教えてくれないか?」
座頭がそう問いかける。
「視えたのよ。理想の世界を作った後、リーダーが私たちを始末する未来が。」
瞳はそう答えた。
「でもリーダーだって喜んでくれるはずよ。私たちが作るのは彼が思い描いた世界だから。フフ、私の目があれば失敗はありえないわ。さあ、ここからが本当の革命の始まりよ。」
瞳はそう言って不敵に笑ったのだった。
そして、革命前夜、瞳たち幹部はそれぞれの想いを胸に準備を進めていた。
私たちの親は、古い因習の残る集落に暮らしていた。
私たちが幼少期を過ごしたその集落には邪眼持ちという言葉があった。それはいわゆる犬神筋などと呼ばれるものと似ていて、家筋的に目に何らかの不思議な力を持つ家系のことを指すものだった。
そして、私たちの家がその邪眼持ちだった。私の母も、父も、弟も生まれつき力を持っていた。私だけが唯一力を持たずに生まれたが、それでも12歳の時に力が覚醒し、未来が視えるようになった。
私たちの家は犬神筋の家がそうされるように村八分にされていた。私たちは集落の人たちと関わることは許されず、発言権も無い。まさに日陰者といった暮らしをしていた。
私は18歳になったのを機に、弟の磨那呼とともに集落を出た。両親がそう勧めてくれたのだ。私たち姉弟だけなら集落を出れば普通に暮らせるだろうと。
私と磨那呼は集落を出た後、アルバイトをしながらひっそりと、しかし普通の生活を送っていた。
だが一年ほど経った時、私はある男に出会った。彼を見た瞬間私の目にあるビジョンがうかんだ、彼を利用すれば私たちが力を隠さずとも普通に暮らせる世界を実現できる。
そう確信した。そして私は今、かつて彼が座っていた椅子に座っている。
「父さん、母さん、待っててね。もうすぐ私たちが普通に暮らせる時代がやってくるから。」
邪眼持ちの家に生まれた僕は生まれた時からその力が覚醒していたらしい。
僕の力は、視線で相手の動きを封じる力。僕がそれを願ってにらめば、相手は動けなくなった。
しかし、幼い頃、僕はその力をコントロール出来ず、同じ集落の子どもに使ってしまった。当然僕の力のことは集落の子どもたちみんなに知れ渡って、僕はいじめられるようになった。集落の決まりでは邪眼持ちの者とは関わってはいけないことになっているが、子どもはそんなことはおかまいなしだ。
いじめられていた僕をいつも守ってくれたのが、姉さんだった。僕がいじめられていたら、いつだってとんできて、いじめっ子を追い払ってくれた。
僕はそんな姉さんが大好きだった。だから、集落を出た時これからは僕が姉さんを守らなきゃと思った。これからは姉さんの味方は僕しかいないから、僕が強くなって姉さんを守らなきゃ。そう思った。
集落を出て一年がたった頃、姉さんがいい知らせがあると言って家に帰ってきた。姉さんはある男に出会った、その男を利用すれば僕たち邪眼持ちでも普通に暮らせる世界を実現できるらしい。
当然僕は姉さんとともにその男の組織に入ることを決めた。
そして今は姉さんが組織のリーダーとなり、革命を起こそうとしている。
「大丈夫だよ。姉さんは僕が必ず守ってみせるから。」
俺は幼い頃から周りとは一線を画した存在だった。といえば聞こえはいいが、実際のところはただ周囲の人間の常識とやらを完全に無視して行動をしていただけだ。
幼い時は周りの人間にとっての常識というものが全く理解できず、何度注意されても理由がわからなかったが、小学校の三年生くらいになると、常識とはそういうものなのだと「知識」として認識し、理解したふりをして過ごすようになった。
中学生の時、ある出来事がきっかけで、俺は自分の力に気づくこととなる。
ある時、俺はクラスメイトと口論になった。きっかけは些細なことだったのだろう。しかし、彼の主張と俺の主張は真っ向から対立したのだ。俺はつい興奮して、今まで覚えてきた「常識」を忘れて、自分の常識でものを言ってしまった。言い終わった瞬間、しまったと思ったが事態は思わぬ方向に動いた。なんとその場にいたクラスメイト達は、俺の言葉に納得して事態は収束したのだ。俺はその時、自分の言葉には正しいか正しくないかに関わらずそれを真実だと人に思わせる力があると知った。
それからの俺はその力を使うことに迷わなかった。どうしても納得のいかないことがあれば、その力を使えばいい。
そして、力を使ううちにこの力に関してさらに詳しくわかってきた。この力は一旦は納得させられるが、誰かが違うと指摘すれば効果がなくなってしまう。逆に言えば指摘されない限り解けることは無い。
次第に俺はある考えを持つようになった。"この世で常識ほどもろいものは無い"そう思うようになっていた。
やがて俺が大学を出て社会人になった頃、ある男と出会った。その男は俺に、この世界を変えたくはないかと言った。
男の考えに賛同した訳では無い。だたこの男と共に行けば、世間の常識を俺の常識に変えられると思った。
そして今、俺は新しいリーダーのもと、革命に向かおうとしている。
「見ていろ。この下らない世界を、下らない常識とともに壊してやろう。」
私の家は古くからつづく呪術師の家系で、両親も呪術師だ。
平安時代などの妖怪や幽霊といった怪異が本気で信じられていた時代なら、不思議な力を操る職業として成立したらしいが、明治以降、科学万能の時代となってからは怪しい奴らとして見られて、迫害や差別を受けてきたらしい。実際に私達家族も元々住んでいた場所から逃げて、ひっそりと呪術師であることがばれないように生きてきた。
だが、こんな時代でも呪いを必要とする人々はいるらしく、私の両親は匿名性が高くそういう人々が集まりやすいネットを使って依頼を受けていた。そして私も幼い頃から両親に呪術の指導を受けてきた。そんな両親の口癖は「いつの時代も呪いを必要としている人々はいるんだから、私達が呪術師をやめるわけにはいかない。」だった。
私は自分たちの職業に誇りを持っている両親が好きだったし、尊敬もしていた。だからこそ、呪術師であるという理由で両親が迫害や差別を受けるのがとても悔しかった。
そして、私が18歳になり、一人暮らしを始めバイトをしながら呪術師を始めた頃、ある男と出会った。彼は、世界を変えたくはないかと私に言った。私はこの男の組織にいればまた呪術師が普通に暮らせる世の中がつくれると思った。
そして今、かつて彼が居た場所には彼の側近だった人が居る。
「大丈夫、理想の世界のためだもの。私は間違ってない。」
俺は剣術師範の父のもとに生まれたが、生まれつき目が見えなかった。しかし、父はそんな俺にも竹刀をにぎらせ剣術を教えた。
幸か不幸か、俺は目が見えない代わりにその他の感覚が特別に鋭く、目が見えなくとも、刀を振るうことができた。ただ、俺の感覚の鋭さは尋常ではなく。それがわかると、周りの者達は人並外れた俺の力を恐れ、次第に近寄らなくなっていった。
幼い頃から剣術を仕込まれて育った俺には、それでも刀を手放すという選択肢はなく、一人になっても刀を振るって生きていく道を選んだ。
そしてある時、一人の男が俺の前に現れた。その男は言った、世界を変えたくはないかと、俺はその時からこの男の組織のために刀を振るうことにした。
そして今、俺は新しいリーダーのために刀を振るおうとしている。
「この組織の理想のために俺は最期まで刀を振るおう。」
あたしはみんなからは千里と呼ばれているが、本当の名前は違う。あたしの本当の名前は千里。親からはそう呼ばれていた。でも、センリでは女の子らしくないから、戸籍にはチサトで登録したらしい。
あたしは子供の頃から的当てや射的が上手かった。別に両親が射撃の選手とかだったわけじゃない。トンビが鷹を生むというやつだろうか。
そういうわけで、あたしは射撃部のある中学に入学し当然射撃部に入った。射撃部でのあたしの成績はすごいものだった。1度も的に当たらなかったことがない。まさに百発百中だった。最初のうちはみんなすごいと言って褒めてくれたし、先輩からも可愛がられた。でも、あまりにうますぎたせいか、誰が流したのか私達家族がどこかの国のスパイなんじゃないかという噂が流れ始めた。噂とは怖いもので私の親も周りから変な目で見られたようだ。
そして私は中学卒業とともに、勘当された。その時あたしは、何よりも親に捨てられたことが悲しかった。その時から、あたしの居場所はなくなってしまった。
家を勘当され、行くあてもなく、どうすればいいか途方にくれている時に、あたしはある男に出会った。彼はあたしに、世界を変えたくはないかと言った。あたしは直感的に、この人のところにはあたしの居場所があると思った。
そして今、新しいリーダーのもとに、革命が始まろうとしている。
「あたしは、居場所を守るために闘う。そのためだったら、怖くない。」
その日の朝、革命は静かに始まった。
革命の作戦は、瞳が見た未来をもとにねられたものだったため。滞りなく進んだ。
永田町国会議事堂を襲撃するにあたって、まずは千里が誰にもばれない速さと正確さで警備全員を排除した。
「よし、排除完了。あとはお願い。」
千里の連絡を合図に座頭を戦闘に革命団が議事堂内に侵入する。当然内部にはSPがいるが、座頭のすぐ後ろについていた磨那呼が動きを奪い、座頭が流れるような動きで次々と切り捨てていった。
SPが全員排除された頃、真司がメガホンを持ち議事堂内で官僚相手に呼びかける。
「よく聞いてくれ。俺たちはあんた達と争いたくはない。俺たちの要求を聞いてくれればこれ以上は何もしない。」
その真司の言葉をその場にいた官僚達は受け入れようとしたが、その時、一人だけ逃げ出していたのか一人の官僚が駆け込んできて
「今警察を呼んだ。すぐに警察がここを包囲する。君たちにできることはすでに何もない!」
そう叫んだ。
その言葉に真司は
「交渉決裂だ!よく聞けお前ら、お前らが普通でいられるのは、俺たちみたいな普通ではないとされる人間がいるからだ!にもかかわらず、お前らは俺たちを押さえつけ、排斥しようとする。お前らはこれから、その矛盾に殺される!」
そう叫んだ。
それを合図に座頭が目にも止まらない速さで、官僚達を全員切り捨てた。
間も無く警察が到着したがそれも瞳が視た未来の通りで、朱里が張っておいた結界で中には入れず、立ち往生しているところを千里が全員排除した。
そうして、国会議事堂の襲撃はあっけなく終わった。
国会議事堂の襲撃を成功させた革命団は、インターネットを介して真司の声を全国に流した。
「よく聞け、全日本国民よ。今日我々は国会議事堂の制圧に成功した。よって、この時よりこの国のトップには我々が立つ。だが安心しろ。我々はお前達に危害を加えるつもりはない。これからは真に平等で、自由で、愛に満ちた平和な世の中になるのだ。尊い犠牲の上に、我々は理想郷を築いたのだ。」
その放送は瞬く間に全国に広まり、全国民が真司の声を聞くこととなった。それにより、理想郷の実現に疑問を抱く国民は1人もいなくなり、瞳達は自分達の目的を成し遂げたのであった。
「フフ、私が視た通りの未来だわ。これからは、この理想郷が永遠に続くのよ。フフフ…。」