幻想依存症例患者 4
「そんじゃあ早速本題から入りましょうか。ロウ紅茶」
「へいへい」
リビングに通されたナキは、アケビと向かい合うようにソファーに座っていた。
この部屋は先程の入口とは違い、とても生活感を感じられた。
恐らくこの屋敷には頻繁に使っている部屋とそうでない部屋があるのだろうと、ナキは考えた。
「君の依存症の治療…まあ治療と呼ぶにはかけ離れ過ぎてるんだけどもさ。カウンセリング…でいいかな」
そう言うとアケビはテーブルの上に数枚の書類を置いた。
「まずはこれだ。先に断っておくが、私はプライバシーなどいちいち尊重しない。君について色々と調べたんだが、この二人は君の知り合いで間違いないね?」
アケビが指した二つの書類には顔写真と名前、そして薬を服用した際に発現する能力の概要が書かれており、後は難しい言葉が並び立ち、論文の様に続いている。
そしてその二人にナキは見覚えがあった。いや、この二人とはもっと親密な関係にある。
「はい…私と一緒に薬を使った友達…です」
荒沢マユに冨岡シカコ。どちらもナキの友人だった。ナキと二人との付き合いは長く、三人がお互いに気兼ねなく何でも話せる良き友人であり、相談者でもあった。
二人のことさえも知っているこの椎名アケビという女性が何者なのか、ナキはますますわからなくなってしまった。
「これが最初の治療だ。君にはこれからロウと一緒に彼女達の行方を探して、そして見つけたら二人を保護して欲しい」
今回も三人でまた薬を服用したのだが、ナキは二人も自分と同じように病院にいるのだと勝手に思っていた。だが違った。行方を探すということは即ち、
「行方を探すって…、二人は行方不明ってことですか…!?」
突然衝撃的なことを言われ、ナキは動揺した。そこにロウが紅茶を二人の前に運び、これでも飲んで落ち着け、と促した。
ナキが紅茶を一口飲むのを見届けると、アケビは話を続けた。
「どうやらここ数日二人とも家に帰ってないようでね。二人のご両親が警察に捜索願いを出していたもんでね。私の耳にも入ったのさ」
友人のことで頭が一杯なったナキを見たロウは、カウンターに寄りかかり二人の話に割って入った。
「でもいいんですか。俺達と一緒になんて、アイツを出すことになったら…大分荒療治になると思いますが」
「ハハ、そこは君達二人で何とかしたまえ。やり方はいつも通りで構わないさ。わたしゃ知らん」
さて、とアケビはロウからナキの方に向き直り、問う。
「千賀ナキさん。別に断っても全然構わないさ。二人のことは警察にでも任せてればいずれかは解決する」
だがしかし。
「君が友人達を探しに行くことにこの治療は意味がある。君が行かなかった場合は言わずもがな、依存症は治らないと言っても過言ではないけどさ。──さて、どうしたい?」
聞かれるまでもなく、ナキの心は決まっていた。こんなことを聞かされては、そう決める以外にはなかった。




