問題編④
「アルファベットを変換するって何なの?」
優里がわたしのことを不思議そうに見つめている。わたしはこういう仕草がなんとなく“女の子らしい”気がする。こういうところが男子の気を引くのかな?
「あ、えっとね、優里の言葉がヒントになったのよ。あれが『0』だったってこと。言われてみれば確かにそう見えるけど、手書きだから尚更わかりにくくなってる。つまりアルファベットの羅列の中に数字があるし、とりあえず全部アルファベットを数字にしてみるのよ。単純に順番、『ABC……』のね。つまりAなら1、Nなら14って具合にね。それをやったのがこう」
わたしはさっき書いたものを優里に見せた。
『1
141421356
17320508
2
22360679』
「で、この数字が何なの?」
優里は顔をあげてきいてきた。
「よく考えてみてよ。この並びに見覚えが無い?」
するとまたも右足を軸にクルクル回り始めた。これは優里の考えるときの癖なのかな? そして左足を地面につけて言う。
「いや、お手上げよ。これは何なの?」
「よく見てよ、平方根じゃない。『ひとよひとよにひとみごろ』みたいなあれ。上から√1で√5までの有名な語呂合わせのある部分ね。つまり答えは数学じゃない?」
◇
「あの~3問目の答えは先生ですよね? 浦川倫造先生」
浦川先生はこちらを振り返る。浦川先生のあだ名はご隠居。落語に出てくるご隠居のイメージだからかな。でも分厚い眼鏡の奥の瞳にはまだキレがあるし、年の割にはすくっと立っている。
「……ん? 何のことですかな?」
「え、知らないんですか? 問題の答えは先生だって言われたら何か見せてください、みたいな指示の紙とかもらってないんですか?」
「あぁはいはい、そういえば北坂先生からもらってましたねぇ。え~っと、これですかね」
浦川先生は服の内ポケットから、今までと同じような紙を取り出した。そこには『事務室前掲示板のポスターの後ろ』と書いてある。
「ところで浦川先生、その紙は直接北坂先生からもらったんですか?」
「いや、職員室の私の机に置いてあったんですよ。朝、私が来た時からね。今は持ってませんが、指示の書いてあった方の紙の最後に『北坂』って書いてありましたし……それにあの字の感じからするに北坂先生が書いたんだと思いますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
◇
「浦川先生の話からしたら犯人は北坂先生なのかなぁ……」
優里は歩きながら言った。
「いや、まだ分かんないよ。誰かが北坂先生の字を真似たのかも。ほら、浦川先生は老眼だし細かい字にしたらばれないんじゃない?」
「そんなものかなぁ……」
そんなことを話していると事務室前に着いた。ここも校舎の隅だからかシーンとしている。
「きっとこれよね? この生徒会のポスター」
「多分そうよ。にしてもいつ見てもこの文化祭のポスターはすごいわよね」
「だってこれを作ったのは牧原先輩よ! 牧原先輩のパソコンスキルはすごいの。いつもパパパッと色んな資料とか何なりを作ってるし。あたしには到底無理よ、こんなのを作るなんて。まあ手描きでこれが作れるかと言われたら無理でしょうけど」
優里は苦笑しながら言った。優里はスマホとかそういう機械類を使うのが下手なのだ。こういうのは今の人にしてはすごく珍しいことだと思う。ま、それも彼女の魅力なのかな。
ともかくわたしは掲示板に貼ってあるポスターの画鋲をとる。よく見れば2度程画鋲をとった跡がある。1回は問題を作った人がとった時の跡だろうけど、もう1つあるってことは誰か問題を解いた人がいるってことなのかな? ともかくわたしは問題を読んだ。
第4問
七人も勝ったので休みを満きつできた
ひらがなと漢字は読まないと出てくる教科は?
〔ただし漢字の中で〕
「今度は国語みたいな問題ね……」
優里が呆れ声で言った。すると後ろから声がした。
「あれ、口井さん? こんなところでどうしたんだ?」
「保城君じゃない」
そこにいたのは生徒会副会長、保城甲太君だ。身長は女子のわたしよりも低く男子にしては小柄な方だと思うが、結構な目力がある気がする。グッと見つめれば相手が怖気付いてしまうようなそんな感じ。
「あたしたちは今朝見つかった謎のクイズを解いてるのよ。何か分かるかもしれないからね。ところで保城君は何しに事務室まで?」
「僕かい? 僕はクラスの出し物にちょっと不具合が出ちゃって。それで事務室からいらない紙をもらえないかと思ってさ。くしゃくしゃにして詰めるためだから、普通の紙だともったいなくてね。まあ多分僕が今朝、急いで体育館に向かった時にぶつかったから、底が壊れたんだと思うけど」
「そういえば保城君、今朝は遅刻しそうになってたわよね。トイレに行こうとしたときに、保城君が走って教室に向かうのが見えたわよ。あの時はもう田町先輩以外は揃ってたけどね」
「うわ、そうだったのか。ま、一応予定の7時半には間に合ったんだから……てかこんな話してる場合じゃないや。じゃ、頑張ってそれ解いてくれよ」
そう言い事務室に入った彼はすぐに裏紙を持って出てきて、自分の教室に戻っていった。
「ところで理絵花、何か分かった?」
「うん、まあね。ちょっとさっきのよりは簡単かな?」
「本当? じゃあちょっとヒント教えて!」
優里はまた可愛らしい目でこちらを覗きこむ。
「う~んと……ひらがなと漢字を除くってことは何を読めば良いかを考えてみて。ただし括弧に書いてあることをふまえてね。それで問題文を読み直すのよ」