26.0話 速報を目にして
右手第4指のバネ指が再発しました。
またステロイド注射されました。あれ、痛すぎですわ(;´Д`)
次、再発した場合は手術だそうですw
今回はすぐに書き始められますが、また再発した場合には本編、一時休止となるかもしれません。
この過去編は書き終えてるので、2,3日おきに投稿していく予定ですので、ご安心下さいませ。
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ここから本文です。
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ツー……ツー……ツー……。
大守 佳穂は2階の自室で辞任会見の情報を得た。スマホが臨時ニュースを拾い、大慌ててでバタバタとリビングまで駆け下り、テレビを点けたのである。母が何事かと問い掛けるが、答える気持ちにはならなかった。
母は、今も優の事故に佳穂が関係してしまった事を知らない。
『誰にも言わなくていいからね……? 約束……だよ?』
こう、優の家族の1人に言われているからだ。
【少年の死亡発表受け、蓼園会長辞意】
テレビの左上に、そんなテロップを見付けた。佳穂自身、血の気が引き、意識さえ遠くなった。だが、それも一瞬の事。
思い浮かんだ映像は、元気だった頃の優と、その隣で微笑む親友の姿だった。
佳穂は階段を駆け上がると、スマホの液晶に表示された親友の名前、【千穂】をタップした。
初等部以来の親友・漆原 千穂は、中学2年生時、彼氏を作った。何も聞かされておらず、本当に驚かされた記憶が過ぎる。正に青天の霹靂だった……が、相棒の山城 千晶は祝福した。そんな千晶に対し、佳穂は素直に喜んであげられなかった。
……だからなのだろう。ヤケに親友は自分に惚気てきた。鬱陶しいほどだったが、2人はお似合いの2人だった。お互い小柄だった。彼氏はバスケ部に所属しているにも関わらず、身長は伸び悩んでいた。親友も小柄であり、150cmを少し出た程度だ。同じ月日を共有するが故にその感覚は希薄だが、段々と見下ろすような身長差へと移ろってきている。
『どんまい! もう1本行くよ!』
連れられていったバスケ部の練習。ルールにも詳しくは無かった。だが、その時に見た優くんは、仲間を責めない良い奴に見えた。
親友も優しい子だ。優しすぎるほどの子だ。ほんわかとした美人顔の親友と、少女のような優しい顔立ちの彼氏。似合いすぎる2人だと思っていた。
そんな2人は一瞬で引き離された。
楽しかった去年のGW明けの出来事。あの時の事を思い出すと、佳穂は胸が張り裂けんばかりとなる。半年以上が経過した今でも胸が苦しくなる。
佳穂はあの事故が自分と相棒により、引き起こされたものだと思っている。思い込んでいる。
あの事故は自分たちの責任であり、親友とその彼氏を引き裂いた。
親友である千穂は、優への想いの深さを示すかのように、事故後、どんどんと窶れていった。食事が喉を通らなくなってしまったのだ。
佳穂と千晶は、沈んでいる場合では無くなった。このままでは優の意識不明に続き、千穂までが死んでしまう。本気でそう感じた。
……感じたからこそ、佳穂も千晶も地の底から這い出した。深く傷付いた友人を支えられる者こそが親友……。こう諭された。それは事故後、互いの親にも内緒で、立花家へと千晶と共に謝罪に行った時の事だった。憔悴しつつも、優の姉は脆く弱々しい笑みを作り、そう言って2人を慰めた。その時の姉は、優の彼女である千穂と2人の関係は知らなかった。
佳穂と千晶。この両名に支え合うよう、諭したのだ。だが、佳穂と千晶は、捉え違えたこの言葉に支えられた。
正直、あの言葉が無ければ、窶れていく千穂を励ます事は出来なかっただろうと、佳穂は思う。姉のあの言葉を胸に刻み、支えようとしたからこそ、自分たちも倒れずに済んだ……と。
必死に支えたにも関わらず、ついに入院してしまった親友を、千晶は怒鳴った。
『千穂! いい加減にしなさいっ!! あんたがそんなで優くんが喜ぶと思ってんのっ!?』
この千晶の……。嗚咽混じりに怒鳴った一件を機に、千穂は立ち直っていった。体重も少しずつ戻っていった。今は見事なスレンダー体型を維持している。
『優が目覚めた時にね……。喜んでくれるかな……って……』
そう言い、繕われた笑顔は、なんとも儚い笑顔だった。
佳穂はスマホを鳴らし続ける。
ツー……ツー……ツー……。
何度、掛けても千穂のスマホは繋がらない。
佳穂の心拍数が上がっていく。優の死を悼む前に、千穂が心配で堪らない。佳穂は部屋着のまま、階段を駆け下りた。
「佳穂! いい加減にしなさいっ!!」
母の怒声が聞こえたが、それを無視し、ミュールを引っ掛けると玄関を飛び出した。
千晶に会わなきゃ……! 教えてあげなきゃ……!
そんな想いは通じた。
玄関を飛び出すと、スマホを耳に当て、玄関を出てきた向かいに住む千晶と遭遇した。佳穂が駆け寄り、千晶は待った。
佳穂がその数メートルの距離を埋めると、「あんたはっ! 窓からずっと気付けって念を送ってたのに……!」と怒られた。
千晶は悲しんでいない訳でも、心配していない訳でも無い。動揺から立ち直るタイミングがいつも千晶が1番であり、今回もまた動揺から早々に抜け出たのだろう。
「ごめんっ! 千穂は!?」
「意外と取り乱してない。でも行くよ。千穂の家」
「うん! 分かった……!」
新城 勇太は、弟たちと戯れていた。TVは単に点いていただけだった。そんな時に不穏な音を耳にした。臨時のニュースを示す発信音だった。
ふと目をやると【少年の死去受け、蓼園グループ事実上CEO・蓼園会長が辞意表明。】と、文字がテレビ画面上方を躍った。
【少年の死去受け】
【少年の死】
【死】
「勇兄? どしたの?」
その文字を理解するには時間を要した。
脳がその理解を拒否したのかも知れない。
「にいちゃ! どしたのっ?」
その少年・優と、この高身長の少年・勇太との付き合いは2年と少々……。さほど長くは無かった。だが、その付き合いは濃密だった。共に夢を追いかけていた。
彼にとって、優は恩人とも謂えた。
背がひと際大きいだけの木偶の坊……。勇太は自分をこう評していた。何の取り柄も自身の中に見出せなかった。何よりも真剣に物事に向き合う事が出来なかった。
公立の小学校時代には、明るいキャラで、それなりに友だちは居た。しかし、両親の薦めで入った私立蓼園学園中等部。そこで浮いてしまった。でかすぎた事が原因だったと、自己分析しているが、真相は不明だ。
そんな時に優が現れた。何でも隣のクラスだったらしい。優は隣のクラスのでかい奴の噂を聞き付け、彼をバスケ部に向かい入れるべく、何度も何度も勧誘してきた。それと同じ回数だけ、断りを入れた。
……運動は苦手だった。苦手意識があった……と、言い換えるべきかも知れない。
中等部に入りたての頃には、バスケ部からもバレー部からも勧誘を受けた。もちろん断った。
(身長だけで判断しやがって……!)
優もそうだった。優も勇太の身長を見て、勧誘し始めた。断り続けた。断り続けるとあの野郎が現れた。
『優の勧誘断り続けてんのはお前か?』
いきなり喧嘩腰だった。勇太ほどでは無いが、背が高く、勇太よりもがっしりとしていた。妙に迫力があった。正直、怖かった。
本居 拓真の勧誘を受け、勇太はバスケ部の練習を覗いた。興味も無く、その練習風景を眺めていた。1年生のしていた練習は基本を整えるばっかりで、見ていてもつまらなかった。
それでも拓真の目もあり、最後まで見届けざるを得なかった。
……部活の時間を終えると、数名が居残り練習を始めた。その中に、あの優も拓真も居た。
そこで優が見せるパスに驚かされた。
拓真と、『ケイちゃん』と呼ばれる少年は、その暴風のようなパスに順応していた。
付いていけない奴も居た。気の荒い奴だった。
『加減すんな! 舐めてんのかっ!!』
渓 圭祐は、優を煽り、本気のパスを出させていた。そのほとんどを両手に収める事が出来ない。
……興味が沸いてしまった。
こうして、勇太は仲間を得た。あの時、優が勧誘に来なければ、今でも浮いたままだったかも知れない。
それだけなら、まだ良い。
バスケと出会わなければ、今も本気になって取り組む機会など得られなかったはずだ。だから優は彼にとっての恩人なのである。
……残念ながら、そのバスケからも足を洗ってしまった。
優が事故により意識不明に陥った後、最初の練習試合で、拓真は精神的脆さを露呈した。それまでは気丈に振る舞っていた。だが、試合となり、その鉄仮面にも思えた塗装は剥がれた。
……勇太は、この試合の翌日、退部届を提出した拓真を追い掛け、バスケ部を後にした。優と共に見た夢を放り出し、優の親友と共に去ったのだ。
自暴自棄となりかねない、恩人の1番大切な友だちである『あの野郎』を支える為に……。
「にいちゃ……よしよし……」
「勇兄ちゃん、ないちゃってるぅ……。おかあさん、よんでくるぅ……」
……勇太は弟と妹の声で我に帰った。
「あ、あぁ……。わりぃ。だいじょぶだ。オレ、ちょっと出掛けてくるな……」
勇太はのそりと立ち上がり、愛しい妹の頭を撫でると、スマホを操作し、【拓真】をタップした。
「拓真ぁ……。あの歩道橋に集合だ……。アレ持ってこい……」




