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本気を出さない俺に与えられた難攻不落のチートスキル  作者: 参河居士
第10話 大乱闘スプラッシュブラッディーズ
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その6 望まぬ幕切れ

「大尉!」

 仮面の人物に支えられながらリーナが自分の足で地面に立ったとき、上空から星河せいかが舞い降りてきた。

「ご無事でしたか!?」

「モーリか。まずこの子の具合を診てくれ」

 リーナは気を失っている男児を抱え上げながら手短に事情を説明する。男児の身体には鉄鎖で締められたアザができていて、目立つ外傷はないものの詳しい容態までは分からない。

 男児を星河に託したリーナは、羽衣ユニットを再装着したあと仮面の人物に向き直る。

「貴兄の助力に感謝する」

「それはまぁ、おたがい様ってコトで」

「? どういうことだ?」

「とりあえずさ、話はアイツを締めてからにしない?」

 仮面の人物にうながされて振り返ると、半壊した民家の奥からガラガラと音を立てながら何者かが出てくる。それが誰であるかは明白だった。

「その子を医者に連れていってくれるなら、あとは任せてくれてもいいけど?」

「せっかくの申し出だが、そこまで手数をかけるのは気が引けるな」

 崩れかけの扉が内側から吹き飛ばされ、鷹羽が道路に出てくる。手には鉄鎖を握りしめ、背後には黒蛇カノトミを従えている。怒気と殺気に満ちた視線が透を射抜く。

「テメェかよ。不意打ちとはやってくれるじゃねぇか。気に入ったぜ」

「子供を人質にするヤツに言われたくないね」

「おいおい、ホメてんだぜ? やっぱケンカはこうでなくちゃよ。たっぷり楽しもうぜ」

「間違えるなよ、貴様の相手は私だ」

 透の横からリーナが進み出る。空にはガラヴァーが円状に展開し、鷹羽の逃げ道を塞いでいる。

「すぐに終わらせてやる」

「……けっ、シラけたこといいやがる」 

 2対1では分が悪いことくらい鷹羽も分かっている。普段ならそれも望むところだが、今はそうもいかない。

(雇われモンのツレーところだぜ)

 鷹羽が柄にもないことを考えていると、さらに別の人物が現れた。みかを見失った智環が透と合流するために飛来したのだ。

「あ、さっきの」

 一同の後方に降下してきた智環を見て星河が声を上げた。

「何者だ?」

 鷹羽を見すえたままリーナが正体を問う。何者かが近づいてくることは魔力レーダーで把握していた。

「わかりません。でも私を助けてくれました」

「その子は敵じゃないよ。“オレ”の仲間」

「あ、その、よろしく、お願いします……」

 4人が慌ただしく顔合わせを済ましている間に、鷹羽のもとにも朏がやって来る。

「鷹羽~! ヒマならさぁ……って、こっちも増えてんじゃん!」

「ナニモンだ、アイツら」

「あたしが知るわけないじゃん。あ、でも、後ろの子は知ってる。そこの子をイジメてたら邪魔してきたんだよね。なんか呪術使いっぽい」

「ふん……」

 鷹羽は不愉快な面持ちで透たちをにらみつけた。

(探ってみるか? やられたままってのも気に入らねぇしな)

 鷹羽たちには見覚えのない相手でも、プレイヤーは何か知っているかもしれない。実際に手合わせをすることで情報を得られれば、正体をつかむヒントになるはずだ。

 一瞬そんな考えもよぎったが、鷹羽はすぐに頭を切り替えた。

「……しゃーねぇ。退くぞ」

「ええー。そんな聞き分けいいいの、鷹羽っぽくなーい」

「っせぇ。まだ遊びたんねーからな。こんなトコで退場してられっか」

 いくら傍若無人な鷹羽でもプレイヤーから疎まれている自覚はある。契約上、強制的に退場させられることはないが、戦いに敗れトゥルノワからはじき出されたら二度と召喚されないだろう。

「アハッ、自分の立場わかってたんだ♪」

 コソコソと話している鷹羽たちをいぶかしみながらリーナが一歩踏み出す。

「どうした逃げる算段か? 言っておくがいまさら容赦はしないぞ。お前たちは危険すぎるからな。ここで排除する」

「うーん、それはヤだなぁ。じゃあじゃあ、鷹羽は置いてくから、あたしは見逃してよ」

「ざけんなよ、テメェ」

「いーじゃん。始めたセキニンとりなよ。あたしは巻きこまれただけだもん」

「ダメ! あなたは……、あなただってヒドイことしたじゃないですか! 絶対許さない!」

 朏の無責任な発言に星河が激しい剣幕で応じると、鷹羽は牙をむき出しにして笑う。

「だとよ。残念だったな」

「でもでもぉ、あたし誰もケガさせてないよ? おねーさんがジャマしたんだから」

「そういう問題じゃない!」

 朏と星河のやりとりは、はたで見ればただの口ゲンカに思えるが、両者の間に張り詰めた緊張感は失われておらず、たがいに相手の動きに神経をとがらせている。

 それゆえ、路地の片隅で起きたかすかな異変に気づいたのは一番後方にいた智環だけだった。

(? なんだろ……。何の音?)

 カラカラと微かな音がどこからともなく聞こえてくる。それも路地のあちこちから。あまりに小さな音なので、音源がいくつもあるのか、反響のせいなのかすら判別できない。

「交渉決裂かぁ。せっかく鷹羽をイジメさせてあげようと思ったのに。オネーサンたちがいいっていうならしょうがないよね」

 朏のその言葉を引き金にカラカラという音が一気に高まっていく。音が大きくなっているのではない。どんどん近づいてきているのだ。

 しかし智環の能力を持ってしても音源を見つけることができない。

(どこ? いったい何が?)

 カラカラという音は、もうすぐそばにまで近づいている。にも関わらず辺りには何もない。左右の壁の向こうを透視してみたが、それらしいモノは発見できない。

(もっと音に集中すれば……)

 そう思って目線を下ろしたとき音の正体を見つけた。

独楽こま?」

 確かにそれはオモチャの独楽だった。それも1つではない。建物の隙間や排水口から次々にはい出てくる。

「なんで、こんなところに……あ!」

 独楽の上にクルミ大のボールが乗っていて、ボールの先端にある導火線にはすでに火がついていた。

「! みなさん、気をつけて!!」

 その警句は一足遅かった。

 透たちが反射的に身構えたとき、路上をはっていた独楽の群れは一斉に煙幕をはき出していた。路地を中心に道路のあちこちから煙がわき起こり、またたく間に辺り一面を七色に染めあげる。

 この不意打ちにもっとも迅速に行動したのはリーナだった。

「モーリ! バリアを張れ!」

 煙にまぎれた攻撃に警戒するよう部下に指示すると同時に、自分は上空に飛びガラヴァーに攻撃命令を下す。熟練兵ならではの的確かつ素早い反応であった。

 だが、そのリーナをもってしても、後手に回った遅れを取り戻すことはできなかった。

 朏のレインボースモークには魔力レーダーを撹乱する効果があるらしく、鷹羽たちの位置がうまく捕らえられない。

 そして、ガラヴァーの狙いを定められない間に、わずかにあった反応さえも失われてしまった。

「消えた!? 馬鹿な……! いったいどうやって……? まさか転移魔法を使えるのか!?」

 その直後、戦闘に参加していた透たち4人の頭の中でなにかが鳴り響いた。それは「決闘」の終了を告げる合図だった。

 管理システムが、鷹羽たちの逃走を「戦意喪失による敗北宣言」とみなしたのだ。管理システムが戦闘停止を告げた以上、鷹羽たちを攻撃することは許されない。

「くっ……!」

 ルール上はリーナたちの勝利だったが、敗北した鷹羽たちも実質的な損害は受けていない。彼らにしてみれば、好き勝手に暴れまわった末、無事に逃げおおせたことになる。

「してやられた! あんな奴らに!!」

 雲海に沈んだ街並みを見下ろしながらリーナは悔しさに歯噛みした。

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