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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜中の勢いシリーズ(短編)

紅い恋心

作者: あしたば

 上げていたつもりが上げてなかったので狂気じみてますが投稿しておきます。

 最初に言っておきますが、例えどんな理由があっても主人公の真似は絶対にしないでくださいね。

「言っておけばよかったなぁ」

 学校からの帰り道、少し残念に思ってぽつりと呟いた。一歩一歩踏みしめるように前へ出していた足を止め、坂の上で街の方に振り向く。そこから見える燃え上がる太陽と紅く染まる空は今の私の心を映し出しているかのようで目を細めた。




 人を好きになることって誰でも経験があると思う。その人を見ると胸が締め付けられたり、反対に嬉しくなったり。話しかけられるだけで心があったまる。

 そんな経験を中学までの私は一度もしたことがなかった。


 けれど高校に入って、ついに私にも好きな人が出来た。


 入学したその日、誰も知ってる人がいないクラスで緊張しながら自分の席に座っていた。その席の隣に彼は座っていて、私の方を向いた。

「初めまして」

「あ、は、初めまして……」

「俺、隣の席だから、一年間よろしくな」

 いきなり話しかけられたことに驚いて頷きだけで返してしまったけど、彼は中学生の名残の幼さを含んだ笑顔を見せてくれて、私もつられて笑った。

 それから授業の合間、休み時間、部活動中の彼の笑顔を見ると嬉しくなって、心に他の人には感じない温かさを感じるようになった。自然と顔が綻んでこれが恋なんだと知った。

 自覚してからは毎日が楽しかった。学校で彼に会うと退屈な授業ばかりでも楽しかったし、休みの日でも彼のことを考えてて。苛立って心が荒れていても彼を想うと心が晴れた。それはまるで精神安定剤のような、彼はそういう存在になっていた。

 だから友達から聞いていた『辛い』という気持ちがあるなんて考えもしなかった。けど気づかないうちに確かにその気持ちは私を蝕んでいた。しっかりと言葉にならない苦しさを認識したのは彼が彼の幼馴染と喋っている時だったように思う。

 ある日の放課後、学校の廊下で誰かと喋っている彼を見つけて声をかけようとした。だけど喋っている相手が彼の幼馴染だと気づいて口から出そうになった彼の名前を閉じ込めた。

 可愛らしいふんわりとした雰囲気を纏った幼馴染の彼女と彼が並ぶ姿は絵になって、私が近づくことを許してはくれなかった。何より安心しきった笑顔で話している彼に私は踏み出すことが出来なかった。だって私には一度だって、あんな顔を見せてくれたことはなかったから。

 そして悟った。

――彼は彼女が好きなんだ、と。

 辛かった。胸が締め付けられるってこういうことを言うんだって、泣きたくなった。

 友達が言っていた気持ちを身をもって痛感した瞬間だった。


 それまで手に入れたい、なんて思ったことはなかった。ただ一緒にいて楽しく過ごせればいい、彼を見るだけで満足だ。そう思ってた。

……なのに。一度気づかないふりをしてた感情に気づけば、彼が欲しいと、手に入れたいと心が叫ぶ。嫉妬が大半を占める醜い感情は溢れ出て、止まることを知らない。制御出来なくなると自分でもどうしたらいいか分からなくなった。

 パレットに出された沢山の色が入り交じって汚くなくなるように心がぐちゃぐちゃで。気づかなければ良かったなんて考えても、今更だった。


 気づけば自分でも知らないうちに変なことを考えるようになっていた。手に入れられないならどうしたらいいんだろう。閉じ込めて他の子なんか見向きもしないようにしたい。束縛という鎖を巻きつけたい。それが許されないのなら、いっそ、壊してしまおうか。

 そんな考えが許される筈がないと頭の片隅では分かっているのに、心はそれに反発する。思うままにやれ、と悪魔が囁く。その言葉に私は抗う術を持ってはいなかった。


『今日、放課後教室に来てくれないかな』

 スマホで彼に呼び出しのメールを送った。わかった、と返事がきて、放課後教室で待っていると扉が開く音がした。

「ごめんね、急に呼び出して」

「別にいいよ」

 振り向いて彼の顔を見て謝ると、私が好きな笑顔で答えてくれた。

 私は背中に制服で隠してある『モノ』を気づかれないように触って確認して、一度だけ大きく息を吐く。全て終わらせるつもりだ。それでも想いを伝えることは緊張する。

「わたし、」

「うん」

 何通りかの文章は考えてたはずなのに頭から全部抜けて、何も言えなくなった。

 伝えられないことが、伝えるための勇気を持てないことが分かって、今度は諦めて小さく息を吐いた。そして不思議そうにこちらを見ていた彼に向かって足を踏み出し、抱きついた拍子にその唇に口付けた。驚いた彼を無視して隠していた『モノ』を取り出し、力を込めて彼の腹部に突き刺す。痛みで歪む彼の顔を細目でうっすら見つめながらもさらに刺し込んだ。

 力なく倒れこむ彼を支えながらゆっくりと床に座り込んだ。私はやった事で満足したみたいで、直ぐには体が動かなかった。

 暫くして事切れた彼の目をそっと閉じる。

「やっと手に入れた……」

 誰かに取られるくらいなら、彼の最後の瞬間を自分だけのものにしたい。そんな考えは間違いなく狂ってると自分でも断言できる。けれど、彼の目に私を焼き付けられたことがあまりにも嬉しくて、私は満面の笑みを浮かべていた。




「言っておけば良かったなぁ」

 言葉が出なくなった。やりたいことが成功したのはよかったけど、伝えたかった気持ちは伝えられないまま。

「好き」

 もう二度と、彼がこの気持ちを聞くことはない。私が彼を『凶器(これ)』で殺したから。

 ついさっきの出来事を思い出すためにポケットに直した凶器にそっと触れる。すると中に入っているのが凶器だけじゃないことに気づいた。

「え……?」

 入れた覚えのないものが入っていることに驚く。中から取り出したそれは、半分に折られた小さな紙切れだった。

 私は恐る恐る中身を見るために開けた。

「う、そ」

――手に入れた。その文字は明らかに彼の文字で、紙切れを死ぬ前に私のポケットに忍ばせたらしい。それを見た私は狂ったように笑いながら涙を流した。


 次の日、学校で発見された彼の死体からは研がれたナイフが発見された。


 読了ありがとうございました。

 最後の方、ありえない感じでした。忍ばせた紙切れはなに? 死にそうな時に書く時間なんてないだろう、そう思った方も少なくないと思いますので、解説というほどではないですが補足を。

 最後の文章から殺された彼自身も彼女を殺したかったのは見て取れると思います。その理由がどんなものだったのか、特定する要素はありませんが……。何にしても殺そうとしていました。そして彼の場合、彼女を殺した後、自分の痕跡を残すために紙切れをわざわざ用意しています。二人とも殺したことを隠す気はなかったので、もしかしたら紙切れに指紋をつけておいて殺したのが自分だと特定されるようにしていたのかもしれません(作者の頭の中では二人とも考えが狂っていることを自覚していました)。結果的に彼の方は殺されてしまいましたが、最後の最後で彼女を縛るために紙切れを入れたのかもしれませんね。

 そして紙切れに気づいた彼女。その後彼女がどうなったのか、それは読んでくださった皆様のご想像にお任せします。

 長くなりましたが、読んでくださりありがとうございました!

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