幻想依存症例患者 2
「答えに……なっていないと、思うのですが」
いきなり味方と言われても意味がわからない。それに味方と言われると、敵を連想するものだが、ナキにそんなものはいない。そもそもそんな状況におちいることは絶対避ける。
「確かにいきなり過ぎたな、俺の名前は卯十神ロウ。たまごに近い方のウサギ、数字の10、そして偉い方のカミ。それでウトガミだ」
ロウは早口で自己紹介を終わらせた。が、ナキの顔は意味不明を表している。彼女が聞きたいのは名前とかではない。彼が誰であるか、である。
「あー、そうだな……俺のことを言い表す適切な表現が……無いな。ある人に君を迎えに行ってくれと頼まれた、としか言いようがない」
ロウが明確に答えようとしていないのは、一目瞭然。
ならばそのある人について言えばいいのだろうが、ナキは言及しなかった。
まずそもそも、こんな得体の知れない男にこれ以上付き合おうとは思わない。
とりあえずこの卯十神ロウという男を追い出そうと考え、それらしい適当な理由を言おうと口を開いた瞬間、ロウは言った。
「君の家族は、誰も来ないよ」
ロウの思いがけないその言葉に思わずナキは、え、と言葉を洩らした。
「君に兄弟はいない。君の祖父母は、父方も母方も、まず君がこんなことになっていることも知らない。そして今は平日の昼間、君の共働きの両親は、いつも通りに出社して、いつも通りに働いている」
こんなことを急に言われたら、普通ならば彼がデタラメなことを言っているとまずは考えてみるものだが、千賀ナキには、瞬時にわかってしまった。ロウが今、真実を語っていると。
そうであろうという事は、いつからか彼女はずっとわかっていた。だが頭が、心が、理解を拒んでいた。
だからこそ、ロウは言った。
「君のことは夜になるまで誰も迎えには来ないよ。もしかしたら、夜になっても来ないかもしれない。だから、俺が迎えに来た」
それを聞いた彼女は自分でも不思議だと思う位、悲しくはなかった。だがなにか酷く暗い気持ちにはなっていた。ナキには、この感情をどの言葉に当てはめればいいのか、わからない。
「君の退院許可はすぐにおりる。あとは君が、決めるだけだ」
そう言ったロウの顔を見て、ナキは驚いた。いやこれは、驚くとはまた違う。とにかく彼女は確信したのだ。彼も、ロウも今の自分と同じ、この感情を味わったことがあるのだ、と。
「その人は、私に、いったい何を……」
どう言えばいいのだろうか。ナキにはただ、彼と一緒にその人に会いに行く。ただそれだけはもう決めていた。
その言葉を聞き、ロウは少しだけほほ笑んだ、ように見えた。彼はナキの想いを理解し、彼女が望んだ答えを告げた。
「彼女は医者じゃない。でも、俺の時みたいに、君の依存症を必ず治してくれる」
ナキはそれを聞いて、なんだか安堵した。




