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布の服



「宿屋の受付って普通は可愛い女の子がやるもんじゃないか?くそ親父七泊飯付きで頼む」


鍛冶屋、武器屋を営んでそうな筋肉質な親父に声をかける。ちなみにこの宿屋は親父一人で経営してる。可愛い看板娘がいたりすることもなく、しかめっ面をして腕を組んでるくそ親父に話しかけないといけないのが、この店唯一の欠点といっていいだろ。

そんな親父が笑顔で応対してくれる。


「帰れ、浮浪者」

「勇者だぞ?」


首にぶら下げてる勇者を証明するプラカードを親父に突き付ける。


「そんな小汚ない服を着た勇者がいるか、ボケが!」


プラカードに唾がつくから大声で喋らないでほしい。


「知らないのか? 勇者の故郷では服より布団、枕に金をかけるんだぜ? 」


それに、今の服だってまだ買ってから二年しかたってない、おニューだ。ちなみにこの宿屋一泊分の値段で5着は買えるぐらいの服、それに、今日親父が洗ってくれるしな、泊まるわけだし。


「知るか、お前みたいな浮浪者が寝泊まりしたらうちの評判が落ちるっていってんだ!! 帰れ!」

「ちなみに今宿泊してる客は?」

「もうすぐたくさん来るんだよ!!」

「じゃあ金置いとくから、いつものところ借りるなー」

「あっ、おいーー」


カウンターに三泊分の銅貨を置いて、階段を登る。親父が何か言っているが無視だ。なんだかんだいいつ泊めてくれるし、毎回三食ちゃんと飯を運んできてくれるからな。ちなみに三泊分の銅貨を置いてきたのは間違えたわけではなく。毎回、毎回少しずつ銅貨を減らして渡してきて二年ついに、四泊分まで安くすることに成功した。罪悪感はもうない! まったくこの宿屋がいまだに潰れないのが不思議だ。


毎回借りてる、一番奥の部屋に入る。

この宿屋は基本的おんぼろだが、それに輪をかけてひどいおんぼろ具合のこの部屋が一番気に入っている。どれぐらいひどいかというと、俺は二階から一階に三十回は落ちた。床の老朽化と親父の見た目に反した適当な床の修復のせいで床が抜けるのだ。

気に入っている理由が床が抜けたことをたてに値引き交渉ができることにほかならない。

果たして、荷物といっていいのかわからないが、道にはえていた雑草を適当に摘んでいれといた、雑草しか入ってない鞄をベッドにおろす。また、子供が薬草と騙されてくれたらいいんだが……


ちなみに今すぐにでも投げ捨ててやりたいお荷物な、勇者を証明するプラカードは呪いの装備みたいなもんだ。

ある程度プラカードと距離を置くとプラカードが俺めがけて飛んでくる。そして角が刺さる。そして刺さるんだよ! くそが!

俺の服と体がボロボロなのは別に強敵たちと熱いバトルをしたとかではなく、プラカードのせいだ。

とりあえずむかついたので、開きっぱなしの窓向かって首から取り外したプラカード投げる。

案の定、フリスビーのように戻ってきて俺の眉間に着地した。


「ぐぁああああああああああああああ」


ひとしきり痛みに悶えた後、薬草もどき(雑草)を詰めた鞄をもって、つまり来たときとまったく変わらない格好で一階に降りる

まったくなにしに来たんだ俺は。


「お、おっ!? 帰ってくれるのか!! そうか!そうか! じゃあこの三泊分の銅貨は返すからな?」


案の定、親父に勘違いされてしまった。というか俺の二年越しの計画が見破られていただと……!? 最終的には無料を目指していたのに!!


「ちげぇよ薬草を子供に売り付けにいくんだよ!!」

「そ、そうかいつも思っていたんだが、なんでそんなことしているんだ?」


親父の顔が歪む、どうやらこの親父にはバレてるようだ……


「仕方ないだろ働くのは嫌なんだ。俺は食って寝れたらそれでいい、たとえ子供を騙したとしてもな」

「そういうことを言ってるんじゃーーーー」


親父の話を無視して宿からでる。客が説教受けなきゃいかん理由もないしな。

外からみる『宿屋 ヴォルバルザーク』と書かれた看板は傾き、外装はボロボロでとても宿屋には見えない。本当になんでこの店潰れないんだろ?


1


カタジト。北アルフォード帝国の南部、ガイヤード地方にある都市のひとつだ。カタジトの最大の特徴は勇者である。こう、聞いて疑問符を浮かべる人はこの世界にはいないといってもいい、子供だって知ってる。つまりこの都市から年に5~6人の勇者が召喚されるのだ。勇者の召喚できる場所は限られていて、まぁなんだパワースポット的なところでしか召喚できないのだ。 一概に勇者とは超常的な特殊能力を持っており、その能力は千差万別だ。戦いで役立つ能力であったり、生活に役立つ能力だったり。まぁ俺のような例外もいるっちゃいるが。

さて、そんなこんなで俺が何を言いたいかというとだ。この都市は会いたくないやつらに会いやすいってことだ。


「やあやあやあやあ、暗殺者かなにかの類いかと思ったら最下位君じゃないかー! そんな汚い姿でどうしたんだい?」


午後の日差しで、石畳の街路がキラキラと輝く、そんな町の一角 街路よりキラキラ光る取り巻きを大勢つれた会いたくないやつが俺の方に向かって歩いてくる。


ロングの金髪に、大きな碧色の瞳が特徴的な、年の頃 17、18くらいの青年だ。まるで貴族がきるような真っ白な服のポケットに一輪挿してあるバラがうざさを二乗、三乗まししてるのは間違いない。

「ああ、これかい? まぁぼくはランク1000位台の勇者だからね、貴族の方々が直々に用意してくれたのさ、服装も気を使った方がいいとね」


俺の視線に気づいたのか、ポケットのバラを取り出しながら話すキラキラ。これはうざさ五乗ましは軽くいってるな、バラ侮るべからず。


「ああ、もういいか? キラキラ? 俺は雑草売りに行くんだよ」

「なっ、キラキラ!? 僕の名前はマルティーだ! 忘れたのか!? ふっふぅ…………まぁいいさ、それより聞いたかいみんな? こいつは今から雑草を売りに行くらしいぜ? さすが最下位はやることが違うな! ははっ!」

取り巻きたちは俺を見てニヤニヤしている、勇者なのに自分たちより下だと悦に浸っているのだろうか? いや、もしかしたら、マルティーが髪をかきあげるしぐさを手を使わずに、バラを使ったことを見てみんな笑っているのではないだろうか? それにしてもこいつはどんだけバラ好きなんだ。うざいほど似合ってはいるが


それにしても勢いでついつい雑草って言ってしまった。 子供たちに知られる前にとっと売り付けてしまわねば。


「んじゃマル、マル、マロニー! 悪いけど行かせてもらうぜ」


と最後に馬鹿にしてから、この場を離れる。 あんまり通りたくないが近道として、昼だというのに、光が差し込まない建物の間を通る。


「マロニーじゃああああない」


叫び声が聞こえたのはきっと気のせいだ


2


どこの都市でも、こういう暗い部分あるもんだ。

老婆に怪しい薬を売られそうになりながらも、暗い道を進む。

果たして老婆には俺がお金持っているように見えたのだろうか。


前へ、前へと進むと少し開けたところがみえる、ところとごろに松明が置いていてあり、そこには鉄の檻に首輪で繋がれた。亜人、人間が見てとれた。 運悪く奴隷市にたどり着いてしまったようだ。ちなみに奴隷は合法だ。つまり隠れて奴隷市を開くってことは相当ヤバいってことだ、パット目につくのだけでも、耳が途中でバッサリ切られ、片腕がない兎族の少女

真ん中の辺りでまるまる太った男が、油乗った笑顔で、貴族っぽい風体の男と話している。

気づかれる前に退散するのが吉だろう。


気配を断ちその場から離れる。当初の目的通り子供たちに雑草を売りにいこう。


見慣れたバザールにつくまで、結構な時間がかかってしまった。

ここでは多種多族が好きなように好きなものを売っており、俺みたいなかっこうの服の人間も何人かいる。


「あー祐にぃだ!!」


一人の子供の声をかわぎりにたくさんの子供たちに囲まれる。

何を隠そう毎回俺が騙してる子供たちだ!


「にぃーにぃー」

「薬売ってー薬ー」

「お薬ほしぃよぉー」


まったく役得だぜ! まぁ俺の脳内で抜粋した言葉全部男が言ったんだけどな! しばらくわーわーぎゃーぎゃーうるさい子供たちになすがままにされる、ふと思う、あの奴隷市の中にもこれぐらいの歳の子供もいたんではないかと。


俺は何を考えてるんだ……誰かを助けるなんてバカらしい……そうだろう? また繰り返すのか? でも、でも、ああああああああああああああああああああああああああああああああ


「ああああああああああああああああああ!!!」


いつの間にか叫んでいたようだ。子供たちが心配そうに俺のことを見上げていた。


「あーーごめんごめん今回は薬草はないんだ」


今回、騙すのは子供じゃなくて、まるまる太った七面鳥に変更だ。

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