問題編⑤
「……あ、わかった!」
優里は満面の笑みで叫んだ。
「ひらがなと漢字を読まないってことはカタカナ。さらに『漢字の中』って指示がある。つまりこの問題に書いてある漢字、『七、人、勝、休、満』の中でってこと。カタカナが入ってるのは『勝』の『カ』、『休』の『イ』、『満』のさんずいを取って『シ』。でも『カイシ』じゃ意味がわかんないし、あとカタカナになりそうなのは『七』よね? 多分ちょっと無理があるけど『セ』なんじゃないかな? ってことで答えは『セカイシ』、『世界史』よね?」
「それで多分正解よ。すごいわね、優里」
◇
「4問目の答えは先生ですよね? 武頼子先生」
武先生は綿あめを頬張りながらこちらを向いた。見た目はフツーなオバサンだが、1回授業を始めればベラベラと関係あることからほとんど関係ないことまで話し続ける、色々すごい人だ。現に授業の進み具合が非常に遅いけど、その分理解しやすい授業だと思う。
「あら、日野田さんに口井さん。どうかしたの?」
「だから何か答えが分かったと言われたら何かを見せろとか……」
「あぁあれね、持ってるわよ。はい、これでしょ?」
武先生はポケットから2つに折られた例の紙を取り出してわたしたちに見せた。『屋上へ上がる階段の前にある絵の裏側』とあった。
「武先生、この紙は誰からもらったんですか?」
「北坂先生よ。今朝来たら机の上に置いてあったんだけど、そこに名前が書いてあったからね。事情を聞こうとしたんだけど、北坂先生は生徒会とか部活で忙しそうにしてたからちょっとタイミングが無くてね。ま、別にいつでも聞けるから良いかなって思ったわけよ。ところで……」
「そうですか。ありがとうございました」
これ以上だと長くなりそうなのでわたし達は早めに話を遮ってその場を立ち去った。
◇
「あれ、牧原先輩?」
屋上への階段のところへ行くと、牧原茉利会長がいた。彼女は何というか……美人だ。そう、美しいという形容詞が似合う女性だと思う。同じ女のわたしが見てもそう思う。その長くて艶のある髪や細くて長い脚、どれをとっても美しい。
「あら、口井さん。もしかして例のクイズを解いてるの?」
「はいそうです。今その途中でして……」
「そう。頑張って頂戴ね」
そう言い牧原先輩は立ち去ろうとした。が、優里が呼び止める。
「ところで牧原先輩は何をしていたんですか?」
牧原先輩はゆっくりこちらに振り返る。そして少し微笑んでから言った。
「ちょっと屋上から学校を見たくてね。みんなが楽しんでいる様子を観察したくて……ほら、私はこれでも会長でしょ? だからみんながどうしているか、それを知るのは必要なことだと思うの」
「ああ、だからいつも集まりには最初に到着するようにしてるんですか?」
「ええ。でもいつも口井さんだって早いじゃない。今日だってほら、私と口井さんと雲谷さんで女子3人は先に揃っちゃったじゃない。あと高沖君もいたけど」
「そうでしたね……あ、すみません呼び止めちゃって」
また少し微笑むと牧原先輩は下の階へ降りて行った。それを見届け、さっそく絵の額縁の裏を見る。そういえばこの中泉学院全体を描いた絵は、結構有名な画家が描いたみたいだったけど――誰だっけ? 説明のプレートが無くなっているのでよく分からない。ま、そんなことは置いといて問題だ。
第5問
学校と草のある雨を降らさない雲
これを読み解くと出てくる部活動は?
「う~ん……これはさっきより難しそうね」
わたし達はまじまじと額縁の裏を見つめる。そういえば今までの全部の問題は手書きだけど、それには何か意味があるのかな? すると優里が問題を見ながら呟く。
「多分『学校』と『草のある雨を降らさない雲』で別々の何かを示すんじゃない?『と』でつながってるしね」
「うん、でもそれぞれが何なのかがね――」
今までの流れからしてそれぞれを言い換えというか、少し言い回しを変えるのかな?『学校』なら記号にするとか……『草のある雨を降らさない雲』なら……。
「あ! わたし、分かったかも。きっとあの部活よ!」
わたしが手を叩くと、優里は微笑んだ。さっきの牧原会長の真似? ちょっと違う気もするけど。なんだか優里がやると可愛く見える。