表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

ミルク

「よし、着いたよ!今日からここが君のお家だ〜。」

その優しげな口調には普段俺と相対する時の…いや、していた時の意地悪さはすっかり見当たらない。

「しばらくここにいてね…ミルクを持ってくるから。」

そう言ってあいつは俺を部屋に閉じ込め、ぱたぱたと足音を立てて去っていった。

そういえばこの家に来るのは幼い頃以来だと、懐かしくあたりを見回す。確か10歳の頃ぐらいから、遊びに行きたいと言っても「そんなに女の子の部屋に行きたいの?君は本当に変態だね。」というような、理不尽な誹りと共に拒否されるようになった。

昔はいかにも女の子女の子した可愛らしいピンクのカーテンやらなんやらで彩られていた部屋は、今はえんじ色と深緑、茶色の落ち着いた配色に様変わりしている。いちいち考えるのが面倒で殆どが黒の俺とは大違いだ。

あいつがひたすら俺から隠していたのが一体どんな理由ゆえなのかはわからないが、こうしてあっさりと目にすることが出来た事は何故か嬉しくはなく、後ろめたい苦さがあった。

ガチャリとドアノブを捻る音がし、片手にミルクを入れてあるのであろう底の浅い皿を持ちながらあいつが入ってきた。

「今度ごはんは買ってくるけど、取り敢えずはこれをたんとお飲み〜。」

そう言って皿を床に置く。無防備に見せた笑顔は、なるほど同級生達が揃って美人だと評する筈だと素直に納得できる可愛らしいもので。

(こいつ、こんな顔も出来たんだな。)

いつも俺に向けていたのは憎たらしい笑顔と言葉だった分、その差がより大きく感じられる。

騙されるな、あいつの本性はさんざん知ってるだろ、と自分に言い聞かせ、ミルクを舌で舐める。ちゃんとした食事…と言っていいのかどうかは分からないが、久々に味わった甘い味に感動する。これ以上虫を食べないで済むのだったら、まあ、こいつに飼われてやるのも良いかもな。そう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ