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その2 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません

 翌日の昼休み、暁雄たちは昼食を終えると一階のホールへ向かった。そこで、次の闘技兵アパリティオ候補と待ち合わせをしていたのだ。

 候補者の人となりについては、昨日のうちにおおよそ伝えてある。

「名前は神奈谷かなやとおる。家が代々伝わるナントカ流って拳法の道場で、本人も昔からやっててメッチャ強い。中3のトキ、JDAジェダ主催の全国大会を4連覇して、今年は5連覇がかかってるってさ」

「ジェダとはなんだ?」

「たしか、打撃オンリーで最強を決めるフルコンタクト系団体、だったかな? 出場資格もとくになくて、空手やボクシング、テコンドーに、カポエラの選手とかもいたハズ」

「なるほど。経験と実績については申し分なさそうですね」

「体動かすのが好きなヤツだからさ、闘技ルドゥスみたいなゲーム、好きだと思うんだよね。ケガの心配がないなら、なおさら気に入るんじゃないかな」

 1階にあるホールまで来ると、すでに昼食を終えた生徒たちの姿があった。脇に設置された長椅子に座って雑談したり、鬼ごっこのように走り回っている集団もいる。

「ん~……。まだ来てないみたいだな」

 暁雄はホールを見回しながら連れの3人に伝えた。

「神奈谷というのは、どういう男だ?」

 同じようにホールのあちこちに視線を走らせながらリヨールが問う。

「男? いや、トオルは……」

 言いかけた暁雄の言葉に、別の人物の声が重なった。

「あー、もういた! ごめんごめん!」

 ホール横の通路を小走りに移動しながら、声の主が近づいてくる。

「そこで班活の先輩に会っちゃってさ。ほんとゴメンね。待たせた?」

「いや問題ない、こっちも来たばっかだよ」

 一同の前に現れたのは、長い黒髪を後頭部で束ねた少女であった。女子にしては背が高く、背中で揺れる黒髪は駿馬の尾を思わせるが、しなやかで引き締まった体つきは豹を連想させた。

 暁雄の仲介で、初対面の少女たち4人が挨拶を交わしあったあと、さっそく本題に入った。

「単刀直入にいうが、この2人は、別の世界から来た魔法使いだ。待て、言いたいことは分かる! 頼むから、まずは聞いてくれ」

 暁雄は、開きかけた透の口の前に手をかざし話を続けた。

「マンガみたいな話だろ? けどホントなんだ。ちゃんと説明したいんだけど、言葉で説明するより、簡単な方法があるんだ。彼女、白石の魔法で、お前の頭の中に直接情報を送れるんだ。そうしたら俺が言いたいことも一瞬で理解できるからさ。ただその前にいちおう言っておくとさ……」

 切羽詰まったようにまくしてる様子は、説得というより懇願に近い。

 その暁雄から数歩下がった場所で、リヨールがカナンにこぼしていた。

「まどろっこしいですね。さっさと魔法を使えばよいものを……」

「仕方ありません。暁雄が望んだのですから。気持ちは分かります」

 知人が操られる姿を見るのは気分がよくない。そう告げた暁雄の気持ちをくみ、制約を一時的に解除し、透の説得を任せたのである。

「それにしても意外でしたね。てっきり男子だと思いこんでいました」

「まったくです。それにあの者、あの若さでなかなかの使い手と見ました。期待して良いかもしれません」

 2人の異世界人が品定めしている間、当の透はといえば、鷹揚に構えたまま暁雄の言葉に耳を傾けている。

「……ってなわけで、そのゲームに参加してもらいたいわけなんだけど、とりあえず白石の魔法を受けてみてくれないか? 痛いとか、苦しいとかってことはないからさ。ちょっと頭に触れるだけ……」

「いいよ」

「ん?」

「だから、べつにいいよ。その魔法とかっての、かけてくれても」

「え? そんなあっさり? ホントにいいのか?」

「ん~? 断るのもナンだしね。久しぶりに連絡してきて、そんな必死な顔されたらさ」

「そ、そうか? なんか悪いな……」

 説得するのではなく同情を引いてしまったことに後ろめたさを感じつつ、暁雄は後ろに控えていたカナンに手招きした。

 暁雄と入れ替わりで透の前に立ったカナンは、魔法について簡単な補足を行うと、おもむろにその指先を透の額に当てる。

 魔法の効果はすぐに現れた。

「……! ……なる! すごいコレ! トゥルノワかぁ。……面白そう! やるやる! アタシ、闘技兵アパリティオになる!」

「はやっ! ちゃんと考えたか? 今スグ返事しなくてもいいんだぞ?」

「なんで? トレーニングにちょうどいいし、用事があるときは断っていいんでしょ? それでお金までくれるんだから、やらない理由がないでしょ」

 透が興奮気味に承諾したことで、これまた拍子抜けするほどあっさりと話が進んだが、このあとさらなる驚きが待っていた。

闘技値リカルディ7,050!?」

「えぇっ!?」

「マジか!?」

 驚異的な数値に一同がどよめくなか、事情を飲みこめていない本人だけがきょとんとしている。

「なに? 結構すごい感じ?」

「結構なんてもんじゃない……。『2,000超えたら英雄』って言われてるのに、軽く飛び越えやがって……。お前、なんなの?」

「え~、なにそれ? 英雄は言い過ぎでしょ。計り間違えたんじゃない?」

「間違いなどではありませんよ。貴方は素晴らしい才能をお持ちです」

 カナンは透の疑問に笑顔で応じながら、例のごとく空中から取り出した契約書を差し出す。

「よくご確認いただいたうえで、何も問題が無ければサインをしてください」

 透は羊皮紙を受け取ると、カナンの説明を受けながら契約書を読み進めていく。

 ときどき感心したように「へ~」とか「はぁー」といった声が漏れてきたが、報酬や願いごとの箇所ではひときわ大きな声をあげていた。

「それとトオル。闘技兵アパリティオについて詳しい説明をしたいのですが、今日の放課後、お時間はありますか?」

「いいよ、ちょうど班活はないし」

「ありがとうございます。では校門でお待ちしています。アキオ、貴方もよろしいですか?」

「俺? あ、そうか、うん、そうだな。分かった」

 透を闘技兵アパリティオに推薦したのは暁雄だ。本人が承諾したから「あとはお任せ」では無責任というもの。チームの空気に慣れるまで面倒を見るのが筋だろう。

「あの、私は……?」

 声をかけられなかった智環が控えめにたずねる。

「そうですね。同じ新人闘技兵アパリティオである貴方にも来ていただけると嬉しいのですが、これは契約外の扱いになりますので……」

「いいです、それでっ。私もお手伝いしますっ」

 どこか必死な様子の参加表明が意外ではあったが、ともあれこれで全員の参加が決まった。

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