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本気を出さない俺に与えられた難攻不落のチートスキル  作者: 参河居士
第5話 スペランキングなヤツ
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その7 無慈悲な夜の女王

「……あ? どこだここは……」

 気がつくと、暁雄は暗い場所に倒れていた。

「うへ、重てぇ。なんだこれ。くそっ邪魔だな……っ!」

 どうやら崩れかけの建物の中にいるようだ。半壊した壁の向こうから街灯の明かりが差しこみ、その薄明かりの中、暁雄の体は壊れた壁や家具の破片に埋もれていた。

 瓦礫に埋もれた手足を引き抜き、苦労して体を掘り出したところでカナンの声がした。

[アキオ、まだそこにいますか?]

[はい? いるけど?]

[いったい何があったのです?]

[? 何って、ゴーレムを見張るように言われて……]

 目覚めたばかりだからだろうか、イマイチ頭がすっきりしない。朝の起き抜けのように重い頭を軽く振り、暁雄は気絶する前の状況を振り返る。


 ……カナンと別れたあと、暁雄は指示された通りゴーレムの背後へ回りこもうとした。

 店舗が連なる通りまで出たところで、50mほど先にゴーレムの姿が見えた。東西にのびる商店街をゆっくり西に向かって進んでいる。

「とりあえず、隠れながらついていけばいいのか?」

 ゴーレムの背中を遠目に眺めながら、そうひとりごちた暁雄は、自分が道路のど真ん中に立っていることに気づき、いまさらのように建物の陰へ移動した。

「あっぶね~、今のはだいぶマヌケだった……っ」

 移動することに頭がいっぱいで警戒を怠っていた。ゴーレムに気づかれなかったのは幸運としかいいようがない。

 暁雄は辺りを見渡し、隠れるのに手頃な場所を見つくろっていく。

「いっそ屋根に上るってのもありか?」

 通りに面した店の雨樋を見ていて、そんな考えが浮かんだ。ただの思いつきにすぎないが、道路を移動するより良いアイディアのように思われた。

「やってみるか」

 せっかく無人のフィールドにいるのだから、普段できないことをやってみよう。そのくらいの軽いノリだった。遊び半分とまでは言わないが、油断していたのは否めない。

 したがって、暁雄がパイプに手をかけ壁を登り始めたとき、先を行っていたゴーレムが足を止め、周囲を見渡していたことに気づかなかった。

「ん?」

 徐々に大きくなる地響きに気づき、暁雄がそちらに顔を向けたとき、すでにゴーレムの巨体は至近に迫っていた。

「ごふぉっ!!」

 ゴーレムは加速を緩めることなく暁雄に体当たりした。

 店舗の壁とゴーレムの体に挟まれた暁雄の体は、一瞬にしてサンドイッチのハムのように押しつぶされる。肋骨が砕け、肺が潰れたあたりで、暁雄の意識は吹き飛んだ。

 ゴーレムはそのまま2軒の建物を押しつぶし、3軒目を半壊させたところで足を止めると、崩れかけの家屋から体を引き抜き、ゆっくりと元来た方向へ戻っていった。


(なにやってんだかなぁ、ほんと……)

 あまりの情けなさに自分でも呆れてしまう。

[アキオ、あれからどうしたのです? ゴーレムに攻撃されたのではないのですか?]

[ああ、そうだけど? ……そういえばドコも痛くないな? あれ、おっかしいな……]

 改めてあちこち確認してみたが、体のどこにも傷らしいものはない。

[ゴーレムに潰されたと思ったんだけどな。どこもケガしてないわ。どうなってんだ?]

[やはり……。アキオ、しばらくそこに待機していてください。確認したいことがあります]

[? わかった]

 暁雄との会話を打ち切ると、カナンは、闘技兵アパリティオ召喚の手順に入った。

「リヨール、予定変更です。すぐにこちらへ来てください」

「わかりました」

 闘技ルドゥスが始まったときからマナゲートを作り続けていたため、すでに十分なだけの数はそろっている。

 召喚されたリヨールが到着するまでの間に、カナンは、さらにとあるルード・スペルを用意していた。

 やがてカナンの頭上に幾何学的な紋様が浮かび上がる。スペルに必要なマナがたまった証だ。

[アキオ、私が合図をしたらゴーレムに攻撃をしかけてください]

[……マジで? いいけどさ、アレを倒すのは、ちょっと難しいんじゃないかなって……]

[大丈夫です。私に考えがあります]

 暁雄では勝てないことくらい分かっている。カナンが期待しているのはその逆だ。

[そ、そうか? わかった……]

 まだ不安はあるが、暁雄は覚悟を決めた。もともと選択権などないのだ。

 暁雄は手頃な瓦礫を拾い上げると、崩れかけの建物から出た。ゴーレムの巨体が西へ向かってゆっくり移動するのを見ながら、近くの電柱の陰に移動し合図を待った。

「アスカルテット!」

 カナンの発声でスペルが発動し、目の前に暁雄のステータス画面が投影される。

[準備ができました。アキオ、始めてください]

[おっし、支援頼むぜ!]

 暁雄は電柱の陰から飛び出すと、前かがみのまま音を立てないようゴーレムに近づく。にわかじこみとはいえ訓練が役に立ったようだ。

 ゴーレムまであと20mほどの距離まで来たところで立ち止まると、手にした破片をゴーレムめがけて投げつけた。

 破片は狙いをそれることなくゴーレムの腰の辺りに命中した。

 背後から奇襲を受けたゴーレムは、いったん動きを止めると、見た目に反した機敏な動作で振り向き、及び腰の暁雄を正面に捉えた。ゴーレムの周囲では、巨体になぎ倒された家屋が音を立てて崩れていく。

 暁雄を視認した途端、ゴーレムの4本の足が道路を蹴りつけた。象よりもはるかに巨大な四足獣が、破壊音を撒き散らしながら突進してくる。

 パニック映画さながらの恐怖に、暁雄は生きた心地がしなかったが、カナンの支援を信じ、その場に踏みとどまった。

 悲壮感あふれる姿であったが、ゴーレムには関係ない。

「ぐぅえっ!!」

 最初の激突で暁雄を瀕死に追いこんだゴーレムは、暁雄の肉体をぶら下げたまま数m先の電柱を突き倒し、さらに2軒分の家屋を突き崩して停止した。

 ゴーレムが家屋の壁から顔を引き抜くと、引きずられるようにして暁雄の肉体が床に落ちる。ゴーレムは生気を失った暁雄には見向きもせず、別の敵を求めてその場を後にした。

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