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本気を出さない俺に与えられた難攻不落のチートスキル  作者: 参河居士
第10話 大乱闘スプラッシュブラッディーズ
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その4 勝てばよかろうなの

 高速で飛来するガラヴァーを脅威と見た鷹羽たかはは素早く身を翻し駆け出した。鷹羽が向かった方角には、騒ぎから逃れた人たちが集まっていた。距離にして100mも離れていない。

「のろまのクズどもがっ、俺の役に立て!」

 鷹羽は群衆にまぎれて彼らを盾にするつもりだった。そうすればリーナは飛び道具を使えないはずだ。

 しかし、鷹羽がそのような卑劣な行動に出ることをリーナは予測済みであった。

 7基のガラヴァーのうち、3基が鷹羽に攻撃をしかけ、残りの4基は四方に分かれて鷹羽の行く手を塞ぐ。

「けっ、だがしょせんリモコンだろが!!」

 無人機なら狭い場所での追跡は困難に違いない。そうふんだ鷹羽は手近な家屋に飛びこんだ。しかし鷹羽の予想に反し、ガラヴァーは軽快な動きで家具を回避し、壁や天井にぶつかることなく鷹羽に肉迫する。

 むしろ、障害物に邪魔され動きが鈍化したのは鷹羽のほうであった。

「ンの、くそがぁっ!」

 追いつかれる寸前、鉄鎖が室内をなぎ払う。ガラヴァーはその攻撃を難なく回避するが、破壊された天井の破片や倒れた家具がガラヴァーの進路を塞いだ。

 ガラヴァーが迂回路を検索している隙に鷹羽は窓から外へ飛び出した。その後も何度か建物の出入りを繰り返したが、ガラヴァーの探知機能をやり過ごすことはできなかった。

「無駄なことを」

 魔力レーダーとガラヴァーのセンサーによって、リーナには鷹羽の動きが手に取るように分かる。ガラヴァー各基に指示を与えながら鷹羽を追い立てる。

 突如、背後で轟音が鳴り響いた。振り返ると街の上空に巨大な火球が生まれていた。

「まさか……!」

 不安に駆られたリーナは音声通信機能をオンにし星河せいかに呼びかけた。

[モーリ! どうした? 今の爆発音はなんだ?]

[あ、大尉! 敵の攻撃を受けましたが、私は無事です]

 温厚な性格の星河が戦端を開いたのは意外だったが、すでに戦闘が始まっている以上、経緯を問いただしても意味がない。

 星河の無事を確認し胸をなでおろすと、深追いを避けるよう指示し通信を切った。

 通常の闘技ルドゥスであれば星河に任せても不安はないが、この戦いは勝手が違いすぎる。

(まして相手がアレではな)

 リーナは鷹羽と共にいたみかの幼い容姿を思い浮かべる。

(お人好しなモーリには荷が重いだろう。さっさと終わらせて助けてやらねば)

 星河と通信を交わしていた間もガラヴァーの包囲網は緩まない。

 雑居ビルの3階から飛び降りた鷹羽の行く手に、また別のガラヴァーが現れる。

「こっちもかよ!」

 前後を抑えられた鷹羽は、すぐそばの脇道に飛びこむ。だが10mも進まずに足を止めた。

 高さ20mほどのビルに挟まれたその路地は、30mほど先で行き止まりになっていて、正面突き当り上方に2基のガラヴァーが先回りしていたのだ。

「……ハメられた、ってか?」

「その通りだ」

 リーナの声に振り返った鷹羽は10mほど視線を上げる。そこに2基のガラヴァーを従えたリーナがいた。そして鷹羽の頭上には3基のガラヴァーが浮遊している。文字通り八方塞がりであった。

「終わりだ」

 もはや逃げ場はない。リーナが突撃の指令を下せば、7基のガラヴァーによって鷹羽の肉体は粉々にされる。だがそんな状況下にも関わらず、鷹羽は恐れ入った風もなく不敵に笑い返した。

「そうかよ。んじゃあ、しっかり狙えよ? コイツに当たってもイイってんなら別だがよ」

 そういって左手の鉄鎖を掲げると、その先端が異様に膨らんでいた。長さにして1mほどもある。丸太のようなものに鎖を巻きつけているようだ。

 訝しむリーナの眼前でジャラジャラと音を立てながら鎖がほどけていく。

「……!? 貴様っ!」

 鎖の下から現れたのは、まだ10歳にも満たないであろう男児であった。口にシャツの切れ端を突っこまれた児童は恐怖と苦痛に顔を歪め、両目からは涙を流していた。

「どうしたよ? 早くしろよ。俺は覚悟を決めたぜ?」

 ガラヴァーに追われていた間、何度もビルや家屋に潜入していたのは追跡をまくためだけではなかった。人質に手頃な人物を物色していたのだ。

(正義ぶったヤツほどこの手が効くからな)

 鷹羽は男児を高々と掲げると、そのか細い首を右手で締め上げる。

「それとも試してみるか? テメーの攻撃が当たるのと、俺がコイツの首をへし折るのと、どっちが早いか」

「貴様と言うやつは……っ!」

「どうした? さっさとしろよ? ん? それともコイツをヤるところが観たいのか?」

「やめろ! 無益なことをするな!」

「おいおい、それが人にモノを頼む態度か? ガキを離して欲しけりゃ、先にそのオモチャを外しな」

 鷹羽の要求は露骨であった。武装を解除したところで子供を離すとは限らないし、ここで武装を解除すればどうなるか火を見るより明らかだ。

 もしここで、リーナが犠牲を顧みずに攻撃したとしても、トゥルノワのルールには反しない。むしろ闘技兵アパリティオにはプレイヤーの勝利を最優先する義務がある。しかし――。

(すまない、司令カマニディール……!)

 そうと分かっていても、リーナには鷹羽の要求を拒むことはできなかった。

「わかった。要求に従おう。だから子供には乱暴するな」

「は、やっぱり甘っちゃんだな! とっ捕まえておいて正解だったぜ」

 どれだけ嘲笑されてもリーナには返す言葉がない。地上に降りると言われた通り羽衣ユニットの機能を停止する。浮遊力を失ったユニットはリーナの身体を離れて地面に落ちた。

「これでいいだろう。子供を離してやれ」

「おらよ、受け取りな!」

「!」

 無造作に放り投げられた男児の身体をリーナは慌てて抱きとめる。

紫黒蛇拘しこくだこう!」

 児童を抱え動きの取れないリーナ目がけて鷹羽が鉄鎖を投げ放つ。

「くっ! せめてこの子だけは……!」

 リーナは咄嗟に子供を抱きかかえ、鷹羽に無防備な背をさらす。だが鉄鎖は途中で方向を変え、リーナではなく左右の壁に突き刺さった。

 壁を破壊する音が間断なく鳴り響き、砕かれたコンクリの細片が煙のように路地に充満する。2本の鉄鎖は両脇のビルを縫い合わせるかのように何度も往来し、その中間にあるリーナの身体を絡め取っていく。

「ぐっ、う……っ!」

 破壊音がやんだとき、リーナの身体は蜘蛛の巣状に張り巡らされた鉄鎖の中心に絡め取られていた。

「やれ、カノトミ!」

 鷹羽の呼びかけに応じて、巨大な漆黒の蛇がリーナの眼前に現れた。

「なっ!? あぐ……っ!」

 巨大な蛇はリーナを無視して空に浮かび上がっていく。すると、その黒蛇の動きに合わせ鉄鎖の網も上方へ伸びていき、地上から50mほどの高さまで引き上げられた。

「どーだ、いい眺めだろ。わざわざ高い場所で死なせてやるんだから感謝しな、トンボ野郎」

 リーナの首や手足に巻きつけられた鉄鎖が徐々に締め上げられていく。鎖に圧された腕の中で男児が苦悶の声をあげる。

「ケハハハハハ! おいおいしっかりしろよ。ガキが潰れちまうんじゃねーかぁ? カワイソーによぉ」

「ぐっ、やめ……ろ……っ!」

 声を出そうにも喉を締め上げられて呼吸すらできない。

 闘技兵アパリティオのリーナは、分体が破壊されても本体に影響はない。だが男児はそうではない。リーナ自身に男児を圧死させることが鷹羽の狙いであった。

 リーナは全身の力を両腕にこめるが、幾重にも絡み合い、締めつけてくる鎖の圧力に抗しきれない。男児の潰れていく感触が両腕を通して直に伝わってくる。

 呼吸困難のため意識が朦朧とし、視界はかすみ、耳鳴りがする。先程まで聞こえていた子供の泣き声もすでに聞こえない。

 その残忍なショーは離れた場所からも目にすることができた。

 異変を察知し振り返った星河は、ビルの谷間からそそり立つ鉄の塔と、その先端に拘束されているリーナの姿を見た。

「……大尉!? なんで!?」

「よそ見禁止ぃ~♪」

 リーナの窮地を察した星河がそちらへ向いかけたとき、耳元で朏の声がした。

「!?」

 気を取られたほんのわずかの間に、朏が至近の距離にまで迫っていた。驚いた星河が思わず腕を突き出すと、朏は呆気ないほど簡単に離れた。

「偽物!? またこんな……!」

 くしゃくしゃになって離れていく「それ」は、確かに朏の放った塗り絵アバターだった。

 ただの紙に戻ったアバターはユラユラと揺れながら離れていく。それが突然粉々に引き裂かれ、舞い散る紙片をかき分け竹とんぼの群れが襲いかかってきた。

 アバターで視界がふさがれ、接近に気づくのが遅れた。全方位にバリアを展開する時間はない。

(――ダメっ!!)

 星河は咄嗟に両腕で頭を覆った。

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