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本気を出さない俺に与えられた難攻不落のチートスキル  作者: 参河居士
第2話 マジックがギャザリング
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その4 ここから序章の続き

 目覚めると、暁雄は見たこともない部屋にいた。

 広さはおよそ10m四方、天井がやけに高い。部屋の作りは一見して豪華と分かるが、室内の光景は殺風景そのもので、ベッドのほかには、小さな書き物机と椅子があるだけだ。

 書き物机の上には、暁雄の着ていた制服の上着とカバンが置かれている。

 ボンヤリとそれらを眺めていた暁雄は、ようやく自分の身に起きたことを思い出した。

(刺されて、気を失ったのか……。じゃあ、ここは病院か?)

 頭をぐるりと回して部屋全体を見渡すが、どうも暁雄の抱く病室のイメージとはかけ離れている。

(あれ? そういえば胸は……?)

 さきほどから体を動かしているのに、まるで痛みを感じない。シャツの上から恐る恐る刺されたあたりに手を伸ばすが、とくに痛覚を刺激するものはない。

 ベッドの上で体を起こし、思い切ってシャツの胸元を開いてみたが、傷跡のようなものは無かった。血で汚れたはずのシャツも綺麗なもので、穴が空いた形跡すらない。

「……まさか夢オチ? そんなわけないよな?」

 暁雄から見て左側の壁は、一面が窓になっていて、窓の向こうにはバルコニーがあり、手すりの先には夕焼けに染まる空が広がっている。

 窓を開けバルコニーに出た暁雄は、眼下に広がる光景に圧倒された。

 暁雄がいる部屋は、数十階建て高層マンションの最上層付近で、夕暮れの地平線に向かってどこまでも続く町並みが一望できた。

「……どこだよ、ココ……」

 知らぬまに運ばれたのだから、考えたところで分かるわけがない。正解を得るには、事情を知る人を探すしかなかった。

 部屋に戻り身支度を整えた暁雄は、部屋で唯一の扉に手をかけた。

「うぁ……!」

 扉の先は、吹き抜けのホールになっていた。

 20m以上離れた真向かいの壁にはいくつかの扉が見え、向かって右手側の壁にはひとつの扉、左手側にはずっと奥のほうに上りの両階段があり、階段踊り場の壁には巨大な絵画がかけられている。

「なんか、お城みたいだな……」

 ホールの天井から吊り下げられたシャンデリアを見上げながら、暁雄は呆れたように独りごちた。

 庶民の高校生である暁雄の知識と感覚では、そう表現するのが精一杯だった。

「オオトモアキオ、こちらへ来なさい」

 声のした方を見ると、ホール奥の扉の前にひとりの女性が立っていた。

「何をしている? 急ぎなさい」 

「は、はい、すいません!」

 暁雄は女性の指示に素直に従った。状況が分からず混乱しているうえ、女性の声には有無を言わさぬ迫力があった。言葉遣いは丁寧で、口調も穏やかだが、なぜか逆らい難いのだ。

 女性の方へ近づくに連れて、その容貌がはっきりしてくる。髪の色は白に近い輝く金色で、瞳の色は青、身長は暁雄よりも高い。

 全身から近寄りがたい雰囲気を発散させているもの、美人なのは確実で、険のある表情にすら見惚れてしまいそうになる。

 その顔立ちといい声といい、暁雄は、この女性とどこかで会ったような気がするのだが思い出せない。

 どれほど賞賛してもし足りない容姿に比べ、女性の服装に対する第一印象は

(大昔の看護師みたいな格好だな)

 であった。肩のあたりがふくらんだクリーム色のボディスに、同じ色のロングスカート、さらに胸元からヒザ下までを白のエプロンが覆っている。

 実際には製法も装飾もまるで違うのだが、服飾に関して素人の暁雄には見分けがつかない。服の色が黒ければ「メイドみたいな格好」と思ったことだろう。

「入りなさい」

 女性は背にしていた扉を開くと、暁雄を中へ促す。

 案内された部屋は、暁雄が寝ていた部屋よりもさらに広く、豪奢であった。

 光沢を放つ本革製のソファに大理石の大テーブル、微細な刺繍が織りこまれたレースのカーテンやシルクの絨毯などが室内を華麗に彩っている。

 床は二層式の構造で、部屋の奥側1/3ほどが、手前側2/3よりも一段高い。

 その一段高い場所には、ひときわ豪華な洋風アンティークデザインの椅子や卓が並び、その一脚にひとりの少女が腰を下ろしていた。

 戸口で暁雄を呼びつけた女性がキャリアウーマンタイプの美女とするなら、この少女は深窓のご令嬢タイプの美少女だ。

 ただ、椅子に腰掛けているだけなのに、少女の姿には可憐さと気品が感じられるのだ。

 身にまとうターコイズ色のドレスがアンティーク調の家具と見事なまでに調和し、そのまま一枚の名画として成立するだろう。

 波打つような黄金の髪に包まれた小さな顔は、白磁器のように白く、その中央に輝くつぶらな瞳も黄金に輝いている。

「お嬢様、連れてまいりました」

「ありがとう、リヨール」

 リヨールと呼ばれた女性は、暁雄を連れて部屋の奥まで進み、段差の直前で立ち止まった。

「初めましてオオトモアキオ。私はカナン・シュライセンです。そこにいるリヨール・ノーダンの主です。ケガの具合はどうですか?」

 少女は、暁雄をその場に立たせたまま、ごく自然に話を進める。

「え? なんで、俺の名前を……」

「荷物を改めただけだ。お嬢様の質問にお答えせぬかっ」

 斬りつけるような鋭い声で、リヨール・ノーダンが暁雄の不敬をたしなめる。

「は、はい! えっと、大丈夫ですっ」

「それは何よりです。では、気をつけてお帰りなさい。リヨール、玄関までお見送りしてさしあげて」

「はっ」

「あ、し、失礼します……」

 答礼するリヨール・ノーダンに釣られて暁雄もうなづきかけるが、慌てて段上の少女に向き直る。

「いや、ちょっと待ってよ!」

「どうしました?」

「いや、おかしいだろ!? 俺、刺されたんだよ? 何があったかくらい説明してくれよ? っていうか刺されたのに傷は? なんで傷が無いの?」

「傷の治療は私がいたしました。管理委員の到着を待っていると間に合わないと判断しましたので。その後、委員の承諾を得たうえでここに運びました」

「治した? どうやって? 傷跡も残ってないけど?」

「もちろん魔法を使いました。こちらの方々は使えないそうですが」

「魔法!? 君たちも魔法が使えるのか!?」

「ついでに言っておくと、お前を刺したのは私だ。あの時、我々はゲームの最中で、お前を敵兵と思い攻撃した。それだけのことだ」

 事も無げにいうリヨール・ノーダンに悪びれる様子はない。

「あ、あれ、アンタだったのか! どうりで見覚えが……! いや、それより、それだけって何だよ!? こっちは死にかけたんだぞ! まずは謝るのが筋じゃないのか!?」

「あれは事故だ。私に過失はない」

「はぁ? どこがだよ! いきなり人を刺しておいて!」

「言ったろう。我々はゲームの最中だった。どうやって戦闘フィールドに入ったか知らないが、戦闘行為に問題はない」

「ゲーム? ホンモノの武器を使って? 誰が許可するんだよそんなの!? 明らかに違法だろ!」

「この世界の法律は関係ありません。ゲームのルールに違反していない以上、私たちが謝罪を強いられる謂れはありません」

「世界? いや、日本の話だろ。君らどこの国から来たんだよ」

 暁雄はカナン・シュライセンの言い間違いを指摘したが、少女は念押しするように繰り返す。

「『国』ではなく『世界』です。私たちは、こことは異なる別の世界から来ました」

「別の世界? 何言ってるの? 日本語間違ってない?」

「翻訳は正常に機能しています」

 そう言って暁雄の前に差し出された少女の右手には、光る球体があった。球体のサイズはピンポン球くらいで、よく見ると少女の手のひらに乗っているのではなく、宙に浮いている。

「問題があるのは貴方の認識力です」

 少女が右手を軽く振ると、不思議な光る球は空中にかき消えた。

「それに、私は貴方に警告したはずですよ。危険だから動かないように、と。あの時点で管理委員会への報告も済ませていたので、無闇に移動したりしなければケガをすることは無かったはずです。警告に従わなかった貴方自身に問題があるとは考えないのですか?」

「警告? いつ? 君とは、たった今、会ったばかりじゃないか」

 暁雄の言葉に対して、カナン・シュライセンは声に出しての反論はしなかった。ただ自分の顔の前で右手を振ってみせただけだ。

「!? き、君は、駅の……」

 右手が顔の前を通りすぎる一瞬のうちに、カナン・シュラインの顔が別人に変わっていた。暁雄が目にしているその顔は、駅前で見かけたあの制服の美少女であった。

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