決着と友情と
中々更新出来ずに申し訳ありませんでした。
(嫌な空気だ。全身にまとわりつく冷たくも生温いヌメヌメとした空気。湿地滞を歩いているかのごとき。ピリピリと迸る電流が体を絶え間無く刺激している。)
目に見えない重圧。先程までとうって変わる。天候や気温、さっきの私の魔法の影響ではない。もっと違う別の異種。
どちらかと言えば今のところの戦況は私が有利。この中庭の至るところの仕掛けも上々。中庭という空間を支配しているも等しい。
だからと言って慢心したりしているわけでもない。アリシアの実力は私が一番身を呈して体験している。例えそれが過去のモノだとしても。アリシアが倒れるまで油断も隙も見せない。
この戦いに確信があるわけではない。けど自信はある。今日この日の為に私は腕を磨き、力を付けてきたといっても過言ではない。
けどそれが今大きく揺るがもうとしている。それもこの得体の知れない変化のせいだ。ほんの僅かな気の変化。大地を揺るがしたり、天を割るといった誰もが気づくような大きなモノじゃない。
なのにこの全てを覆すような、全てを嘲笑うかのような変質を秘めているような気がしてならない。
私は今、闇属性の『サブスタンス・クリア』で姿を消している。私からアリシアを視認することは出来てもアリシアからは私を視認することはできない。
そのお陰で私はこうしてアリシアの直ぐ頭上の大木の枝の上でアリシアの様子を伺うことができる。当然気配も消すことができる。
昔はこの魔法の持続時間は短かった。それを努力の末今では10分以上も伸ばすことが可能となった。
アリシアを仕留めるにはこれほど有効なモノはない。相手の意識していない無防備なところを好きなタイミングで狙える上に攻撃をするギリギリまでこの魔法は解けない。
惜しむらくは、魔法を発動中は継続的に魔力を消耗し続けるということと動作時の音を消すことが出来ないこと。上位クラスの魔法であるためその消費量も無視はするわけにはいかない。
何時でもアリシアを仕留めることは出来る。今のアリシアは呆然と眼を閉じて下を向いて佇んでいるだけ。
でも体が動かない。動けない。仕留めれるはずなのに本能的にダメだと報せてくる。この奇妙な空気に当てられた金縛りにも似た現象を引き起こしている。
(何故臆する? アリシアを仕留める絶好の機会じゃない! 動きなさい私の体!)
心の中で体に命令を念じる。けど一向に体が言うことをきかない。手も足も口も。
そして、私が金縛りにあっている間にアリシアの身に目でも解るような変化が生じた。
(何よアレ......何なのよ!)
みるみるアリシアの頭髪の色彩が変色していく。腰まで伸びた髪の毛先から髪の根本まで、闇夜でも月光のように輝き、靡く神秘的な色の銀髪が紅蓮の炎に等しき赤髪へと様変わりしだした。それと同時に周囲の空気が風と共にアリシアへと引き寄せられていく。
髪が変化し終えた瞬間にアリシアを中心にそれまで引き寄せられていた空間と風が同時に拡散。暴風が吹き乱れた。草木を薙ぎ倒し、地を抉り、宙に舞い上がる。
(風が止んだ?)
暴風が吹き乱れたのもたったの数秒。暴風が止むと宙に舞っている草木と土、石が地面へと落下。
西から吹いていた心地のよいそよ風も暴風が止むとまるで、元から風など吹いていなかったように当たり一帯の風が止み無風となった。
静かにゆっくり開かれていくアリシアの両目。うっすらと開かれていく瞳の中で私は見た。私の知るアリシアの碧眼ではなく、髪の色のように真っ赤に染まった赤眼を。
肉食動物が獲物を狩るときの鋭い眼光に似た、眼に写る者を圧倒する威光の赤い光。それは闇夜に照される太陽のように明るく、また暗かった。
完全に両目が開かれた時、それまでに感じていた不穏な空気の何倍も強く体を射抜く鋭さの空気が私の体を襲った。
持っていた自信が一気に不安へと変わった瞬間でもあった。
(私が感じていた不穏な空気はこの前兆だったのね。私の知らないアリシアが今そこにいる)
過去の触れ合いではそれを見せる素振りすらなかった。いや、昔は無かったのかもしれない。最近になって目覚めたモノかもしれない。どちらにせよ、私への脅威が羽上がったことには間違いがない。
溢れんばかりの魔力。魔力探知の高等技術が出来ない私でも、アリシアの魔力の増幅は感じ取れる。それほどまでに能力が底上げされている。それがあの変化の結果なのかもしれない。
そして私の目に写り混んできたのは信じられない光景だった。
見えるはずのない私の姿をアリシアが睨んだかと思えば、直ぐ目の前にアリシアが剣を振りかざして迫っている。
回避など到底間に合うわけがない。人間の反射をも越えた不可侵の速度による攻撃。私が認識出来たのはそこまで。
肉と骨を断つ短い金切り音。不細工ではない、肉も骨も何一つなく無駄なく切断された私の胴体。切断面が綺麗な直線は切断された胴体をくっつければくっつくのではないかと思えるほど鮮やか。
遅れて吹き出る大量の血液。余りの滑らかさに体が切断されたことをほんの少しだけ認識させていなかった。
枝の上に残る下半身を落下しながら眺めつつ、私はアリシアの顔を見る。満面の笑みを浮かべ私を見下ろすアリシアの顔がそこにある。その笑みは人をオモチャのように弄ぶ普段の歪んだ笑みではなく、純粋な稚児のような淀みのない笑顔。
その笑顔とアリシアの髪と眼を見て私はアリシアの母親の、リューネ・テスタメントのこと思い出した。
アリシアの母親はテスタメント家の中で最強を誇る体と身体能力を有していた。それは国外に轟く『騎士団』にも引けを取らないほどの。
そんな彼女も戦闘になると今のアリシアのように魔法を一切使わず、己の力のみで敵を圧倒し、戦場を駆けた。そして戦闘中の彼女は常に満面の笑みを溢していた。子供のように。
(アリシアは父親だけじゃなく、母親の血も色濃く受け継いでいたのね......)
◆ ◆ ◆
やってしまった。レイチェルを思わず感情のまま下してしまった。そんなつもりは無かったのに、体が言うことを聞かなかった。
落ちていくレイチェルをレイチェルがいた場所から見下ろしているけど、笑顔が崩れない。敵を倒した喜びを感じているからだ。敵を倒すことが至極のことだと体が感じている。
泣き別れしたレイチェルの上半身と下半身の返り血が甲冑と髪にかかる。
高揚感が収まらない。得体の知れない私の変化をコントロール出来ない。
今の私はまるでお母様のようだ。
一度だけお母様の戦いを見たことがあった。他の追従を許さない圧倒的な戦いぶり。幼い私でも余りの実力に恐れをなしていた。
今自分の状態が正にそれだった。お母様程ではないが、それに似た状態になっている。
理由はわからない。けどそれを考えるのはこの戦いが終わった後にしよう。
泣き別れしたレイチェルの上半身と下半身であったが、その二つがドロドロに崩れていき、土の塊の残骸となる。
◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ......」
私はアリシアから離れた樹木の裏で身を潜めている。造り出した私の分身体のゴーレムが全て破壊された。ゴーレムだけではない。ありとあらゆる魔法のトラップを意図も容易く突破された。
破壊されていくゴーレムの視界を通して見えたのは、私の魔法をものともしない傍若無人に駆け回るアリシアの通った軌跡である赤い線だけ。
魔法を正面から受けきり、無傷に近いアリシアの姿に私は震えていた。
恐怖ではなく、その実力差に。今日まで磨いてきたことが全て無駄と宣告されるような惨めな思いから来る自分への不甲斐なさ。
何も変わっていない。寧ろその差は開く一方。
また惨めな思いをしなければいけないの?
(嫌だ! それだけは嫌だ!)
◆ ◆ ◆
「痛い!」
「レイチェル、何故テスタメント家の娘と馴れ馴れしくしようとした?」
「アリシアちゃんとお友達になりたいからですお父様」
アリシアと初めて会った日。その日は国での貴族間での社交界だった。私は幼いアリシアとそこで出会い共に遊んでいた。
表向きは貴族間での仲睦まじい社交界だが、その腹の底では他の家を陥れようとしたり、取り入ったりして権力を欲しようとする欲望の渦巻く空間だった。
私の家もその一つ。どちらかと言えば私の家は強く大きい方ではない。中途半端な中流貴族。だからこそ上流貴族の仲間入りを果たすことに業を煮やし、かたや下に堕ちることを酷く嫌う。
テスタメント家のユーリ・テスタメント。アリシアの父親は私の父親よりも地位の低い下級の貴族だった。けど、アリシアの母親に見初められ、テスタメント家の婿養子として、テスタメント家の一員になることで安泰が約束された。
父親はその事実に納得がいっていなかった。自分より下の者が上級貴族の仲間入りに簡単になってしまったからだ。
地位を上げる為に尽力しても結果には繋がらなかった。
テスタメント家も元々は中級の貴族だった。けど、リューネ・テスタメントの功績の結果上級貴族へと成り上がった。
テスタメント家ばかりの功績を認められ、自分の功績は認められない父親はいつしかテスタメント家を目の敵にしだした。
そこへ、私とアリシアが仲良くしているのが癪に触ったのだ。
「よいかレイチェル! 今後テスタメント家の娘と馴れ馴れしくしようものならばお前を家は入れぬ! そしてテスタメント家の娘には何が有ろうと上に行け!」
そこから父親は私をアリシアと比べ競わせるようになった。
「何故テスタメント家の娘に勝てない! レイチェル! ここで暫く反省しろ!」
アリシアに勝てなかったり及ばなければ、父親は容赦なく私を独房へと入れた。
「お父様! 出して下さいお父様!」
どれだけ泣き叫んでも父親は私を許さなかった。私は父親の逆恨みの道具となっていた。自分でもそれはよくわかっていた。
「出来損ないが!」
元来父親は心優しいと召し使いから聞かされたことがあった。早くに妻を......私の母親を亡くした父親は生後間もない私を育てながら来る日も来る日も家の為、国の為に貢献した。
私の使う遠隔発動の魔方陣も父親が開発したもの。
周囲は敵だらけ、母を亡くした父親が心を許せる相手がいなく、段々とその心が荒れていった。それに漬け込むかのようなテスタメント家の栄光。父親が荒れるのも無理はなかった。
私は父親に認められたい一心でアリシアに勝つために努力をした。体が傷だらけになろうが何だろうが父親に認めて貰うために。
けど、それも突然終わってしまった。
「お父様......今何と仰いましたか?」
「もう、テスタメント家のことは忘れろ。あれはもう存在しない。もうお前が無駄な努力をする必要もないのだ」
テスタメント家が没落し貴族でなくなった瞬間に父親は掌を返したかのように、テスタメント家のことを私に忘れさせようとした。
それを言われた瞬間に私の中の何が切れた。
出来なければ容赦のない仕打ちに、私を認めようとしなかった父親の為に努力をしてきたのに、それが本人たちがいなくなった瞬間に必要のない努力だと言われたからだ。
今までの私の努力を全て否定する一言に私の怒りは頂点に達てしていた。
そして胸に誓った。家や父親など関係なくアリシアは私がこの手で倒す。そしてこれまでの努力が無駄ではなかったと証明すると。
そして今日に至った。
◆ ◆ ◆
アリシアと再会したとき私は心の底から喜んでいた。とうとうこの日が来たと。没落してから音沙汰無かったアリシアの行方が掴めなかった為、街で遭遇した時は運命だと思った。
それがどうだ、又もや私の全てを否定するような実力を発揮するアリシア。いつもそうだった。いつもアリシアは私の遥か上を行っていた。
アリシア迄もが私を否定しようとしている。それだけは絶対にさせない。
頭を垂れながら思い馳せるレイチェルの前に、全てのゴーレムとトラップを突破したアリシアが立つ。変わらない笑みを浮かべるアリシア。レイチェルは立ち上がりアリシアの正面に立つ。互いの距離は目と鼻の先の拳一つ分の距離である。
「アリシア、今から私の持てる最大の魔法を放つわ。それを正面から受けて。そして立っていればアリシアの勝ち。倒れていたら私の勝ち。そうしてくれない?」
「いいわよレイチェル。来なさい。あんたの持てる全てを私にぶつけなさい」
止んでいた風が突然吹き荒れ、突風に晒される二人。雌雄を決する時が訪れたのである。
「『深淵の底に眠りし、地を焼き、地の咆哮を与えんとす大いなる力よ、神よ、精霊よ、我が身の一部を捧げ、我に仇なさんとする、かの者をその力を以て裁きたまえ』」
右手を掲げ、詠唱を唱える。合わせて中庭の大地が地響きを始める。地に亀裂が走り膨大な魔力の塊が私の右手一点へと集結。
アリシアは私が詠唱を終えるまで一歩も動こうとしない。余裕からくるのか本当に素直に私の気持ちを汲んでいるのかは分からない。けど、勝つのは私よ!
「『プロメテオス!』」
魔法名を唱え、右手に集結した魔力が目映い閃光を放ちながら放出、拡散。両者の半径500mの中庭と共に閃光に包まれる。
その直後閃光に包まれた部分が轟音を発し、発火。天まで立ち上る爆発に近い業火は、閃光が包み込んだ箇所全体を焼き、爆破。衝撃波と爆風は地面を大きく抉り、中庭にあるものを根こそぎ吹き飛ばしていく。爆発が収まり火炎が消えていった後に残ったものは、魔法の威力を物語る直径1kmの深さ3mのクレーター。
そのクレーターの中で膝を着くレイチェル。全身は若干焦げ、皮膚が剥がれ落ち生皮膚が剥き出しになっている。装備品の甲冑の一部も炭化しており、崩れ落ちる。
(爆発の直前に可能な限り体を強化、防護したけど流石にダメージが大きい。けど私なら立てる!)
短剣を杖のように地面に差し、立ち上がろうと懸命に全身に力を入れるが、思いの外ダメージが大きく、手足が痙攣している。
私が使ったのは自爆用の魔法。敵の捕虜となった或いはなる可能性がある場合に敵を道連れにする。土と火の合成魔法。周囲への被害を無視した使用者が健在の時に使うようなものじゃないけど、これ以外でアリシアを倒せる気がしない。
それに私の執念ならば耐えれると。今日までの努力の執念ならば立つことが出来ると踏んだ上で使った。
「流石のアリシアもこれならば無事では......」
爆発の黒煙が晴れていく。地に横たわるアリシアの姿を望んだ私の期待は最悪の形となっていた。
「嘘よ......」
晴れた先にあったのは、魔法に堪え忍び、余力を残し健在するアリシアだった。
何もかも巻き込んで吹き飛ばす魔法なのに、アリシアの立っている箇所だけ吹き飛んでおらず、地面も抉れていない。他にも、左右二本づつ携えた剣が無くなっており、代わりに一対の大剣を構えている。
「何なのよ、その剣。まさかそれで魔法を防いだの!?」
こっちは満身創痍。なのにアリシアは疲れこそあるものの、まだ平気そうな顔をしている。
「これがこの剣の本当の姿のようね。リューネとユーリ......父と母の名を冠する二つの剣が一つとなった。『テスタメント』とでも名付けるわね」
信じられない......あれだけの威力の魔法を剣一本で凌ぐなんて。其処らの低位魔法とは訳が違うのよ。捨て身の魔法なのに。
「さて、勝負は私が立っているから私の勝ちね」
テスタメントと呼ばれた大剣は光を放つと、また元の二つの剣へと分裂。剣を鞘に納めたアリシアは私に背を向けるとそのまま立ち去ろうとする。
そんなことさせない。意地でも勝たないと!
「ま......だ......よ! 私は......まだ......戦える......!」
無理やり体を立たせ、覚束ない足取りでアリシアの後を追う。そんな私を見たアリシアは立ち去ろうとするその足を止めた。
「終わりよレイチェル。そんな状態で戦っても無意味よ。勝敗が決したのに追い討ちをするほど落ちぶれてはいないわよ私は」
「うる......さい! あんた......に......勝つために......。あん......たに......勝つ......ためだけに私......は!」
アリシアの側まで寄ると私はフラフラとしながら短剣を振りかざし、降り下ろす。力のない短剣ではアリシアに傷を着けることなど出来やしないのは分かっている。分かっているけども!
そっと私の体が抱き締められる。短剣が降り下ろされる前にアリシアが私を抱き寄せた。
鬼神のごとき力を見せたアリシア。だがその包容はとても穏やかで慈愛に満ちているように感じる。アリシアの確かな他者を慈しむ温もりを肌で感じる。
「もういいのよレイチェル。あんたの今までは無意味なんかじゃないわ。それは戦った私が一番よく解る。私に勝つ為の執念は敬意を払う程よ。その執念があったからこそ今のレイチェルがあるのよね」
何故アリシアはこんなことを言うの? 何でこんなにも涙が止まらないのよ。
「今は休みなさい。体を癒してまた私に挑戦すればいいじゃない。それだけの執念があるレイチェルならばこの敗北を乗り越えてまた強くなれる」
アリシアはとっくに私の気持ちに気付いていた。私の気持ちに気づき理解してくれた。誰にも話したこともないこの気持ちが理解されたことが何よりも嬉しいこと。だから私は泣いているのね。
「............っ!」
歯を食い縛り泣き声を挙げないようにする様はとても不細工に写っているはずね。
「泣きたければ泣きなさいレイチェル」
我慢の限界だった。押し殺していた声を解放し、アリシアの耳元で歳に見会わない程大きな声で私は泣き叫んだ。私が泣いている間アリシアはずっと私を抱き締めてくれていた。
◆ ◆ ◆
「ごめんアリシア。不様な姿を見せてしまって」
溜まっていたものを全て吐き出し、スッキリした私はアリシアの包容を押し退ける。
「平気よこれぐらい。良いものもみれたし」
アリシアも慈愛に満ちた姿から元の人をおちょくる態度へと戻っている。
「あんたの言う通りに、私はこれからもあんたに勝つために自分を磨き続けるわ。そしていつかあんたを私の前に平伏させる」
「それは楽しみね」
アリシアとレイチェルの両者の間に友情? のようなものが誕生。今後この友情がどのように育まれていくのかは彼女達次第。
「今日のところはあんたの言う通り体を癒す為に帰るわ」
千鳥足の覚束無い足どりで帰路に着こうとするも、何の前触れもなく私の体にロープが巻き付いていく。首の下から足まで巻き付いたロープのせいで自由を奪われ身動きが取れなくなる。
「何言ってるの? それはさっきまでの話よ。もうある程度回復したからここからがお楽しみじゃない」
耳元で囁かれるアリシアの声。何故か艶やかな声で私に語りかけてくるアリシア。何故か私もその声に戦っているときとは別の恐怖が襲う。
怖い。何か危険な香りがする。精神的に来る、女としての圧倒的恐怖が!
その後もアリシアは私の耳元で囁き続ける。
「私気づいたのよ。お母様の血を色濃く受け継いでいるって、だからお父様の血も受け継いでいるだろつって」
ダメ、悪い予感しかしない。止まらない悪寒に止まらない震え。アリシアの方を見れないせいもあって恐怖が倍増している。
「お父様は魔法に長けていた。召喚系の魔法も得意だった。だからこんな風にありとあらゆる『スライム』も召喚できる」
ねちょねちょと肌にぬめっとした何かが当たる。もし私の予想通りならアリシアは最悪なことをしようとしている!
「レイチェルも知っての通りスライムには色んな種類がいるわ。例えば衣類を溶かしたり」
何か繊維の焼ける臭いがする。繊維だけを焼く臭いが。
「や、止めてアリシア!」
私は別の意味で泣いてアリシアに懇願した。
「大丈夫よ。大事なトコは傷つけないから」
あぁ、アリシアのドSが発動してしまった。こうなったら何を言ってもアリシアは止まらない。自分が絶頂するまで男女問わず弄ぶ。
「さぁ、いい声で鳴いてレイチェル!」
「い、いやぁぁぁぁ!」
この日私は二度目の絶叫をすると共に、女としての大切なナニかを失ったような気がしてならなかった。
◆ ◆ ◆
「凄いな......あれが噂のテスタメント家の長女のアリシア・テスタメントか」
アリシア・テスタメントがオモチャで遊び終え、満足そうに、帰っていった後のことである。因みにアリシア・テスタメントの肌はとても艶々になっていた。
何もない闇の中から一人の男が足か姿を現していく。レイチェルの使った自身を透明かする魔法とは別の系統である。『空間から現れた』男は独り言を続ける。
「No12の席が空いていることだし、候補に加えておくか」
その後男の姿は徐々に闇に溶けていき、残ったのは戦闘の残骸だけである。
話の進行が遅くて申し訳ありません。