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没落貴族と共に歩む異界の奴隷  作者: オリジン
それぞれの時間
21/25

聖と魔の目覚め

約2年ぶり......


リアルがゴタゴタしていてようやく更新できた感じです。


これからはなるべく時間をもっと作って更新出来るようにしていきます。

 広大な盆地で繰り広げられている"人"と"人ならざる者"の衝突は熾烈化の一途を辿る。名も無きこの土地の地形を変えてしまうのではないのかと、誰もが思うであろう。

 一度剣を振るえば、大地が裂け、生きとし生けるモノを地の底へと沈めてしまうであろう。

 口を開けばおおよそ、人が持つべき力の許容範囲を越えた摩訶不思議な力が、巨大な突風の刃が天へと向かっては消えていく。


 誰もが思うだろう。これが人間の成せる事なのかと。


(これは......たったこれだけのことでこれ程までの威力!)


 それは、技を放つ本人が誰よりも驚いている。加減をしていたつもりはなく、全力で事にあたっているが、自らの力量とそれによって扱える技のことは一番熟知している。


 故に本人が驚きを隠せない程の威力を誇ることは異常である。


 絶え間無い鍛練。時間と労力を割いて初めて一つの技術を仕上げることができる。都合よく急激に力が増すことなど"本来"ならありえないこと。


 しかし、聡明な彼女はそれが指輪の力であることをすぐに察する。先程から力強くもどこか穏やかな、温かみを感じさせる光を放つ指輪。

 大きな力が体内へと流れ込んでくるが、邪さは一切ない。何かの祝福なのか、加護なのか、自身を包み込まんとする力。


 言うなれば女神の寵愛。


 生まれたばかりの赤子を思う母の如く光は、少女を護らんとし、少女に力を与える。


(お母様......お父様......お兄様)


 その心地よさに少女は瞳を閉じ、今は亡き家族のことを思う。まるで直ぐ自分の後ろに家族が寄り添ってくれているかのように身近に感じる。


 少女が光に対して親しみに似た感情を抱くのとは反対に、人ならざる者は、光に嫌悪感しか感じていない。光に対して抑えきれない程の憎しみと怒り。


「ヴゥゥゥゥゥゥ!」


 獣と人が混ざったような低く野蛮な声を上げる人ならざる者。敵愾心剥き出しであるが、同時に恐怖心を抱いているようにも見える。


「光を恐れている?」


 戦いながら少女も敵が光に怯えていることに気づく。光が発せられる前は少女の攻撃に対して極端な回避動作をとることはなかった。

 だが、今は死に物狂いで、我を忘れて攻撃を回避することしか頭にないように見えてならない。


 私の脳内を、先日の老人の言葉が過る。


『魔は今も蠢いておる。お嬢さんのそばでも』


 もし目の前の存在が老人の言っていた"魔"と呼ぶべき存在ならば、この指輪が私を護る......確かそう言っていた。護る......アレを退ける力なのかもしれない。


「この光に賭けるしかないわね」


 全身を取り巻く光が淡い青色へと変色していく。


 この光が力が何なのかは分からない。だけど体が光の使い方を理解していく。


 体を覆う光が全て、テスタメントへと流れていく。それは先程私が剣に属性を付加させたモノのように。いやそれ以上の力が付加されている。


 柄から剣先まで光が流れ込むと、テスタメントは第三者から見れば、巨人族の(つるぎ)を思わせるほど巨大化したように見えるだろう。


「『世に蔓延りし"魔"を裂くことこそ我が使命。彼のモノよ、今再び我が聖なる光の前に平伏すがよい』」


 無意識にそう呟いた。自分の言葉ではない。何者かが私の体を使って発言している。そう認識しているはずなのに自分ではどうすることも出来ない。


「『オーラソード!』」


 テスタメントがより強い光を放つ。剣先を天に向けると光が天まで立ち上る。いや、テスタメントが天から光を呼んでいる。


 これも自分の意思ではない。何者かの意志が私の体を勝手に操っている。


 気に入らない!


 私の体は私だけのもの。他人に使わてしまうなんて!


 しかし、私の思いを無視して体は勝手に動いていく。突き上げられた右手とテスタメントが真っ直ぐ目にも止まらない速度で、ハルトに向かって振り下ろされる。


 光の束は長さも幅も言葉では言い表せない程巨大で、尚且つ常軌を逸脱した速度で振り下ろされるテスタメントに"魔"に回避動作すら与えない。


 地面に落下と共に盆地一体に光が拡散。光が強すぎて当たり一面視界が真っ白に染まっていく。


 数十秒経った後、視界に色が戻っていく。そこには、まるで何事も無かったかのような元の景色が広がっていた。ただ1つハルトがその場でうつ伏せで倒れていることを除き。


 倒したの?


 微動だにしないハルト。まさか死んだ訳じゃ......


 生死を確かめようと体を動かそうとするが、未だに体の自由が戻らない。


 勝手にハルトに向かって足を進める"私"。視線すら変えることが出来ない。声も出すことは出来ない。


 ハルトの頭部付近まで近づいた私の足は自然に止まった。そして何を思ってか、テスタメントを両手で持ち上げハルトに突き刺そうとする。


 止めを刺そうとしているのか"私"は!


 先程まで以上に強い念を体に送り込む。"私"がハルトに止めを刺すことを阻止するために。


 強力な念の効果か、徐々に体の動きがぎこちなくなっている。このまま念じ続ければ体を取り戻せるかもしれない。


 しかし、私の念に対抗するかのように謎の力が作用してくる。


 その場でテスタメントをゆっくり振り下ろしたり振り上げたりと、交互に動作を繰り返す。


「何処の誰かは知らないけど、この体は私のモノよ! そしてハルトは私の所有物! どこの誰かも分からないヤツの意思で殺させたりするものか!」


 私のモノは全て私の意思で決める。当然それは命を奪う時も。だからこんな形でハルトを殺させてたまるものか!


 気がつけば私は叫び声を上げていた。謎の力に私の念が勝ったようね。


 その後、それまでの反動なのか、私はかつてないほどの脱力感に見舞われる。力が入らずその場に両手、両膝を付く。


 力の入らない体を何とか動かし、ハルトを掴み膝に乗せる。


 体中を見回すが傷一つない。呼吸も正常に行われている。気を失っているだけのようね。


 そして、変異していたハルトの右半身が元の状態に戻っていく。元の体に戻る過程で、変異部分が体内に溶け込み生き物のように蠢きながら右目へと移動していった。


 その全てが右目の中に吸い込まれていくと、再びハルトの右目は"何もない"空洞化する。


 倒したと思い込んだ謎の存在はハルトの体内に逃げこんだ? もしかしたらあの日から"アレ"はハルトの中に潜んでいたかもしれない。


 このまま調べたいところだけど、今の私にそんな力は残ってない。一先ず体を休めなくてはならない。私もハルトも。


 ハルトを肩で抱え地面に転移陣を描いていく。目が霞む上に指が震える。


「主人をこんな目に合わせたのだから、目が覚めたらボコボコにして上げるから覚悟しておきなさい」


 窶れた顔をしながら横で眠るハルトにそっと囁く。



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