プロローグ
初心者なのでいろいろめちゃくちゃです、とりあえず作品にしてみたいなと思ったので書き始めました、なので荒いところだらけですのでおかしいところなんかは指摘していただけると嬉しいです。
また、格闘モノですが私自身は格闘技をやったことはありません(笑)
完全に想像と自己満足でやっているので非常に違和感のある作品になってしまうかもしれないです‥‥ゴメンナサイ
ゲームセンターにあるガチャガチャを十回ほど回し終えた後帰宅。
これが秋山紅葉にとっての日常である。
紅葉の父は武術家で、その娘である紅葉、そして二つ年下の妹の若葉は幼い頃から父に戦い方を教わってきた。
紅葉たちの実力は並大抵の人間では敵わない強さである、そのことが気に食わない輩が多いのか、中学生の秋頃からよく厄介事に絡まれる。
幼い頃、純粋な心をもっていた紅葉も次第にすさんできて、高校に入る頃には不良になってしまった。
5月28日 午後5時29分 雨
いつものようにガチャガチャを回し終え、家へと帰る。
「ただいま…」
無意識のうちに当たり前のように口から出た言葉が、しんとした静かな家の中に溶けて消えてゆく。
「あれ、誰もいないのか…」
紅葉は薄汚れた靴を脱いで家に上がる。
靴を見たところ、若葉はまだ帰っていないようだった。
そしてすぐ近くに親父の部屋があるのに返事が無いということは…
「道場か…」
紅葉は今日の晩飯は何が良いかを聞くために道場へと向かった。
途中、妙な違和感に気づいた。
道場まであと10mちょっと、なのにも関わらず。音が聞こえない、親父が修行しているのならばなにか聞こえてもおかしくないはずだ、それなのになんだこの馬鹿げてるほどの静かさは。
ひょっとして実は部屋にいて寝ているか死んでいるんじゃないかと疑うほどの静かさだった。
妙な緊張感が紅葉の背中を撫でる。
冷や汗がつぅっとこめかみを伝って滴り落ちるのが感じられた。
おいおいどうなってんだ、焦る場面じゃないだろ。
心の中で騒ぐ妙なものを無理やりおさえこんで、その扉を開いた。
そこにはいつもの柔道着姿の親父と、見知らぬ中国人がいた。
その男がただの客ではないことは見てわかった。
来客ならば靴を脱ぐはずだがこいつはそのまま道場に来ている、そして明らかにこれから一戦やろうってカンジの雰囲気をしている。
「親父?」
「紅葉か…」
親父が背中をこちらに向けたまま返事をする。
「親父…こ、こいつは一体誰なんだ」
「紅葉…気をつけろ…この男は尋常じゃない強さだぞ…」
紅葉の父は低い声で、なおかつはっきりと紅葉に届くようにこの男の危険性を伝える。
「コイツの名は孫・華嶺…中国に伝わる秘拳、暗煙拳の使い手だ…」
「あん…えんけん?」
聞いたこともない名前だ、例の中国人は見たところまだ20代と言ったところだろうか、かなり若そうにもかかわらず、そこまで親父が恐るほどの力を持っているというのか?
「親父…!」
「さがっていろ!」
中国人が奇妙な歩行をした。
重心はしっかりとして、足の揃い方も見事な歩き方だが、その上半身、というよりは、足首より上がひどく左右にぐらぐらしている。
まるでヤジロベエだ、と思った。
あんなにぐらぐらと揺れてどうして倒れないんだ?
その気持ちの悪い動きのまま、あっという間に間合いに入った。
親父が奴のみぞおちめがけて拳を放つ。
だがその攻撃はあっさりとよけられてしまい、後ろに回り込んだ後、親父の背中を背中で、どんと押した、鉄山靠だ。
親父はそのまま前のめりになって倒れかけるが、そのままステップで距離をとる。
そして再び構え直し、今度は親父が一気に距離を詰め、間合いに入る一瞬に姿勢を低くして地面を思い切り踏みつける、そうすることにより相手の懐へと潜り込むと同時に急加速による強烈な攻撃をお見舞いできる。
親父は今度は相手の肋骨あたりを狙い、掌底とアッパーを組み合わせたような技である熊底をぶちかます。
熊底は当たる直前に地面を思い切り踏むことにより、支えを作る、地面という絶対の支えを利用して押す技だ、使用する人間の体の頑丈さがそのまま武器になる。親父ほど大柄な人間のあれを食らえばひとたまりもないはずだ。
だが。
その中国人はわけのわからない動きでそれを回避してみせた、手のひらが当たる直前に回し受け、さらに上半身を左に移動させ心臓への直撃を避ける、その後膝を上げることにより、手のひらの直撃そのものを阻止する。
3つの動作が同時に行われる、まず膝で軌道がずれたのち、回し受けでその攻撃はさらに大きくずれる。
そうしている間に中国人の体は大きく横に移動しているため再び反撃の隙を許してしまう。
その中国人は親父の横へと回り込むと同時に体をくるりと半回転し胴回し蹴りを食らわせた。
その動きはあまりにもスムーズすぎて気持ち悪さすら感じた。
親父はその攻撃をモロに食らってしまったために大きく吹っ飛ぶ。
かろうじて受身は取れたが、あばらが数本折れていることだろう。
それを黙って見ていた私もさすがにキレた。
「こ、このやろう!」
私は中国人に向かい全速力で走り、飛びかかる。
右手の先に力を込める、これが私の得意技である牙狼だ。
牙狼とは、手刀技の一つで、振り降ろすと同時に腰を落とし、姿勢を低くして手刀の動きを加速させるというものだ、とはいえ加速させるほど素早く腰を落とすことはほとんどの人間にはできないだろう。
幼い頃からそうやって鍛えられた一部の人間にこそ扱える技だ。
そして紅葉はもう一つの部分を鍛えていた、それは指だ。
紅葉は牙狼を手刀ではなく、指で引っ掻く技にアレンジした。
鍛えられた指で振り下ろす超高速の牙狼は人間の肉体を裂くことも容易である。
それを飛びかかりながら、空中でやるのだ、正直.威力は半減するだろうが奇襲にはもってこいの技だ、まるで獣の突進さながらのど迫力の攻撃をまともに対処しきれる者はいないはずだ。
だがその男は、まず牙狼に使用された攻撃用の右手の手首を手刀で当て、そのまま紅葉の方へと接近する、そして空中に浮いた足を同じように反対側の手で当て、扇風機のように弾き終わった両手を回転させる。
紅葉はそのままふわりと吹っ飛ばされる。自ら飛びかかっていってその勢いを利用されたのだ。そのうえ男の動きは実に軽やかで、当たった瞬間も実感がないほど優しくスムーズなものであった、紅葉には何が起きたのか理解できなかった。
いそいで受け身を取り、前転しながら姿勢を戻す。
ならば、と紅葉はゆっくりと歩み寄り全身の力を抜いていく。
そして腕を伸ばせば攻撃が当たる、というところまで接近したのち、すぐさまジャブを繰り出す。
男はそれを軽く払いのける、こんどは残った手でジャブ。
紅葉はとにかくジャブを連発し一発でもいいから当てよう、という作戦だった。
だが中国人はよほど防御の修行をしているようで、全ての攻撃を捌ききっている。
次第に今自分が何をしているのか訳が分からなくなってくるほどだ、この野郎、と叫び左ストレートを放つと、回し受けをされ、拳の軌道が大きく逸れた。
が、よく見れば違った、触らない回し受けだった。
思わず手を変な方向にやってしまったが、何をアホなことをしてるんだ、と我に帰る。
触られていないのに勝手に体がつられて攻撃をそらされた、ふざけるな。紅葉の怒りは頂点へと達し、左足を高く上げアゴを狙う、が、それも当然の如くかわされる。
だがこれはあくまでも初期動作、上げた足を地面に戻し強く踏む。
そしてその力を利用し右手を大きく振り下ろす、野球のピッチャーがボールを投げる時のあのモーションで相手の顔面をぶっ叩く大技のひとつ、震撃。
これを食らえば顔面はめちゃくちゃになるはず、この至近距離でこの速度。
避けられるはずがない、圧倒的な自信があった。
だがそこで紅葉が見たものはもはや人間ではなかった、煙、煙そのもの。
中国人の回避の上手さは紅葉に煙をイメージさせた、たしかに直撃はしたが恐ろしいほど手ごたえがない、煙をぶっ叩いたらおそらくこんな感じだろう。
中国人は当たる寸前に限界まで力を抜き、当たった瞬間に抜いた力を利用しその攻撃に無抵抗で対応する、空中の紙に攻撃をしてもまともな手ごたえが無いのと一緒、まるで煙のように全てを受け入れるその柔軟性で紅葉の攻撃を文字通り受け流したのだ。
そして後ろへと回り込んだ男は紅葉の後頭部を肘で攻撃する。
ハンマーのような鈍さと鎌のような鋭さが紅葉を襲う。
あまりの衝撃で気を失いそうになるがなんとか意識を保ち、ジェットコースター並みの速度で裏拳をかますがこれもかわされる。
「くそっ、なぜ当たらない!?」
「紅葉、これが暗煙拳なのだ!」
暗煙拳とは、その昔一人の武術家が編み出した拳法であり、蟷螂拳のような何かをモデルとした拳法の一種なのだと親父は言う。
その武術家はある日、釣った魚を焼いて食うために火をおこした。
すると真っ黒な煙がもくもくと溢れ出てくる、その煙は容赦なく襲いかかり、手で払いのけようとしても大した手ごたえもなく、煙は目にしみ、口の中へ侵入し呼吸を妨げ、一瞬で地獄を見せた。
その武術家は煙のあまりの強さに10メートル以上距離をとった。
煙とはこんなに強い存在だったのか、その武術家はそれを強く思い知らされる。
その日から煙をおこし、日夜けんきし続けた。その末に完成したものが暗煙拳、相手のあらゆる攻撃を受け流し、強烈な一撃を与える恐ろしい拳法が。
「そろそろ終わりにさせてもらおう‥‥」
中国人の男がゆっくりと呟いた、紅葉はその声を聞くや否や守りの姿勢へ変える。
右足を前に出し、心臓を守るように姿勢を変える。
男は紅葉の膝を狙い足で攻撃してきた、うっかり出しすぎてしまった右足があだとなった、膝に一撃をくらってしまい苦痛が顔に出る。
男はそのままの勢いで紅葉の顔面に拳を打ち込む、紅葉は単純な攻撃すら対処できずそのまま攻撃を受けてしまう。
紅葉の前髪を引っ張りさらに拳を打ち込む、たった2発で紅葉の顔はひどい状態だ、鼻が折れたため真っ赤な液体がどろりと流れている。
そして右目の上にはおおきなコブができてしまい恐ろしい顔になっている、だが男はそんな悲惨な状態にも関わらず顔面のみを集中的に攻撃し続ける、拳を額に打ち込むと紅葉は大きくのけぞる、それをセーラー服のスカーフを掴んで引き戻し、右の頬をビンタした直後左の頬を思い切り殴る。
まるでサンドバッグのようにボロボロにされている、極めつけに背中を見せた紅葉の手首を掴み、押さえつける。
そして正しい角度に曲がっている肘を思い切り叩き、逆方向に曲げさせた。
骨の折れる音が鳴る、小さい音だが痛みを伝えるのに十分過ぎる音量だった。
思わず紅葉が小さな悲鳴をあげる。
腕が折れたのなんて何年ぶりだ、それも事故じゃなく人間の手によってへし折られたのは。
あまりの痛みに体が動けない、立ち上がって反撃しなければならないはずなのに、まるで全身が針金で縛られているかのように動けない、 意思に反して肉体が動くのを拒否している。
苦しみから捻り出される声を自分で憎く思った。
こんな声を出してどうする、そんなことに力を使うな、とっとと立ち上がるんだ。動いてくれ。
何度も何度も力を入れるがどうしても動くことができない、額に浮き上がった汗の一つがまぶたに流れる、汗が目にしみて目をつむる。
汗ひとつにすら抵抗できない自分の非力さが情けなく思えた。
そんな私を男は見向きもせず、父の方へと向かう、父はすぐに戦闘態勢へ入る。
折れた骨の痛みで顔をひきつっている、だが重心がしっかりとしていてちゃんとした姿勢の正しい構えを取り続けた。
親父の上段蹴り、男はそれを腰を落としてかわす、その時だ。
姿勢を低くしたと同時に親父はサマーソルトキックをやってのけた、片足をあげた無茶な姿勢からのあのアクロバット大技、しかも男はしゃがんで回避している最中だ、今度こそまともに喰らうはずだ。
だが。
親父の足が男の顔面に当たる直前、ぴたっと動きを止めた。
よく見ると男は当たる直前に腕を高く伸ばしていた、それは、親父の喉をめがけて伸ばしたものだった。
喉仏を突いたのだ。数センチほど深く入っいる、あそこまで完璧に決められたらひるまずにはいられない。
親父は聞いたことのない声を出し、喉を抑えるようにして大きくのけぞる。
そのすきを狙い男は親父の顔面に拳を2発打ち込む。
命中した先は、眼球。
両眼を潰された親父が目から血をこぼして膝をつく。
「‥‥‥‥‥‥勝負あったな‥‥‥‥」
男はそうつぶやくと裏口から外へと出る、薄暗い道場には血まみれの親子が2人残った。
「親父‥‥‥‥しっかりしろ‥‥親父‥‥」
紅葉は這いずりながら父のもとへと近づいていく。
「親父‥‥親父ッ」
なんとか、本当になんとか動けるようにはなったがあの男を追う余裕まではなかった。
今は瀕死の父に声をかけるのが精一杯だ。
「紅葉‥‥‥‥‥‥‥‥」
まるで屍が声を出したらこんな感じなのだろう、それほど紅葉の父の声は低く、聞こえにくいものだった。
「しっかりしろ親父‥‥今助けを呼ぶ‥‥‥‥」
「紅葉‥‥‥‥‥‥‥‥」
父は紅葉の肩を掴むと、ノート、とだけつぶやいた。
「え?」
「ノートだ‥‥‥‥俺の部屋にある‥‥ノートを‥‥」
「ノートがどうしたっていうんだ」
紅葉の父は一呼吸置いてからゆっくりと話した。
「俺の部屋にあるノートを読め‥‥‥‥そこに全てを残してある‥‥‥‥俺がお前にできる最後の世話だ‥‥‥‥‥‥」
「ノート?それより最後って‥‥」
そう言うと紅葉の父の手は紅葉の肩の上からゆっくりと落ち、そのまま動かなくなった。
「親父‥‥‥‥‥‥?おい‥‥‥‥‥‥親父‥‥‥‥‥‥親父!」
急速に湧き出る父の死への恐怖、今までずっと一緒だった人間があっという間に遠くへと離れてしまった。
「親父ッ!!返事をしろよ!親父!」
何度も何度も叫んだ、最後の叫びはもはや悲鳴だった。
親父はもう死んでしまった。
あの男の手によって、親父が、親父が殺された。
叫ばずにはいられなかった。
紅葉の意識は、叫び声により消えてゆく。