表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

エピローグ 焼き捨てられた誓い

 最終話です。


 読み終わられましたら、下記の評価フォームにて、評価して頂けると幸いです。

 1人でも多くの方にお読み頂きたい願望があるのです。












 


 過呼吸は何度も何度も起きた。

 繰り返し、起きる現象を私は喜んだ。その過呼吸中は苦しそうであり、実に酷い医者であると理解している。

 だが、この過呼吸は機能の回復のサインなのだ。

 目に見えた回復は、最初の1週間に集中していた。しかし、憂さんは脳の機能を回復させていると断言出来た。

 1月下旬、過呼吸を起こしたこの日、突然、伊藤くんに謝罪したのだ。脳に改善が見られたからこそ起きた事象だと言える。

 怯える様子は、やはり残していたが、憂さんから伊藤くんに歩み寄った。後は時間が解決してくれるのだろう。


『僕、普通に暮らしたい』


 今は、この憂さんの願いに向け、全力を投じている。

 家族に関しての心配は無くなった。姉・愛が当初の直感の通り、キーパーソンとなる。

 この姉に任せても大丈夫だと現在は断言出来る。

 年末年始に比べ、さすがに面接の頻度は下がったが、兄は幾度となく姉に引っ張られ、面会に訪れている。自殺行為へのショックからも近い内に立ち直る事だろう。女の子となった件に関しても、一緒に生活するようになれば、次第に関係を改善させていくものと信じる。


 憂さんは目下、リハビリ中だ。理学療法士にも診せた。彼女が言うには未来は明るいらしい。頑張り屋さんですから、と言う言葉だった。こちらも解決は時間だ。時間とは多くのモノを癒やしていく。そして、いずれは私の下を巣立っていってくれるのだろう。


 2月となり、総帥閣下は私どもを率い、私立蓼園学園を訪れた。

 学園長は掴み所に困る人物だったが、総帥の頼み、何より大切な生徒の為、全力を尽くすと約束してくれた。現在、裏で手を回し、我々の戦略的優位を構築してくれている最中だ。


 しかしながら、4月の入学式には間違いなく間に合わないだろう。体力の強化が絶対必要なのである。


 ……学園に復学する。すれば、いずれ秘密は公となってしまう。これは確定事項だ。どこまでが隠蔽に失敗しても平穏でいられるのか。

 その為には何が必要か。何が不要か。

 私と渡辺くん、院長、総帥とその秘書。繰り返し、話し合った。


 憂さんは絶対の容姿と言う武器がある。それこそ、世に2人と居ない美貌の持ち主だ。それが『再構築』によりもたらされたと言う真実は、絶対の秘密である。


 ここが最終防衛ラインであり、憂さんが優くんである事はバレてしまっても良いよう、準備を進めている。要するに、憂さんをアイドル化してしまうのだ。比類無き偶像としてしまい、牙を剥く者を排除出来るよう、味方を増やし続けるのだ。

 何も難しい事は無い。憂さんが普通に過ごせば、それだけで人の目を集める。きっと憂さんならば出来ると思っている。


 勉強に関しては、可哀想だが、すぐに付いていけなくなるだろう。

 憂さんもそれを理解している……と、信じる。出来る事を出来る範疇で探してくれれば良いのだ。時間は3年間もある。きっとこの3年間で大いなる可能性を掴んでくれる事だろう。皮肉な事に『再構築』によって、それだけのカリスマ性を彼女は(さずか)かってしまった。


 大いなる可能性の手助けとする為、専属にタブレットの使用方法のレクチャーを依頼した。伊藤くんの得意分野であり、きっと、タブレットは憂さんの助けとなる。


 助けになると言えば、彼ら憂さんが記憶していた3名は、深く理由を問い質すことも無く、憂さんの為ならば……と、辛い役割を引き受けてくれた。

 優くんの人柄と深い友人関係、愛情が彼らを突き動かしてくれているのだと理解する。


 彼らは憂さんの事を第一に考え、行動してくれる確信を得ている。何より彼ら自身が憂さんの平穏に欠かせない人物たちなのである。


 この平穏は憂さんの望む平穏とは違うものだ。


 これが悔しい。神を殴ってやりたいほどだ。

 平穏を望むには、これほど向かない容姿は無い。それが『再構築』により得た奇跡の一環であり、どうにもならないと承知している。


 神は奇跡を与えたもうた。


 総帥殿の受け売りだが、一々、的を射ている。私は彼の動向を見守らねばならない。総帥は掴めない男だ。何を望み、何を成し得たいのか理解に苦する。

 彼の動向には、注視が必要である。危険な男だと忘れてはならない。


 我々の与える平穏で十分だと私は信じる。


「しまい――せんせい――?」


 ペンを走らせる手を止め、顔を上げると、憂さんが小首を傾げていた。


「……どう、しました?」


「いつも――ありがと――」


 そう言い、恥ずかしそうに笑ってくれた。最近では、このようによくお礼の言葉を伝えてくれるようになった。これは彼女にとって、回復か成長か?


 成長だと思うとしよう。


 私はこの子の崩壊から、成長を見守り続けた。


 私は2人目の父親であり、全力でこの子を守ると誓おう。












 ……この島井の手記は、この後すぐに渡辺によって、焼却処分された。


『誰かの目に入ってしまったらどうするんですか!? まったくもう!!』




 正にその通り。








 ―――『半脳少女』、物語の始まりの終わり―――





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブックマーク、評価、ご感想頂けると飛んで跳ねて喜びます!

レビュー頂けたら嬉し泣きし始めます!

モチベーション向上に力をお貸し下さい!

― 新着の感想 ―
[一言]  せっかく戸籍まで改変するのだから、学力・身長・容姿の変化を考慮し、新一年生又は小学部高学年からの復学でいいと思う。元友人・元彼女を覚えているとしても元家族の住所まで覚えていなければ、他府県…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ