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没落貴族と共に歩む異界の奴隷  作者: オリジン
それぞれの時間
20/25

聖と魔の衝突

 油断をしたら死ぬ。確実に。


 目の前のハルトだったモノを見て、有り得ない未来ではないことを改めて認識させられる。

 自分が死ぬ光景が、鮮明に幾つも頭の中にイメージさせられる。

 何が引き金だったのか。命の危険を感じての自動ではない。そこまでまだ痛みつけてないから。

 劣等感による感情の爆発とも思えない。立場上作り笑顔を見せることが多いハルト。だけど負の感情らしきものは感じなかった。ハルトの深層心理ではどうなっているのかは分からないけど。


 目に見えない重圧に押し潰されそう。表情が自然に強張っていく。一瞬たりとも目を離せない。瞬きの1つでもしようものならば、私は次の瞬間に地面に叩きつけられているだろう。


「こんなところで暴れたくはないから場所を変えるわよ」


 懐から小さな手帳を取り出す。


 手帳を開き、あるページを破り取る。破り取ったページには魔方陣が書き込まれている。今度はそのページをビリビリに破り捨てる。


 すると、私の足元とハルトの足元に、両手を大きく広げた程度の大きさの円が発生。円の内側にそれの半分くらいの大きさの円。また、更に内側の、私の肩幅ぐらいのところに円。

 幾何学的に形成された三重の円の間には、無数の文字が浮かび上がる。

 円と文字が桃色に発光する。転移の始まりを告げる合図。

 

 転移魔方陣。移動したい所定の場所に予め魔方陣を印しておくことで、その場所に瞬時に移動することが出来る。空間系の魔法に属する。

 使い魔等を使役する際にも似たようなことを召喚使達はしている。

 この転移魔等は直接地面に書き込んで使用することも出来る。けど、そんな暇を与えてくれるはずはない。 


 私が取り出した手帳は、魔法を記憶させておくことが出来る不思議な道具。 最近の新技術によって魔法を規模等によってくるが、先程の手帳や本等に記憶させることで、記憶させた魔法を自由に使用可能。

 その際、使用者は問わないため、記憶されている魔法は誰にでも使える。使用者の魔力を媒介にしているのではなく、記憶されている魔法の魔力を媒介にしているから。

 魔法の記憶の技術は何も手帳や本だけではない。剣や盾等の武器にも応用されている。

 この技術は、『魔石』と呼ばれる魔法の属性を宿した石を参考にされている。


 火の魔石を砕けば火が発生。


 水の魔石は水量を増水させる。


 風の魔石は風を起こす。


 土の魔石は物の強靭度を上げる。 


 雷の魔石は電気を。


 雷に至っては使い道がなかったところを、発電という方法で新たなエネルギー源になった。詳しくは分からないけど。


「ユーリ、リューネ」


 訓練用の剣を放り投げ、愛刀の二つの剣の名を呼ぶ。

 私に呼ばれた剣が家の壁を突き破り飛んでくる。それを両手で掴み、腰に帯刀。

  呼んだら飛んでくるのはこの剣の仕様らしい。飛んでくる距離の限界は計ったことがないけど、視界に入っていれば確実に飛んでくるのは把握している。今回は私の元まで壁を突き破ってきたけど。障害物があっても飛んでくるのはこれで分かった。


「ここなら自由にやっても誰も文句は言わない」


 ところ変わって場所はとある草原。人通りも少なく、邪魔が入る心配もない。障害物と言えるのは精々草原な至るところから、地面から生えるように映る岩石ぐらい。


 腕を交差させ、鞘から剣を抜く。右手にユーリ。左手にはリューネ。


 転移に体感はほとんどない。瞬き後には転移場所まで移動している。

 桃色に発光していた魔方陣の光が徐々に弱くなっていく。光が完全に消えると魔方陣もそれと合わせて消えていく。


「言葉が聞こえてないようね」


 自我は無さそうね。恐らく無意識。ハルトとは違う別のナニかがハルトを操っている可能性がある。


 私は強化した脚力で一気に草原を駆ける。ハルトが反応する間を与えないように。


 振り上げた剣を交差させて振り抜く。胴体を、鎖骨から脇腹にかけてバツ印状の傷がつく。肉を抉るようにして深く入れ込んだ剣。傷口から噴水のように鮮血が吹き上がる。

 チラッと視線を下に移し、傷を確認するハルト。応えているようには見えない。


 ハルトには魔法が一切効かない。ハルトに傷を負わせるには物理若しくは自然現象しかない。

 だからこそ、私は何故ハルトに転移魔法が通じたのか理解できない。

 魔方陣が発生している範囲、今回なら地面ごと強制的に転移させるのが転移魔法。なにも魔方陣内の物だけを転移させるわけではない。大昔には国を土地ごと転移させたとか。

 ハルトには魔法が効かないため、そのような効果でも、転移させられるのはハルトを除いた地面だけだと思っていた。

 その場合、私だけが転移させられることになってしまうわけだが、試す価値が私の中にあった。

 微弱だけど、ハルトから魔力が溢れていたのを感じた。

 今での生活でも、ハルトに魔力が通っていることなど感じたことはない。


 もしかしたら、今は魔法が効くのかもしない。


 そんな考えが私の中に過った。ハルトを転移させることができたことがその考えに至った要因。


 ハルトの体の傷が塞がっていく。私にまで届く程吹き上がっていた血が勢いを弱めていく。

 血が止まると、傷が初めから無かったかのように消えていく。


 魔法の中には体を活性化させて、傷を治すものがある。ハルトに起きた現象はそれに限りなく近かった。

 けど、私が知っている魔法の効果よりも傷の治りがずっと早い。私が知っているものはそれよりも遅く、ゆっくりと時間をかけて治していくもの。

 

 傷口から視線を上げたハルトと私は目が合った。微笑むようにして笑っている。


 そして私の視界からハルトは消えた。いや、これは私がハルトから離れていっている。

 頬を殴られたようね。首を右に動かすとハルトが右手の拳を握りしめていた。

 攻撃までの動作が見えなかった。気がついたら殴られていた。

 ハルトが豆粒になるぐらい吹き飛ばされる。何処まで飛ぶのかは分からない。

 

「『フール!』」


 握っていた剣を手放し、掌を後方に向け、魔法名を叫ぶ。掌から発生した風の渦が吹き飛ばされる勢いを殺し、私はその場に落ちる。

 殴られた箇所を触ると酷く腫れ上がっている。口の中には鉄を舐めるような独特な血の味がする。

 舌で口の中を舐めてみると、口内の殴られた箇所に大きな切り傷がある。それだけではなく、舌先が歯に当たると、歯が抜け落ちた。

 口の中に溜まる血と一緒に抜けた歯を吐き出す。唇から草原の叢に血流が流れる。


「『ハクア』」


 唾液を水魔法の効果で癒しの水に変え、傷を止血する。同様にして、唾液を少量手に付け、頬の腫れを癒す。

 唾液でなくとも、水であれば良いのだが、近場に水が無いから唾液で代用するしかない。抜けた歯は回収してくっつければいい。


 それにしても主人に向かって、それも年頃の女に向かって手酷く手傷を負わせるなんて、これはみっちりと再教育する必要があるわね。


 手離した剣を拾う。遠くからハルトが此方に向かって歩いてくるのが見える。


「『ネロ』『デンド』」


 ユーリにネロによる火の強化。リューネにデンドによる雷の属性を付加させる。

 この2本の剣には魔法を流し込み、その属性を強化付加させることができる。これはこの剣だから出来ること。全ての武器に同じことが出来るわけではないわ。

 刀身に掘られた文字が反応し、銀色に輝く2本の剣に朱色と金色に発光。


 歩いて向かってくるハルトに向かって最大強化した身体能力を駆使し、背後をとる。

 最大まで体を強化するけど、それは内面の話であって外面ではない。強化した体に皮膚が持たず、鎌風で擦り傷。皮とインナーの繊維が速度により焦げる。

 背後をとった私は剣をハルトの両脇に突き刺す。

 火属性強化されたユーリにより、傷口が発火。骨と肉を焦がす。同じく雷強化されたリューネにより、ハルトに一時的な痺れを与える。

 突き刺した剣をそのまま軸にして私はその場で、逆立ちするようにして体を上げる。そして、両腿でハルトの顔を絞める。

 がっちり絞めつけ、勢いよく体を縦に回転。ハルトを後方にある岩石目掛けて投げ飛ばす。その際に剣を両脇から抜く。

 岩石に叩き付けられるハルト。罅が入り、頭から地面に落ちる。

 そのあとも容赦はしない。飛び上がり空中から脳天に対して踵落とし。爪先を胸元に入れ、空にハルトの体を蹴り上げる。


 再度地面を蹴り上げ空中に上がる。左斜め下から、右手のユーリで斬り上げる一閃をする。


 私は地面に着地、ハルトは落下。一連の攻撃をして手応えはあった。しかし、平然とハルトは立ち上がる。やはり傷口は瞬時に塞がっている。


「その姿形......8年前にハルトの右目を潰したあの時の化け物ね」


 此方を振り向くハルト。その姿更に変異していた。顔の右半分は黒色に変色し、右前頭葉からは、空に向かって伸びる鱗に覆われた一本の角。右腕も完全に変貌し、手は倍に膨れ上がり、指も伸び、魔物を思わせる爪を生やしている。臀部からは尻尾が生え、左右に大きく尻尾を振る。


「見れば見るほどあの時の生物と重なる。ハルトの中にあの時の生物がいるなら8年越しの恨みを晴らす!」


 8年前のあの時は手も足も出なかった。初めて恐怖と言う感情を抱き、後込みしてしまった。その結果ハルトは右目を失った。

 お父様、お母様、お兄様がその時の生物を追い払ってくれなければ私は死んでいた。

 気を失ったハルトに私は治療をしようとしたけど、ハルトには魔法が効かない。手の施しようがなく、泣きわめくだけだった。

 

 傷付いたら魔法で直せばいい。魔法があればなんとかなる。


 そんな考えで生きていた私。けど、魔法ではどうにもならないことがあることをその時初めて知った。


 魔法で全ては解決しない。魔法で全ては直せない。失った物は二度と取り戻せない。


 それを8年前に嫌と言う程痛感した。


 ユーリとリューネを1つに合体させる。特大剣テスタメントへを両手で握る。

 以前の老人の言葉を「指輪が魔から護ってくれる」という言葉を思い出す。

 ハルトが変貌してから輝き続けていた左手薬指の指輪。その輝きが更に強くなる。そして青白い光がテスタメントへと流れていく。

 テスタメントもその光に共鳴。掘り刻まれた文字がくっきりと見える。

 何の力かは解らない。ただ、強い力を感じる。ハルトの中の強大な力とは別の力を。


「待ってなさいハルト。その異物を今から取り除いて上げる」

 

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