第7話「プリズム」
「うちの馬鹿息子がご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません!」
そう言って深々と、机に頭をぶつけそうなくらいに頭を下げて、勇人の父である九条信也は謝罪の言葉を叫んでいた。
妻である九条園子も同様に、謝罪の意を示している。
言いふらすつもりはなかったのだが、どうやら勇人自身の口から家族に話したらしい。
今は夕食も終わった時間。九条家の面々が勇人を除いて集合している。
初めは勇人を連れてこようとしていたそうだが、「謝罪はさせましたし、会いたくありません」と宮子自身が断ったのだ。
「んー……家としては宮子がもういいって言ってますし、スカートの弁償までしていただいてるんですから、私はもういいかな」
「……俺からは、よく叱っておいてくれとだけ言っておこう」
宮子の両親は「宮子自身がケリをつけたのなら、それでいい」とこの件は決着した。
九条家側の罪悪感は、彼ら自身が飲み込まなければもう、他者にはどうしようもないことである。
「うくっ……お姉ちゃん、うちのお兄ちゃんが、ごめんなさい……ひくっ」
「泣かないで、愛ちゃん。私は大丈夫だから」
宮子はそう言って、愛を優しく抱きしめた。
小学生である愛には、家族である兄が仕出かしたことに大きなショックを受けただろう。
その苦しみのどれほど深いことだろう。
愛はだらしないとか文句を言いながらも、なんだかんだで兄が大好きなのだから。
「……きらいにならない?」
「ならないよ。私、愛ちゃんのこと大好きだよ」
安心させてあげようとぎゅっと抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いてあやす。
「今度の休日、久々に遊ぼうよ。ね?」
「ぐすっ……ありがとう、お姉ちゃん」
くしゃくしゃになった顔で、ようやく愛は笑顔を取り戻した。
「本当にごめんなさい。愛のことも励ましてくれて、ありがとう」
「気にしないでください、園子さん。私がしたくてしていることですから」
「宮子ちゃんは、本当に良い子に育ったね。それに比べて、うちの勇人は……私の躾がなっていなかったのだろうか」
信也が悔やむように唸る。宮子はフォローしようと思っても、これ以上は何を言ったところで彼らの罪悪感を拭えるとは思えず、言葉が思いつかなかった。
代わりに、自分のありのままの思いを伝える。
「先程もお話したように、スカートの破損についてはもういいんです。
ただ、勇人が自分を慕う女の子達を無下に扱ったことが、どうしても許せなくて……。
何故勇人があんなことをしたのか分からないのですが、何か理由があって好意を受け入れられないなら、はっきりとその旨を伝えるべきであり、少なくとも嘘で踏みにじるのは最低と思います。
本人に彼女達を傷つける気がなかったとしても、簡単に許してはいけないことだと思うんです。
なのですみませんが、今後しばらくは勇人自身との交流は、避けさせていただきたいです。
それで反省して、今回のことを悔いてくれるのなら、その時に顔を合わせたいと思います」
長くなってしまったが、それが宮子の本心だった。
絶交、とまではいかない。だけど叱り付けたら後はいつも通り、では骨身に染みないと思う。
元々疎遠であったとはいえ、それはただすれちがっていただけのこと。
明らかな拒絶を見せることこそが、勇人に対する一番の罰であると宮子は考えていた。
自分自身、今の勇人に会いたくないというのもある。とはいえ一生顔も見たくないのか、というとそうでもない。
まったくの他人ではなく、昔はよく遊んだ幼馴染なのだ。情もある。
結局のところ、勇人自身に自分の在り方を見つめ直して反省してほしいというのが宮子の意見だ。
根は決して、悪い奴ではないのだから。そうでなければ、あれだけの数の異性に好意を寄せられないだろう。
「本当に、すまない。宮子ちゃんが一番の被害者だというのに、そんなに気遣ってくれて」
「無理に顔を合わせてくれなくても、いいからね? 本当なら私達も顔向けできないくらいなんだから」
「悲しいことを言わないでください。皆さんに会えなくなると、寂しいですよ」
ひどく落ち込んだ様子の九条夫婦に、宮子は微笑みを返す。
特に信也の落ち込みや焦燥はひどいものがあった。
彼自身が警察に所属する身であることもあり、場合によっては犯罪になり得た今回の騒動を息子が引き起こしたことを、気にしているのだろう。
だけど宮子は、彼らとの付き合いがなくなる方が嫌だと思った。
幼少期から家族同様に良くしてくれた人々なのだ。会えなくなるなど、悲しい。
「お姉ちゃん、ありがとう……大好き!」
ありのままの思いを伝え終えた宮子に、愛は今度は自分からぎゅーと抱きついていた。
〇
自室に戻り、携帯を確認するとメールが着信していた。
読み進めてみると、例の4人の少女達を代表して一人がメールを送ってきたらしい。
内容を要約すると、個別に連絡すると宮子側の手間が大きいでしょうしチャットを使ってまとめて話せませんか、との提案だった。
パソコンを繋いで指定されたチャットルームに入室すると、すぐに反応が返ってきた。
どうやらこのグループ専用のチャットで他の人は入って来れないらしい。
それぞれ実名で登録しているようなので、自分もそれに習いハンドルネーム欄に実名を入力する。
杉野宮子「お待たせいたしました」
小野渚「こ、こんばんは」
剣崎司紗「よろしく頼む」
式森花音「よろしくなのじゃ」
蔵馬皐月「こんばんは」
宮子はそれぞれの名前と顔、特徴を頭の中で一致させていく。
小野渚。気弱そうでおどおどしている。1年生。けど放課後の最後の質問タイムで彼女だけが唯一声を上げたことを考えると、けっこう行動力もあるのかもしれない。
剣崎司紗。剣道部所属2年。実家は剣道場で、若くして次期師範代を期待される実力者。
式森花音。1年生。式森家はけっこうな大手企業。ちなみに宮子の知人である新聞部部長の妹。
蔵馬皐月。2年生。渚以上に内気で寡黙。無表情。さすがにチャットでは普通に会話できるようだ。
ちなみにこれらの情報は友達ネットワークなるものを駆使して由美が集めてくれたものだ。
小野渚 「よかったです、返事がないので気分を害されたのかと……」
杉野宮子「すみません。先程まで勇人の家族と話しておりましたので返事ができませんでした」
式森花音「むぅ……そういえば幼馴染と申しておったな」
剣崎司紗「話というと、やはり本日の件か?」
杉野宮子「はい。穏便に済みましたのでご心配なく」
小野渚 「そ、その……勇人先輩とも、お話されたのですか?」
杉野宮子「いえ。ご家族とも話し合い、しばらくは勇人自身とは交流を絶ちますので、会っていません」
蔵馬皐月「徹底してる」
杉野宮子「ですが九条家の方々とは今まで通りに過ごすことを私自身が希望しました」
小野渚 「や、やっぱり先輩のこと怒ってるんですか?」
杉野宮子「怒ってはいますが、交流を絶つのは貴方達を傷つけたことを反省してほしいからです」
式森花音「あくまでもわしらに対する行いが原因なのじゃな……」
杉野宮子「どのような理由があろうとも、人の好意を踏みにじることを許せませんでしたので」
どれだけ聞かれようとも、それが本心である以上揺るがない。
今まで多くの人と交流してきた宮子は、恩を仇で返したり、好意を無碍にすることは、決して許せないことだったのだ。
今回は恋心だったが、もし恋心でなくとも人の想いを傷つけるような行いを勇人が行っていたのなら、やはり怒っていただろう。
蔵馬皐月「勇人のこと、好きじゃない?」
杉野宮子「幼馴染、友人としてなら好意を持てる部分もありますが、恋愛対象として意識したことはありません」
式森花音「すっぱり言い切るのう」
杉野宮子「それに皆様と睨みあうような関係は避けたいです。せめて此度のことをきっかけに良縁を結べれば、と」
小野渚 「わ、わたしこそ、これからよろしくお願いします!」
他の面々も概ね、交流を深めていくことには同意の様子だ。
各人思うところはあるかもしれないが、それは人間である以上仕方ない。
突然「さっきまで色々あったけど隠し事ない友達になろうぜ!」なんてなれない。
信頼関係とは交流を通してお互いを良く知り、少しずつ築いていくことが何より大事なのだ。
杉野宮子「先刻も申しましたが、私も恋愛については経験がないため、基本的に皆様の相談に乗る形でサポートさせていただきます」
式森花音「恋愛についてはわしらの方が先輩かのう?」
杉野宮子「そうですね。私は恋がどうのと言われても、ぴんとこないのです。ただ、勇人の好みなどについては話せると思います」
蔵馬皐月「私達の恋心と幼馴染の知識が合わさり最強に見える」
剣崎司紗「正直、私は今回が初恋なので、どう切り込むべきかも分からない。勇人の好みの助言だけでもありがたいよ。よろしく頼む」
式森花音「そうなのじゃあ。わしとて先輩などと意気込んだところで初心者なのじゃあ。およよ」
小野渚 「み、みんな恋愛初心者なんですね。私も初恋です」
なんだか和やかな雰囲気だ。
一人の男を取り合うような状況なら、もっとどろどろしていそうだと想像していたのだけど、意外だった。
杉野宮子「皆さん、仲がよいのですね。正直昼ドラのような修羅場も覚悟していたのですが」
式森花音「正直、今までは仲は決してよくなかったのじゃよ」
剣崎司紗「恥ずかしながら、男を取り合って醜態も晒したと思う」
小野渚 「今日の出来事で、みんなそれぞれ思うところがありまして」
蔵馬皐月「私達のために怒ってくれる人がいる。なのに自分はどうだろう、と」
式森花音「昼間のことも最初は、新たなライバル登場じゃと敵意を剥き出しにしてしもうた」
剣崎司紗「だが貴方は、私達のために怒り、叫んでくれた。人の想いを踏みにじったことが何よりも駄目だと」
式森花音「われらも、誰かの想いを踏みにじっていたのではないかと思うと、胸が痛くなったのだ」
小野渚 「あの後皆で話しあって、仲良くやっていこうって決めたんです。前田先輩だけは、拒否されましたけど」
どうやら前田加奈子以外の4人は、協調して事にあたるらしい。
杉野宮子「仲良くするとはいっても、勇人は一人しかいない以上最後には取り合いになるのでは?」
式森花音「今まではそうだったのじゃがの。しかしわれらのその有様が勇人の負担になっていたのではないかとも思うのじゃ」
剣崎司紗「最近は特に、昼間のように逃げられることが多かった。今思えば逃げたくなる程、私達のことが重荷となっていたのであろう」
小野渚 「私達みんな、困っている時に勇人先輩に助けられて、好きになったんです。だから、そんな先輩を困らせるようなことはしたくなくて」
蔵馬皐月「このまま奪い合いを続けて勇人に嫌われるくらいなら、同盟を組んで全員で仲良くなり、勇人に選んでもらう方がいい」
彼女達は全員、自分を選んでもらいたいとは思いながらも、このままでは埒があかないと判断したようだ。
自分を選ばせるのではなく勇人に選んでもらう。結果は同じに見えても、過程が全然違うことになるだろう。
それにしても勇人はとても好かれているのだな、と宮子は改めて認識した。
杉野宮子「分かりました。それではその方針で進めていきましょう」
小野渚 「はい! よろしくお願いします!」
式森花音「まあ選ばれなんでも、ハーレムを形成すれば傍にはおれるじゃろうて」
剣崎司紗「げ、現代社会でハーレムなど! 不埒な!」
蔵馬皐月「しかし現に今の私達の状況は、勇人を中心としたハーレム集団」
小野渚 「あ、改めて考えるとすごいことになってるんですね、私達」
剣崎司紗「う、ううむ……私達が、ハーレム……」
杉野宮子「どちらにせよ、まずは勇人に『傍にいてほしい』と思われる必要がありますね」
恋愛がよく分からない宮子でも、傍にいてほしくない相手と恋仲になれるとは考えられない。
恋人とはやはり、お互いに想い合う間柄であると思うからだ。
なら宮子のアドバイスの方針としては、勇人が彼女達が傍にいてほしいと感じられるようにすることだろう。
杉野宮子「今回の件で勇人自身も精神的ショックを受けたと思います。まずはそれを慰めることが先決でしょうね」
小野渚 「杉野先輩こそ、ショックが一番大きいのでは……」
杉野宮子「まあ、私のことはひとまず置いておきましょう。それより勇人のことですが、あれから話はしましたか?」
剣崎司紗「それが話しかけても、呆然とした様子でな。余程堪えたらしい」
式森花音「手をこまねいている間に、加奈子に無理矢理引っ張っていかれたのう」
小野渚 「落ち込んだ時はぱーっと遊びましょう、なんて言ってましたね。私達みんなで追いかけても見失ってしまって」
杉野宮子「それについてはご両親から、ゲームセンターで遊んでいた旨を伝えられましたね」
事件を起こしておいて自分は遊び回るとは何事か! と大目玉だったらしい。
九条家の謝罪が遅れたのも、勇人の帰宅が遅く、帰ってきてからようやく昼間の件を話したからだそうだ。
そのことをチャットに打ち込むと、色々と反応が返ってきた。
剣崎司紗「それは確かに、反省の色なしと思われても仕方ないな」
式森花音「加奈子の独断は完全に裏目になったというわけじゃな」
小野渚 「先輩、家族にまで怒られて大丈夫かな……」
蔵馬皐月「泣きっ面に蜂」
他にもいくつかチャット文が打ち込まれたが、概ね加奈子の独断専行への批難と、勇人の家での状況を心配する声が多かった。
頃合を見て、宮子も文章を打ち込む。
杉野宮子「これから勇人に当たってお願いがあります。勇人の全てを肯定するのではなく、間違いは指摘して忠告してほしいのです。
好意を抱いている皆様にお願いするのは酷なことかもしれませんが、勇人の今後のために必要なことと思いますから」
少し長文になってしまうが、そのまま打ち込み続ける。
宮子にとって、彼女達が今後どんなアピールをするにせよ、守って欲しいことだからだ。
杉野宮子「落ち込んでいる相手に『あなたは悪くない』など優しい言葉を与えれば、相手は確かに喜び、好意を持ってくれるかもしれません。
ですが過ちを認めないまま優しい言葉に溺れてしまえば、それは依存や堕落へと繋がってしまいます。
そのような関係は、本当の恋人とは私には思えません。
悪い面は注意して、良い面は褒める。その上で勇人に接してあげてほしいのです」
長文な上に一方的な要求で、相手に受け入れられるか不安だったが、特に反発の声は上がらなかった。
剣崎司紗「了承した。あまり叱ると嫌われると思っていたが、確かに勇人を堕落させたくはない」
式森花音「うむ。わしらが好んだ勇人は、甘言に溺れるような男ではないからな」
小野渚 「分かりました。なんだか、その、杉野先輩ってお母さんみたいです」
蔵馬皐月「飴と鞭。さくせん:がんがんしかろうぜ?」
どうやら皆それぞれに思うところがあるらしく、反対意見は出ていない。
杉野宮子「それでは、承諾をいただけたところでそろそろ勇人の好みについてお伝えしようと思います」
式森花音「うむ、待ちわびたぞ!」
杉野宮子「とはいえ子供の頃の情報で、最近は接点がなかったので古い情報ですが」
剣崎司紗「成長したからといって全ての好みが変わるわけでもない。貴重な情報に変わりはないさ」
小野渚 「好みも気になりますけど、もしよければ先輩の子供の頃の話とか聞きたいです……えへへ」
蔵馬皐月「メモは用意した」
杉野宮子「では、何から話しましょうか……」
その後、勇人の好みから幼少期の思い出など、たくさんのことをチャットを通じて話し合った。
宮子が知らない最近の勇人の話も教えてもらい、お互いに有意義な情報交換の場となったと思われる。
さすがに深夜が近づいたところでお開きとなり、宮子もパソコンの電源を落として就寝の準備に移った。
〇
「いやあ、妹がお世話になったようだね」
翌日の放課後、新聞部部長の式森 凍夜に呼び出されて赴いた部室にて。
お茶を振舞われてありがたくいただきながら、宮子は話をしていた。
「こちらこそ、先日はありがとうございました」
「いやいや、こちらも良い記事が書けたさ。ああこれ、返しとくね」
そう言って先日部員越しに渡したICレコーダーが返却されたので受け取る。
宮子は一年の頃から、このように新聞部と手を結んで記事の元になるような出来事を伝えていた。
暗躍というには少し弱いが、証拠音声などを渡すことで学園内の噂話などの操作に一役買うような形だ。
いじめられた友人を助けるための手段だったが、今でもその関係は続いている。
「昨日のこともさっそく記事にしたのですね」
「ああ。元々、妹をたらしこみやがったクソ野郎をどうにかしたいところだったしねえ。ばっちり書いてやったさ」
昨日の勇人の騒動は既に学園記事に記載されており、色々と話題を呼んでいる。
だが例え新聞にならなくても噂にはなっていただろうし、下手に有耶無耶にするよりも沈静化が早まるかもしれない。
「あなたにしては随分優しい記事ですね。もっと潰す勢いで叩くかと思ってました」
「一応は君の幼馴染だしね? それに、ただの事件として書くよりも、ハーレム野郎が幼馴染に成敗されるみたいな記事の方がウケがよさそうだったのさ」
くくく、と笑いながら眼鏡の位置を直す凍夜だったが、やがてぽつりと。
「……あんまり責めすぎると妹に嫌われそうだしな」
そんな言葉をぼそりと呟いていた。
「可愛い妹さんですよね。少し話しましたが、独特な喋り方で個性的ですし」
「そうさ、なんたって僕の自慢の妹だからね!」
妹のことを褒めると、とても上機嫌になる凍夜だった。
敵に対しては容赦せず肉体的、精神的に責めまくる鬼畜眼鏡と自他共に認めるサディスト。
だが、そういった点を除けばゴシップ好きのシスコンお兄ちゃんだ。
「しかしそうなると、私が妹さんの恋を応援するのは貴方にとって好ましくないですか?」
「正直言えば嫌だね。だけど……止めようとしたら花音ってばマジギレしちゃってねえ。
ああ、あの突き刺すような眼差し、罵倒の言葉……思い出しただけで、そそるよ」
天性のサディストは、妹に対しては真性のマゾヒストの様子だった。
「それに恋に憂う花音の顔も、中々良い……その相手があのハーレム野郎なのは気にいらねえが」
「難儀な性格してますね、貴方も」
「君ほどではないと思うけどねえ」
そう言って凍夜は、着席している宮子に歩み寄り、傍の机に腰掛けた。
「初めは幼馴染を取られそうで焦る君が見れると思ったけど、むしろ手助けしようとする。
自分に敵意を向けただろう相手にまで手を差し伸べ、かと思えば相容れない相手には容赦はしない。
君はまるで見る者次第で自在に姿を変えるプリズムのようだね」
口調を変えて、甘く囁くような声を出しながら徐々に顔を近づけていく凍夜。
その瞳は細められて、宮子の瞳をじっと見つめている。
「君は僕に、どんな光を見せてくれるのか……もっと見せてほしいよ」
宮子の顎にそっと指を添えて、持ち上げる。
唇が触れそうな程に迫る凍夜に、宮子は。
新作 秘密兵器で迎え撃った。
「ぶっ、ちょ、新兵器、零距離攻撃だと……ぐあっ!」
がしゃーん、と音を立てて机から落ちる凍夜。
格好つけて不安定な座り方をしていたため、笑って少しバランスを崩しただけで落ちてしまったようだ。
「貴方も好きですね、人をからかうの。他の女の子もそうやってからかってるんでしょう?」
「いやいや、僕が口説く時はいつも本気さ。ただ僕の本性を知った相手は大抵逃げるけどね」
この人も他人の想いをたくさん踏みにじってるんだろうなあ、と思いつつも、勇人のように怒る気になれない。
たぶんそれは凍夜が、相手の心を踏みにじっていると自覚して、反撃されることを覚悟した上で他者を弄っているからだろう。
勇人のように自覚も悪気もなく踏みにじっていれば、誰かが怒ってやらねば死ぬまで気付かない。
そもそも、悪いことをしているのにそれに気付きもしないことこそ罪である。
だからこそ、自分は勇人には激怒して凍夜には平静なのだろうと宮子は自分の感情を結論付けた。
第一、他人がどうこう言ったところで凍夜の性格が変わるとも思えなくて、お手上げというのもあったが。
「まったく、君は本当に面白い……僕のものにしたくなるよ」
「そんな格好で言っても様になりませんよ?」
床に座り込み、笑いを堪えて顔を歪ませる凍夜の姿は、少なくともかっこいいとは言い難がった。
「誰のせいだと……いつつ」
立ち上がりづらそうにしている凍夜に手を差し出して、助け起こす。
その後もくだらないやり取りをしばらくして、凍夜が部活の仕事に忙しくなり始めた辺りで宮子はお暇させてもらうことにした。
チャット風というか台本形式のようなものを試してみましたが、書きづらい読みにくい文字数稼ぎになってまう……。
私には使いこなせそうにないとです。




