幻想依存症例患者 1
──少女は目を覚ました。
ボンヤリと天井を見つめながら、頭を働かせる。学校に行く支度をしないと遅刻してしまうと考え、時計を探した。
でも見つからない。
それどころか私が今寝ているのは、私のベッドではない。勉強机も、本棚も、好きなミュージシャンのポスターも、枕元に置いておいたスマホもない。ここは私の部屋ではない。
彼女は気づいた。ここは病室であると。
よく見れば腕に点滴のチューブがついている。ナゼだ。というか真っ先に気づけよ、と彼女は自分に言い聞かせた。
だんだんと頭が働いてきた。
私が病院にいるということはつまりはアレだ。
それを確認するために彼女は点滴をしている腕とは反対の、すなわち左腕を上げて見た。
「……ハァー……」
あまりにも予想通り過ぎて、思わず彼女はため息を吐いた。
その腕には真新しい注射痕。と、古い注射痕がたくさん。
彼女は腕で目を覆い、そして泣いた。
私はまた誘惑に負けたのだ。もう2度と使わないと決めたのに、使ってしまった。
あのドラッグを、DayDreamを。
このドラッグを使えば、超能力が使える。だからどうした。私の場合は、普段見えないモノが見えるようになるだけで、マンガやアニメみたいなことは出来ない。たったそれだけのことなのに、私はアノ感覚の素晴らしさに取りつかれてしまっている。
友人Aは少しだけ宙に浮くことが出来るようになった。
友人Bは光を自在に操ることが出来るようになった。
だが彼女が出来ることは、X線や紫外線を視覚で捉えることが出来る。彼女にとってはくだらない力だ。
そう何度も言い聞かせた。言い聞かせたのに。使ってしまったのだ。アノ感覚をもう一度感じる為に。
彼女は考えれば考えるほど悲しくなっていき、涙が止まらないことに嫌気が差し、また寝ようと試みた。
だがその時、誰かが扉をノックした。
すぐに入って来ない所をみると医者や看護士ではないと、彼女は考えた。ならば両親か。
会いたくなかったので狸寝入りをきめこんだ。そもそも両親ならば娘の返事など待たずに入ってこい、と思った。
しかし入って来たのは彼女が思い描いた人物ではなかった。
見知らぬ、会ったことも見たこともない、一人の男。
「誰」
彼女は反射的にそう言った。そして男が答える前に続けざまに問う。
「警察の人……」
「いや、俺がそんなに年上に見えるのか?」
そう答えた男はうろたえる彼女など気にも止めない様子で、彼女のベッドの横に立った。
「千賀ナキ……でいいんだよな?」
「私の名前、どうして……」
不意に名前を呼ばれたことに戸惑いを隠せず、ナキは思ったことをそのまま口にした。
「誰なの……」
警戒心をあらわに再び問うと、男は少し困ったような表情を見せた。どうしてそんな顔をするのか、ナキには理解出来なかった。
そうして男は答えた。
「俺は……そうだな……君の味方に、なる為に来た」




