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本気を出さない俺に与えられた難攻不落のチートスキル  作者: 参河居士
第10話 大乱闘スプラッシュブラッディーズ
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その3 とんだシャボン玉

「ひゃっ! とっ! きゃっ!」

 上空から降り注ぐ光弾を、みかは巧みにかわし続ける。

 全身を彩る風船の浮力を利用して屋根から屋根へ飛び移っていく。かと思えば、路上すれすれまで降下し、壁や街灯を蹴りつけながらジグザグに移動する。

「こわいこわーい! アハハハハハハハハハハハ!」

 でたらめな動きで星河せいかを挑発しているようで、物陰や通行人を利用して狙いをつけさせないあたり、狡猾なまでに戦い慣れしているのが分かる。

 星河は朏の動きを目で追いながら慎重にタイミングを測る。

「そこ!」

 ビルの陰から飛び出した人影を光弾が射抜く。

 直撃を受けた「朏」の肉体は、光弾に貫かれた場所からビリビリと裂け目が広がり、まるで紙切れのようにちぎれとんだ。

「!?」

「ハッズレ~」

 星河が見つめていた場所から2軒ほど隣の屋根の上に朏が姿を見せた。驚きを押し殺し星河がすかさず狙い撃とうとしたとき、別の方向からも朏の声がした。

「塗り絵アバターだよ♪」

「ソックリでしょ?」

「ホンモノはだーれだ!」

「あたしだよ」

「違うよ、あたしがホンモノ」

 家屋の上や路地の角など、あちこちから「朏」が現れる。

「……分身? 魔法なの?」

「だーかーらー神血痕スティグマだってば」

「オネーサン、人の話聞かっ――」

「ちゃんと教っ――」

 偽物の朏は、その場で漂うだけで攻撃を仕掛けてくることはない。しかしだからといって放置するわけにはいかない。

 本物との見分けがつかないし、幾つ破壊しても後から後からわいてくる。

「これじゃ切りがない!」

 星河が偽物を相手にしている間、本物の朏はただ移動しているわけではなかった。右手で塗り絵をばらまきながら、左手には別の玩具を持っていた。

 それはシャボン玉を作るリング型の玩具で、大径のリングの中に小径のリングが連なっていて、一度に12個のシャボン玉が作れる。

 朏はそれをかざしながら竹上通り一帯を一回りした。朏が通り過ぎたあとには無数のシャボン玉が残され、ふわふわと空に向かって浮かび上がっていく。

(……? ボール? 何?)

 家屋の向こうから、キラキラと陽光を反射させながら無数の球体が浮かび出てくる。それらに注意を奪われた星河は、背後に周りこむ朏の存在に気づかなかった。

「いっくよ~、レインボー☆バブルぅ♪」

「後ろ!?」

 朏のダンスに合わせてバブルリングからシャボン玉があふれ出し、星河が振り返ったとき、朏の姿はシャボン玉が織りなす半透明なカーテンで完全に覆い隠されていた。

「ただの石鹸水……なわけないよね」

 怪しげな技を使う相手だけに、このシャボン玉にもどんな効果があるか分からない。そう思うと光弾で撃ち落とすのはためらわれた。

 星河が対処に迷っている間に、別の場所からもシャボン玉がどっと湧き上がる。いったん星河の前に姿を見せた朏がシャボン玉に紛れてまた移動を繰り返しているのだ。

 透明の球体はどんどんとその数を増していき、竹上通りの空を透明な輝きで満たしていく。

 その様子は竹上通りから少し離れた高層ビルやマンションからも目撃できた。

「なになに? シャボン玉?」

「きれーい」

「えー、すごーい。なんかのイベント?」

 地上の騒動を知らない高層階の人々は、空で乱舞するシャボン玉を見て童心にかえり、窓から身を乗り出してのん気に歓声をあげる。

 一方、地上では、無法な暴力の被害にあった者や騒動の惨状を知る者たちが、疲れ切った表情で空を見上げている。

 数百の視線が空に向けられているなか、シャボン玉の不可解な動きに気づいたのは星河だけだった。

「囲まれている?」

 一見、ふわふわと風に乗って漂っているように見えたシャボン玉は、いくつもの群れを形成していた。星河を挟みこむように左右に広がっていく群れもあれば、星河の頭上や足下に回りこむ群れもある。

 無機質なその動きは、まるでアリや蜂などの社会性昆虫に代表される超個体を思わせ、幻想的でありながら、どこか不気味な光景であった。

 上下左右から星河を覆う泡の群れは直径100mを越える球体となり、その後はサイズを変えることなく、シャボン玉は内へ内へと密集していった。

 球体の内側がどんどん密度を増していくにつれ、星河の周りで異臭が漂い始める。

「……この臭い、まさか!?」

 シャボン玉の発する鼻腔に刺さるような強い刺激臭は、星河の世界に存在する可燃性の液体を思い出させた。

「準備おっけ~♪」

 シャボン玉の厚いベールの向こうで朏の陽気な声が弾けた。その両手には合計6本のロケット花火が火花を散らしている。

「そ~れ、燃えちゃえ~」

 放り投げられたロケット花火は、本物さながらの速度で泡の群れに突っこんだ。

 ロケットの末端から飛び散る火花がふれた途端、一番外側のシャボン玉が轟音をあげて爆発、たちまち連鎖反応を引き起こし、一瞬後、竹上通り上空で巨大な爆炎の花が咲いた。

「うわぁぁっ!」

「今度は何!?」

「上で爆発したぞ! ミサイルか!? どこ!?」

 巨大な爆発は周囲に大きな被害をもたらした。爆心地に面していた窓ガラスはひび割れ、ベランダに出ていた者たちは衝撃で壁に叩きつけられ、なかには火傷を負う者もいた。

 だが、爆破の元凶である朏は被害者のことなど気にもとめていない。

「ふっふ~ん♪ どうかなぁ~……あれ?」

 立ちこめていた煙が晴れると、爆発前と全く同じ場所に星河の姿があった。猛火の中心にいたはずなのに、体にも羽衣ユニットにも焼け焦げた跡ひとつない。

 朏の狙いに気づいた瞬間、複数のバリアで全方位を覆い爆炎を防いだのだ。

「ンもぉ~! それズルいよぉ! ズルい! ズルい! ズルい!」

 朏は強固なバリアに悪態をつき地団駄を踏む。だが、羽衣ユニットは、もともと宇宙での戦闘を想定しているため、この程度の炎ならばバリアを張る必要すらない。

(何なの、この子。武器は持ってないのに。魔法とも違う。訳が分からない!)

 常識の通じない相手ゆえに、もともと慎重な性格の星河としては、いつも以上に用心深くならざるをえない。

(でも、そのせいでこんな……!)

 相手の出方をうかがったことで、結果的に被害を拡大させてしまった。「羽衣ユニットに護られている」という安心感から、心のどこかで周りへの被害を軽視していたのかも知れない。

 後悔に歯噛みする星河のもとにリーナから通信が入った。

[モーリ! どうした? 今の爆発音はなんだ?]

[あ、大尉! 敵の攻撃を受けましたが、私は無事です]

[そうか。そちらも戦闘に入ったか。気をつけろよ。こいつら戦闘力は然程ではないが、加減や道理といったものをわきまえぬ。勝ちを急ぐな。周りの被害は最小限に抑えることを優先しろ]

[はい]

[無理はしなくていい。すぐに向かう]

[わかりました]

 通信を切った星河の手には新たな光弾が生成されていた。リーナが言うように相手は何をしてくるか分からない。

「だったら!」

 相手が何かしてくる前に勝負を決めるしかない。

「きゃ~、たすけて~♪」

 迫る星河の殺気にもひるまず、朏は笑いながら身を翻す。屋根から細い路地に飛び降り、星河の視線から逃れたところで塗り絵アバターをばらまく。

「またっ!」

 星河の思念に感応しカグヤの魔力レーダーが起動する。これまでの戦闘で朏本人の魔力は登録済みだ。いくらアバターで撹乱してもレーダーの探知からは逃れられない。

「待ちなさい!」

 邪魔する塗り絵アバターをカグヤのマニピュレーターで蹴散らしながら、星河の左右の手に無数の光弾が生成されていく。

 そしてついに、逃げ回る朏の背を視界にとらえた。

(これで一気に決める!)

 だが光弾が撃ち出される寸前、予期せぬ破壊音が星河の耳をつんざいた。

 思わず振り向いた星河の目に異様な光景が飛びこんできた。

 ビルとビルの間から空に向かって伸び上がる鎖の塔。その先端に拘束されている人物は――。

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