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23.0話 ペティナイフ

 なんと、『半脳少女』にスピンオフ作品が誕生しました!

 筆者は、いしいしだ さんです! ありがとうございます!


 『半脳少女シリーズ』の設定とキャラを使った、フィクションと捉えて頂けるといい……んだと思います。


 詳細は、私の活動報告をご参照下さいませ。

 


 ―――1月4日(水)



 この日も午前中、憂は歩き回った。歩き回っては、様々な物に興味を示し、ツンツンと触れて回っている。

 物に対しても、あれこれと忘れてしまっているらしい。


『これは何だろう?』


 そんな姿が散見されている。記憶に関しては、相当大きな障害を抱えてしまっているらしい。


 渡辺は、彼女がベッドに戻り、休憩を始めると憂の精神状態を見極めつつ、質問を繰り返していく。


「わたなべ――せんせい――」と憂が彼の名前を覚えた時には、なかなか……いや、かなり良い笑顔を見せていた。


 そして、午後に入ると面会だ。

 この日の面会者は、姉、兄の2名だった。父・迅は、三ヶ日(さんがにち)が終わった早々、仕事らしい。取締役に異例の出世を果たし、何かと忙しいとの事だった。


 病院側は5日から……。翌日より、通常の外来診療開始となり、渡辺の姿は明日以降、減少してしまうだろう。


 ……そもそも年末年始、渡辺は休日だった。毎日、姿を見せた理由は憂に入れ込んだからに他ならない。島井は謎だ。ほとんどいつもここに在る。離れるのは食事やら何やらの為に自室に戻っていくくらいのモノだ。憂の事故以降、島井にとっては、ここが我が家のような感じになってしまっている。


 院長・川谷は、この日から復帰である……が、優に構ってばかりはいられない。その上、ほいほいとVIPルームに立ち寄る事が出来ないのが現状だ。再々、院長が姿を消せば、その時間に比例し、怪しむ者が増大していくのである。


 専属3名は……。


 ついに島井からエレベータの隠しコマンドを教えて貰った。

 そして何故だか、VIPルームで過ごす時間が延びている。

 それでなくとも長い一勤務だが、それにプラスし、早出残業に休日出勤……。勝手に職場に現れている以上、残業代も入らないが、それでも駆け付けている。


 ……これは一重に、意識の無い優を半年以上に渡り見続け、積もりに積もった思いの発露なのだろう。


 この1月4日も、伊藤が勤務開始時刻より早く職場に現れ、終業時間を越えたはずの恵も残留している。



 その恵と愛は、よく話している。剛と伊藤もまた、同じソシャゲをプレイしている事から、それなりに馬が合っているようだった。


「それでですね! 優さんって、実は色々と考えながら行動してるんじゃないかって思ってるんですよ!」


「え? そうなんですか? なんか……、余り考えてないように見えるんですけど……」


「パッと見、そうなんです! でも、話してみると意外と……って失礼ですね。ごめんなさい。でも、迷惑掛けないようにって、リハビリ頑張ってみたり、私の名前も、ゆかさんの名前も伊藤さんも覚えてくれたんですよ!」


 覚醒してから1週間以上。随分と愛情補正が入っているらしい。全員がもちろん、自己紹介を行なっている。しかも……何度もだ。優は、なかなか他者の名前を覚えてくれなかった。


 ……それでも、恵は優を褒めちぎっている。


「……迷惑……掛けないように……ですか?」


「はい! だからリハビリ……あーやって頑張ってるんです! 優さんがはっきりとそう伝えてくれました!」


「……いい子なんですね。いい子な上にあの外見……。こりゃモテるわ」


「ホント! すっごく綺麗ですよね! 特に目! 目が綺麗です! 白目の部分とか、赤ちゃんの目みたいに澄んでて、血管なんかちっとも浮いてなくて! 肌もスベスベでプニプニなんですよ! あんなに痩せてるのに! 体重増えたら奇跡の美少女になっちゃいます!」


 ……実は、こんな会話が延々と繰り広げてられている。かれこれ30分は話している。

 基本、優の可愛さについて、だ。



 一方の男ペアは……。


 ……話が尽きたようである。



 盛り上がる女性陣と、ひと息付いた男性陣。


 遠目に姉兄の姿を見付けた優は、そちらへと小さなつま先を足を向ける。

 ……ゆっくりゆっくりと、進み始めた。視力に関して、問題は見付かっていない。むしろ、目に関しては良いと言えるほどだ。


 ……姉と兄の存在は、きちんと『きょうだい』として認識している。彼らの名前の漢字を覚えていなかっただけだ。


 その優の動きは早々に察知されている。誰しもが皆、優へはチラチラと確認の目を配っている。


「あ。優さん、こっちに動き始めましたよ!」


 今回、気付いたのは恵だった。恵のひと言により、全員の目が少しの間、優を捉えた。優は若干、たじろいだ様子を見せた……が、すぐに気を取り直したのか、一歩一歩、確実に近付いてきている。


「ん。可愛い。ホントに可愛い()ですよ……」


「そうですね。羨ましいほどですよー」


「皮膚も目も新しいからかな? 今まで見たどんな子よりも綺麗です」


「ですねー。赤ちゃんみたいなすべすべふにふに肌を持ってたら、どんなに綺麗な子よりも綺麗……。優さんの『再構築』の事、学会とかで発表したら、とんでもない事になっちゃいますね……」


「優ちゃん、守ってあげたいな……。そんな事になったら、普通に暮らせませんよね?」


「世の女性たちの嫉妬……。怖いですー」


 恵の言う通りである。若さを求める女性から見れば、涎を垂らすほどの衝撃のはずだ。


「なぁ……姉貴? 姉貴は……さ。なんでそんな可愛い可愛い言ってられんだよ? 俺、それどころじゃねぇんだけど……」


 伊藤との会話が一段落付いてしまった剛が、女性2名の会話に割り込んだ。剛は、優の変化に戸惑ったままだ。それなのに愛は……と、剛には見えるのだろう。


 ……剛は、愛の歪な感情に気が付いてはいない。気が付いているのは、母と……。島井もかも知れない。


 優は窓際、出窓となっている窓の白いレースカーテンへと、必死に短い手を伸ばしている。丁度、窓台が脇の高さである。姉たちの元に向かう最中、出窓が目に入り、外を見たくなってしまったらしい。

 出窓の窓台、その隅には総帥からの贈り物である、フルーツバスケットが鎮座している。


 伊藤の目が細まった。優の行動が一々、可愛らしい。『んー』っと、手を頑張って伸ばしていたが、如何せん体力不足だ。出窓の手前の空間、窓台にパタリと脇から上を乗せたまま、力尽きてしまった。


 伊藤が立ち上がる。優の希望を叶える為、レースカーテンを開けてあげようとしての行動だった。15mほど離れた優の居る出窓へと、歩みを始める。


「剛は受け入れられてないんだよね? ……それも仕方ないよ?」


 姉は、弟の複雑な心情が理解出来るらしい。活発だった弟が、障がいを抱えた妹に……。それも飛び切りの美少女だ。戸惑う事が当然……。そんな姉の表情だった。


「優ちゃん(・・・)を受け入れられる簡単な方法……。教えてあげよっか?」


 その言葉が耳に入ったのか、伊藤は立ち止まり、優に背を向けた。島井は不在だ。現在、院長・川谷に優の現状を報告しているはずだ。伊藤は自分が島井の代わりをしなければ……。そんな事を思ったのかも知れない。彼は物事を熟考する事が出来る。


 島井の観察の目。その存在にも、いち早く気が付いている。


 だからこそ、伊藤は姉の観察を始めた。その姉の表情、兄の反応、それらを島井に報告する為に。


 そして、その瞬間に気が付かなかった。優がフルーツバスケットの横に置いてあった、装飾美しいひと目で高価だと判る果物ナイフを手にする瞬間を……。


「私はね……。私は優が死んだと思ってる。じゃないと私が死んじゃいそうだから。だから私は彼女(・・)を新しい優だと思ってる」


 姉の目が嗤っていた。恵も剛も……もちろん、伊藤もその目に吸い寄せられた。その悲しき自嘲の瞳に囚われてしまった。


「……それが私のね。優を受け入れられた理由……なんだ……」



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[気になる点] ①この日も午前中、憂は歩き回った。 ②渡辺は、彼女がベッドに戻り、休憩を始めると憂の精神状態を見極めつつ、 ③「わたなべ――せんせい――」と憂が彼の名前を覚えた時に
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