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本気を出さない俺に与えられた難攻不落のチートスキル  作者: 参河居士
第8話 クレイジー・プレイヤー
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その6 カオスレンジャー結成?

「みなさんにこちらをお渡ししておきます」

 スイーツを片付け、そろそろ帰り支度を始めようというタイミングで、カナンが机の上に光る球体を置いた。

 大きさは野球のボールほどだ。

「なに? これ」

「カラヴィスです。先日の闘技ルドゥスに勝利したことで、疑似クリスタルを大量に入手できたので作ってみました。これを使えばフィールド以外でも召喚時の姿になれます」

「え? まじで!?」

「変身アイテムってこと?」

 暁雄と透は、興味津々で机の上に身を乗り出す。

「トレーニング用の魔法具だ。トゥルノワのシステムとリンクしているから、この世界にいる限り使用制限はない」

「いつも持ち歩いている道具に融合させたうえで、起動用の合言葉を決めてください。それを唱えることでいつでも起動します」

「へー、んじゃさっそく」

 透は左腕につけていた腕時計を外すと、左手にした光る玉、カラヴィスを近づける。時計に接触したカラヴィスは、そのまま機器の中に吸いこまれていき、完全に見えなくなった直後、時計はまばゆく輝いた。

「これでいいの? 終わり?」

「はい。うまく融合したようです。次は、その機器をイメージしながら、何か言葉を思い浮かべてください。それが起動用の合言葉になります」

「じゃ、さっそく……変身!」

 時計をはめなおした透は、それらしいポーズをつけて叫んだ。

 特撮番組であれば、ここで派手なエフェクトのひとつも入るのだが、期待に反して何も起きなかった。気づいたときには透の姿が消え、代わりに狗面ランナーが立っていた。

「うおぅっ!?」

 意表をつかれた暁雄は、のけぞった拍子に椅子からずり落ちそうになった。

「すごいすごい! ホントだ! 変身できた! これって能力もそのまま? 闘技ルドゥスと同じように動けるの?」

「もちろんです。そうでなければトレーニングになりませんから」

 ヒーロー姿ではしゃぐ透を見て、暁雄たちも試してみたくなった。

「どれに融合させるかなぁ……。ケータイか、時計か。やっぱ時計でいいか」

「あ、じゃあ、私も……」

 2人はカラヴィスを受け取ると、透のときと同じように時計と融合させる。

「あとは合言葉か。ん~、合言葉ねぇ……」

「変身でよくない? 分かりやすいし」

 狗面ランナー姿の透が焦れったそうに急かす。

「ん? んん~、そこまでいっしょってのもなぁ」

「逆に同じほうがいいじゃん。戦団みたいで」

「む、それも一理あるな」

 同じ特撮好きだけあって、透の提案は暁雄のツボをついた。

「じゃ、それにしとくか。杉山さんはどうする?」

「あ、じゃあ、私も……」

 2人は腕時計をはめ直すと、視線を交わし、同時に口を開いた。

「変身!」

「へ、変身……!」

 暁雄が合言葉を言い終えたときには、もう変身は完了していた。反動のようなものはまったく感じられなかった。

 特撮ヒーローと魔法少女が、学校の教室で立ち話をしているようすは、はたから見たらかなりシュールな光景だろう。

「今さらだけど、カオスなメンバーだよなぁ」

 訓練はほとんどが個別メニューであるため、おたがいの姿をじっくり眺める機会がなかったが、こうして並んで見ると統一感のなさを改めて思い知る。

 智環は、魔法少女姿がまだ少し恥ずかしいようで、暁雄と目を合わせようとしない。

「異世界の姫と騎士、魔法少女に特撮ヒーローか。これが戦団なら混沌すぎる編成だな」

「あ、それいいね。混沌戦団カオスレンジャーとか? だったらアタシはレッドね」

 子供の頃にゴッコ遊びをしていたときから、透は、レッドがお気に入りだった。

「何言ってんだ、レッドはカナンだろ。リーダーなんだから」

「リーダーが赤色? どういうことですか?」

 異世界出身のカナンが、特撮あるあるについていけるわけもなく小首をかしげる。じつに可憐な仕草だが、暁雄と透はそれどころではなかった。

「アキぃ、それはないわぁ。リーダーが赤とかイマドキさぁ。カナンはゴールドだね。ゼッタイ」

「うっ、そうかっ、追加戦士枠かっ」

「で、リョウはブルーね。空飛ぶから」

「意味が分からん。なぜ色の話になるのだ」

 カナンと同様、リヨールも話の流れがまったく理解できない。

「チーム物のお約束だよ。パーソナルカラー、みたいな?」

「なるほど。そういうものなのですか」

「透ちゃん、わ、私は?」

「チワはピンクだよ。決まってるじゃん」

「えっ? い、いいのかなぁ、私で……」

 ピンクは戦団物のアイドル枠だ。智環は謙遜しているが、このメンバーの中では最適な人選といえるだろう。

「そうなると俺はブラックかな。好みで言えばブルーなんだけど」

「好きにしろ」

「あー、ないない。アキはグリーン」

 ブルーの所有権をあっさり放棄するリヨールに代わって、透が異を唱える。

「なっ!? それは一番ナイだろ! 緑って基本モブじゃん。せめてイエローだろ」

「イエローは王道ネタ枠じゃん。ぜーたく。グリーンだって追加戦士枠に使われるコトあるし、アキにはもったいないくらい。歴代グリーンに謝れ」

「くっ……」

 暁雄をやりこめた透は、変身を解除すると、腕時計を掲げながらカナンを見やる。

「いいねコレ。気に入った。でも何で急に?」

「先日の一件は、いずれ他のプレイヤーの知るところとなります。いつまた今度のようなことが起こるか分かりません。用心のためにも持っていてください」

「また、あんなのが襲ってくるってのか……」

 シブヤを襲ったモンスターの群れを思い出し、暁雄は身震いする。

 あのときは、カナンとリヨールが同行していたから何も不安はなかったが、もしあの場にひとりでいたら、他の人たちと同じ様に恐怖に襲われながら、ひたすら逃げ回るしかなかっただろう。

「そうとは限りませんが、用心するに越したことはありません」

「そういうときって、やっぱり、戦ったほうがいいの……?」

 すでに変身を解除した智環が不安そうにたずねる。

「いいえ。契約書にある通り、みなさんにご協力いただくのは闘技ルドゥスだけです。そのカラヴィスは、身を護るためにお使いください」

「貴方がたは召喚時のほうがステータスが上がりますからね」

「……そっか、アンタらは違うんだっけか」

 フィールドに召喚された闘技兵アパリティオは、トゥルノワのルールに準じて能力が書き換えられる。

 暁雄たち地球人が、ポシビリティによる補正で能力がアップするのに対し、もともと高い能力を持つクァ・ヴァルト人の場合は、逆に力が制限されてしまうのだという。

「特殊すぎるのだ、お前たちは。前代未聞だぞ」

「万が一のときの護身用と考えてください。もちろん使用制限はありませんので、必要があれば、いつでも使っていただいて構いませんよ」

「っても、早々使う機会なんてないだろうけどなぁ」

 昨日の騒動で日本中が大騒ぎだ。これ以上、騒ぎが大きくなると何かと面倒だし、しばらくは目立つ行動は控えたほうがいいだろう。

 暁雄はそんなふうに考えていたのだが、しかし、現実はそんなに甘くはなかった。

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