死に場所で
いつの間にか眠っていたようで、起きたのは昼頃だった。喉がからからに乾いていたのでのろのろと立ち上がり、川へ行って水を飲む。腹はそれ程空いていなかったのでそのまま河原に寝転がり、辺りを眺めるともなしに眺める。
生前は望んでやまなかった暇な時間を思う存分過ごしているというのに気分は一向に晴れず、もう充分に寝ているからか目を閉じても寝れず、昔の事ばかりが懐かしく思い出されて寂しさは余計に酷くなった。
「…にゃお」
帰るか、と呟いた筈なのに聴こえてきたのは紛れも無い猫の声。
ダンボールまでの短い帰り道、ふとあの花束が目に入る。ここでずっと待っていたならば、母さんの姿だけでも見られるだろうか。見たら余計に寂しくなるのはわかっていたけれど、それでも。
道端に座り込んで自分の死んだ場所をただぼうっと眺める。自分を殺してしまった人はきっと罪悪感を抱えているのだろうかと申し訳なく思う。あれは完全にこちらが悪かったのだから…。
視界の端に三毛猫が歩いて行くのが見えたが、当然ながらこちらから話しかける勇気はなく、そもそも言葉が通じるのかすらも怪しいのでひとまず無視した。あちらからも話しかけてくる事はなく、安心すると同時に少し残念でもあった。
通りすがる人はいるが、花束に一瞥もくれる様子はなく…夕方まで待って来なかったらまた明日と心に決めて待つ。
しばらくして向かい側から一人の少女が俯きながら歩いて来た。見覚えのある二つ結びに、ある日の会話を思い出す。