問題編③
「これはちょっとした発想の転換と知識が必要ね。まず『愛』を英語にしてみると?」
「流石にそんくらいできるわよ。『ラブ』よね。『love』って書くやつ』
「そうね。じゃ次は『無い』の言い換えよ。日本語で無いってことを別の言い方すると?」
「えーっと、空とか、消えるとか?」
「いや、もっと数的なことよ」
「数的ってゼロってこと――あ!」
「うん。『ラブ=ゼロ』なのはもうわかるよね?」
◇
「第2問の答えはあなたですよね。テニス部部長の有田成治先輩」
ご友人と楽しそうに話していた有田先輩に声をかけるのは少し気が引けたがしょうがない。有田先輩は面倒臭そうにこっちを向いた。彼は高沖先輩のようにイケメンというより知的な印象だ。そして目つきは鋭く、睨まれると怖そう。
「なんだ、第2問ってのは?」
「おい、成治。さっきも来た人に見せてただろ?」
一緒にいた彼の友人と思われる人が言うと、かったるそうにポケットからシワシワになった紙を取り出した。そこには「体育館裏の花壇の端」と書いてあった。
「ほらよ。ったく、俺だってこんなことやりたくないんだけどな……頼まれちまったらしょうがねぇよな。先生からだし」
「それって誰から頼まれたんですか?」
わたしがすかさず聞くと、さらに面倒臭そうな顔になって答えた。
「顧問の根来だよ。クラスの俺の机の中に入ってたんだ。なんかクイズの答えは俺だって言う人がいたらこいつを見せろって指示の紙と一緒にな。手紙の最後に『根来』って書いてあったし、根来が俺に持って来たんだろ――てかもう良いか、お2人さん?」
「あ、すみません」
有田先輩はころっと表情を変え、楽しげに歩き始めた。すると優里が言った。
「とりあえず体育館に向かいながら話してよ、理絵花。何か思うことがあるんでしょ?」
「そうね」
◇
「まず、有田先輩はテニス部顧問の根来弘樹先生から受け取ったって言ってたけど、それが本当に根来先生からのものかはわかんない。だからやっぱりあの貼り紙が発見された時に学校にいた生徒会の長の中を疑った方が良いんじゃないかな――もちろんそれには優里も含まれちゃうけど……」
「ま、それはしょうがないからね。でも動機が全く見えないわよね」
体育館の裏に回り込むと生徒会の書記、田町明男先輩が花壇の側にいた。
「あれ、田町先輩。何やってるんですか?」
優里が声をかけるとビクッとなって、こちらの方を睨みつけてきた。
「べ、別に特にこれといって――ほ、ほら俺は帰宅部だしさ。何かしなくちゃいけないことがクラスのこと以外に無いんだよ。で、暇だしここに――じゃ、じゃあな」
そう言い残し彼はそそくさとどこかへ行ってしまった。
「ここで何かしてたのかしら」
「さぁ。田町先輩、あんまり人と群れようとしないから」
少し彼のことも気になったが、わたしたちは次の問題を探す。すると優里が隅っこに貼り付けてあるのを見つけた。
第3問
A
NNUCEF
QCB0E0H
B
VCF0FGI
これから連想される教科は?(英語ではありません)
「え、何これ? 理絵花はわかる?」
「多分純粋にアルファベットで考えるんじゃないとは思うけど……」
「ふーん」と優里は言い、腕を組んで空を見上げた。わたしも真似して空を見上げる。空は青く、雲はほとんどない。なんだか久しぶりにこんなにまじまじと空を見つめたなぁ、とわたしは思った。時にはこういう休息も必要ね。
はっと気が付くいて優里の方を向くと、再び問題に見入っていた。問題から目を離さずに優里は言う。
「……ねぇ理絵花。これも手書きだからわかりにくかったけど、3段目の右から2番目と4番目、5段目の真ん中はアルファベットの『O』じゃなくて数字の『0』なんじゃない? ちょっと縦長に書いてるから」
その言葉で、わたしは1つひらめくものがあった。
「優里、何か書くもの無い?」
「え、シャーペンで良いなら……」
優里が差し出したシャーペンをわたしは生徒手帳の隅っこに滑らせる。
「なるほどね。これもアルファベットを変換するだけだったのね」