その8 9人の騒げる少女たち
「ん~……、誰だっけ? チワ、知ってる?」
「ううん。あ、でも、その制服……」
智環が十数分前の記憶を掘り起こしている間に、さらに数名の少女たちが団体で押しかけてきた。
「千翼たちを助けてくれたのアナタたち!?」
「わー、ホントにまだいたんだね! スゴイスゴイ!」
「え? あ、あのっ! え? ええっ!?」
「アリガトね、お礼にコレあげる!」
「どうも。で君らダレ?」
智環の手を握り締めて涙ぐむ子や、透に甘い匂いのする袋を差し出す子など、5、6人の少女たちに取り囲まれ透と智環は目を白黒させる。
「いい加減になさいっ。そんな一度に話しかけたら迷惑でしょう!」
賑やかに騒ぐ少女たちの後方から、しかつめらしい声が響いた。
「そうだよ、2人とも困ってるじゃないか。みんな落ち着いて。ほら離れて離れて」
また別の声がして、女の子たちをかき分けるように進み出てきたのは、透と同じくらい背が高く凛とした雰囲気の少女だった。
そのすぐ後ろには、やはり女性にしては背が高く、どこか雅な印象の少女が控えている。
「驚かせてごめんね。私は羅門明良。こっちは――」
「計羽釈美です。よろしくお願いいたします」
明良に促されるように後ろの少女が一礼する。
「私たちは、この子たちの、あー、保護者みたいなものかな? 同じ学校の生徒会長と副会長をやってます」
保護者という言い方が気に触ったのか、後ろの団体が抗議の声をあげかけたが、釈美が一瞥すると潮が引くように静まった。
「アタシは神奈谷透。スゴイね、会長サンなんだ」
「……っ! あ、えっと、杉山智環、です」
少女たちのやりとりに圧倒されていた智環は慌てて透のあとに続いた。
「はは、ただの雑用係だよ。3人を助けてくれてありがとう。みんなを代表してお礼を言います」
明良がそういって頭を下げると、後ろにいた少女たち――総勢8人――も一斉にそれに習った。見たところ学年もバラバラらしく、お手本のように深々と一礼する者もいれば、しきりに頭を上下させる者もいる。
一見まとまりのない一団に思えるが、全体としてはなぜか一体感を感じさせる不思議な集団であった。
「べつに大したことはしてないよ」
「助けてくれたのはあとから来た人たちだし、ね?」
本当のことを言うわけにもいかず、透と智環は顔を見合わせた。
「そんなことない!」
叫びながら身を乗り出したのは、鷹羽に絡まれていた際、健気に仲間をかばっていた少女だった。
「私たちが無事なのは2人のおかげですっ」
「そうそうそう!」
「すっごく嬉しかったんだよ!」
現場にいた残りの少女たちも続いて前に進み出た。そのようすに釈美の眉尻がわずかに動いたが、明良の目配せを受けて開きかけた口を閉じた。
「私、すぐ意地になっちゃうんです。あのときだって、逃げたほうがいいって分かってたのに、あんな乱暴な奴に負けたと思われるのが悔しくて……。2人が来てくれなかったら、ずっとあそこから動けなかったと思う」
「あ、やっぱり……」
少女が意固地になっていたのは、居合わせただけの智環にも一目瞭然だった。だから彼女に声をかけるとき、できるだけ柔らかい言葉を意識したのだ。
「分かっちゃいました? そうなんです、穹ちゃんってね、すっごく負けず嫌いなの。オヤツのジャンケンに負けたきも一日中へこんじゃうの」
「ちょっとロマ!?」
「今日もね、ほんとは遊園ひにひほう、……ひはいよほらひゃ~ん」
「余計なコト言わないでいいのっ」
穹と呼ばれた少女が友人の両頬をつまんで引っ張りあげた。
「ほらほら、穹、はなしてあげな。運勢も話の腰を折らないの」
「……あ、と、とにかく、すごくカッコよかった! ほんとに!」
明良がもみあう2人をとりなす間に、最初に走り寄ってきた少女が会話を引き継ぐ。友人たちから千翼と呼ばれていた子だ。
「ずっと私たちのこと探してくれてたの?」
「あの騒ぎでとっくに逃げてるとは思わなかった?」
智環と透が当然の疑問を口にすると、後ろに控えている集団の年長組らしき2人が肩をすくめる。
「千翼が『お礼を言いたい、ゼッタイまだこの辺にいる』って言い張るから」
「運勢と穹もね。言い出したら聞かないのよ」
呆れたような口ぶりだが、2人の穏やかな表情を見るに千翼たちの提案に反対する者はいなかったのだろう。
明良も仲間たちの言葉にうなづきながら千翼の肩に手を置く。
「それにこういうときの千翼のカンは当たるから」
「人探しは得意です!」
「忘れ物も得意だよね~」
「言わないで、ロマちゃん……」
ひとしきり事情説明が終わったところで、後ろで控えていた少女たちも自己紹介を始めた。明良の懐から軽快な曲が流れ出したのは、ちょうど最後のひとりが挨拶をし終えたときだった。
「っと、もうこんな時間か。みんな、残念だけどここまでだ。戻るよ」
ケータイをのぞきながら明良が一同をうながす。
「ええー!!」
「まだちゃんとお話ししてないのに!」
「おだまりなさい。時間厳守だと言われたでしょう」
年少組と思しき一角からブーイングが巻き起こるが、明良の隣に控えていた釈美が一喝する。
もともと長話に適した場所とはいい難い。鷹羽たちの引き起こした騒動はまだ収束しておらず、警察官や救急隊員たちがそこら中を行き交っている。
このあと予定があるという明良たちは、それぞれに別れの言葉を口にしながら名残惜しそうに駅とは別の方角へ去っていった。
一行を見送った透と智環は改めて駅に向かって歩き出した。
「にぎやかな子たちだったなぁ。なんのグループなんだろ」
「遠くから来たのかな? お土産探してたみたいだし」
去り際、千翼から「このへんでみたらい団子が買えるお店、知ってる?」と聞かれた智環は、ケータイで手近な店を探してあげたのだ。
「見覚えない制服だったから、このへんの学校じゃないのはたしかだね」
考えこむ透の横顔を見上げながら智環が思い出したように微笑む。
「明良って人、王子様っぽくてステキだったね。なんかトオルちゃんに似てた」
「えーっ! 似てないよ。アタシ、あんなキラキラじゃないから。むしろ良でしょ、ああいうタイプは」
「そんなことないよ。うちのクラスでもみんなよく話してるよ。男子よりかっこいいって」
「ほんとにぃ? イメージすごいなぁ。……あ、ROOMにアキが来てる」
ケータイの表示に気づいた透はアプリを立ち上げた。
<お前、今ハラジュク? 速報出てるぞ。杉山さんもいっしょか? 無事なのか? ケガしてないか?>
「とりあえずやっつけた。カナには報告済み」
「私もトオルちゃんもケガしてないよ」
2人がメッセージを入力すると、数秒と経たずに暁雄から電話が入った。
「やっとか! いったい何があったんだ? なんで街が壊れてんだ? フィールドはらなかったのか?」
「落ち着けアキ。こっちもいろいろあったんだよ」
「相手の人たちがいきなり戦い始めちゃって。カナちゃんに聞いたら一応ルール通りなんだって」
2人は同時通話モードで暁雄と会話しながら駅へ向かう。思ったより対向者が多く、会話に気を取られるとぶつかりそうだ。
「……あ、そっか、そういうことか。じゃあ、相手はプレイヤーじゃなかったんだな? どんな奴らだった? シブヤに来たのと同じ奴らか?」
「いろいろあったんだよ。ありすぎて今はムリ。帰ってから話すよ」
「わかった。気をつけてな。杉山さんも」
「うん、ありがとう」
電話を切った2人は駅へ近づくにつれて人混みが増していくことに気づいた。どうやらニュースを見て野次馬が押しかけて来たらしく、やがて思うように進めなくなってしまった。
駅前の混雑ぶりに呆れた透と智環は、電車を諦め大通りでタクシーを拾うことにした。




