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学園の中心で「邪魔しないでよ!」と叫ばれた少女 連載版  作者: 千条 悠里
最終章「世界の中心で愛を叫んだ少女」
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第27話「闇を祓う光」

 綾と宮子を覆う結界に、勇人は『勇者の剣』を叩きつける。

 先程の結界より数段強固な結界であるらしく、勇者の力を持ってしてもすぐには破壊できず弾かれてしまう。

 だが、勇人は弾かれた勢いを身体を反転させることで次の斬撃の威力に転化。再度斬り込む。

 ぴしり、と。結界に亀裂が入る。しかし人が通り抜けるだけの穴は開かない。

 無論諦めるなんて選択肢のない勇人は、幾度も剣を振りかざして結界に攻撃を継続する。

 弾かれても、より加速した斬撃を。それでも足りぬならさらなる強撃を。

 何度でも、何度でも、何度でも――愛する少女の元にその身が届くまで、何度でも。


「……あっはは、ざんねーん! 必死に頑張ってるとこ悪いんだけど時間切れ!」


 そんな必死な勇人の連撃に、綾は内心の焦りを隠しながら、嘲笑う。

 予定では杉野宮子をもっと甚振り、這い蹲らせて惨めに命乞いをさせてから殺すことで恨みを晴らそうとしていた。

 しかしこのままでは勇者に結界を破られて邪魔されて、それどころではなくなる――それが理解できた綾は、こだわりを捨てて宮子を全力で殺すと心に決めた。


「予定とは違うけどこれはこれでいいわねえ! 目の前に助けがきてるのに無残に殺される――そんな無念を抱きながら、死になさい!」

「やめろおおお!!」


 綾の凶笑と、勇人の絶叫が重なる。

 宮子は少しでも生存できる可能性を増やそうと、綾の予備動作の観測に限界まで集中しながら身構える。

 綾の両手に、黒紫の光が灯る。光り輝く闇という矛盾した現象でありながら、その光は確かな存在感を放っていた。

 今までの、魔力の刃とは明らかに違う――それを感じ取る宮子だが、彼女に取れる対策はない。

 距離を取ろうにも、蓄積されたダメージは足を鈍らせて素早い動きを阻害している。背中を見せて走ったところで周囲は結界に囲まれて逃げ場はない。

 だからといって踏み込んだところで、未知の魔法相手には逆効果かもしれない。

 見切ることに専念して回避できることに賭けるくらいしか、宮子には手段が残されていなかった。


 綾が重ね合わせた両手の掌に、闇の光が収束していく。


「――死んじゃえ!」


 綾の叫びと共に、暗黒の閃光が迸る、その直前。

 勇人が結界に刻んだ亀裂の小さな穴から、純白の光の帯が結界内に飛び込んだ。

 そしてその光の帯は、宮子の身体へと繋がり――。




  〇




 早苗優菜は、望月高志に守られながら祈りを捧げていた。

 それはただ心の安寧を求めたものでも、あるいは神への感謝を示すものでもない。

 栗原綾により映像で突きつけられた、窮地にある宮子の助けとなるための意味ある祈りであった。


 早苗優菜は『アルカナ』と呼ばれる異能をその身に宿している。

『アルカナ』とは、心に宿る力。人の想いこそが力の源となる。

 心が人それぞれのものであるように、異能を宿す者の数だけ性質が異なる能力だ。


 各人の『アルカナ』の名称は、異能が発現した際に本人の意識へと溶け込むように刻み込まれる。

 優菜の身に宿るアルカナの名称はvinculumウィンクルム――ラテン語で『絆』の名を冠する『アルカナ』だ。

 幼くして両親と死別して、内向的な性格から友人を作る術を知らず、ずっと誰かとの『絆』を求めていた優菜の心を象徴するような『アルカナ』。

 優菜の『アルカナ』は、ただ戦うための力ではない。

 それは誰かを守るための力。剣となり、盾となり、そして……心を繋ぐ『道』となる。


(……感じる。宮子さんへと通じる、たくさんの人々の想いを。絆を)


 街の中で、異常な事態に襲われながらも、人々が誰かを想う気持ちを、優菜は感じ取っていた。

 その数々の想いの中に、街の遥か上空で襲われている宮子へと通じる人々の想いも、確かに存在している。

 魔王の仕掛けた魔法術式の影響で、朦朧とした意識の中で。

 悪い夢に閉じ込められるような、そんな状態でも別の誰かの無事を願う。そんな綺麗に輝く人々の想い。

 心は移ろい、時にひどく醜くなることもある。魔王はそんな、人の悪しき想いを糧として世界に君臨しようとしている。

 だけど、人の心には正しき想いも確かにあるのだ。誰かを想い、慈しみ、無事を願う。そんな綺麗な想いが。

 夜を照らす星空のように、きらきらとした想いの欠片達。

 杉野宮子が無事であってほしいと。またいっしょに過ごしたいと。彼女のことを想う心。それは、魔王とその供である綾の悪しき心にも、きっと負けない。

 優菜はそんな綺麗な想いを、杉野宮子が多くの人々と紡いだ絆の力を届けるために、祈りを通じて異能の力を解き放つ。


「みんなの想い、届けて――アルカナ!!」


 優菜の身体を、純白の光が包み込む。

 その光は帯となり、遥か天空へと伸びていく。

 人々の心の光は、勇者が切り開いた小さな綻びから、悪しき心の檻を抜けて、少女の元へと届いた。



  〇



 杉野宮子の身体は、確かに闇の光の濁流に飲み込まれた。

 勇人の悲鳴じみた絶叫と、綾の凶笑が響き渡る中――杉野宮子は身体にいつまで立っても衝撃が来ないことを不思議に思い、顔を庇っていた両手を下げた。

 戸惑う彼女の身体は眩い光に包まれて、闇の濁流の中で傷ひとつ負わず立っている。

 不可思議な現象に理解が追いつかぬ中、宮子の心に様々な人々の声が響く。

 それは、宮子が今までの日々の中で絆を繋いできた人々の、心の声だった。


『みやちゃん、まけんなー! ファイトだよー!』


 自身も苦しい中、友を励まそうと気丈に振る舞い、明るい声を出す活発な少女。

 宮子以上に人々との絆を大切にして、多くの友人達に好まれる高野由美の声。


『貴女が負けるなんて許しませんわよ! 勝ちなさい、宮子!』


 意地っ張りで、けど本当は寂しがりで。だけど何より気高く誇りを大事にする少女。

 どんな苦難の時でも自分を貫こうとする、新條真理冶の声。


『がんばっす! 俺達がついてるっす!』

『貴女は一人じゃないわ! 頑張って!』

『負けないで! まだ貴女と話したいこと、たくさんあるんです!』


 中田響の声が。鹿山穂乃香の声が。前原真琴の声が。


『こんなわけ分からないことさっさと終わらせて、またサッカーをしましょう』

『貴女が負ける姿など、欠片も思い浮かびません。……さっさと片をつけて、いつもの日々へ戻りますよ』


 大園椿の声が。不動霞の声が。


『僕達が街を守ります! 宮子さん、どうか無事で!』

『てめえ、負けんじゃねえぞ! 俺と試合する約束、まだ果たしてねえだろうが!』

『……頑張って』

『君ならやれるさ! 悪になんて負けるな!』


 望月高志の声が。五十嵐裕也の声が。青木洋介の声が。式森凍夜の声が。


『……負けるな、勝て。お前になら、できると信じているぞ』

『わたくしはまだ、貴女に何も恩返しできていませんわ! 無事に、帰ってきてくださいまし!』


 天城鋼の声が。西園寺伊織の声が。


『が、頑張ってください! もっとたくさん、教えてもらいたいことがあるんです!』

『負けるな! まだ宮子殿には伝えたい言葉がある!』

『ファイトなのじゃ! 絶対、負けるでないぞ!』

『最終決戦。……負けないで』

『あ、あんたに何かあったら勇人が悲しむんだから! もっと踏ん張りなさい!』


 小野渚の声が。剣崎司紗の声が。式森花音の声が。蔵馬皐月の声が。前田加奈子の声が。


『姉ちゃん、勝負は根性だぜ! 気合入れていけ!』

『異世界のお土産話、たくさんあるんだから。皆で勝って家に帰るわよ!』

『宮子、頑張って! お母さんも頑張るから!』

『帰ったら、家族でゆっくり休もう。頑張れ、宮子』


 今も戦ってくれている家族の声が。


『お姉ちゃん、頑張って! 私も頑張るから!』

『まだ挫けないで! 私達も、最後まで挫けないから!』

『魔王は必ず倒してみせる! 宮子ちゃん、なんとか持ちこたえてくれ!』


 幼い頃から家族のように過ごしてきた隣人の声が。


『君の未来を閉ざす運命なんて、もう存在しない。君の手で未来を作っていくんだ。

 ……だから、諦めないで。君は一人じゃないから!』


 ずっと、憧れていた人の声が。

 自分の未来と引き換えに、杉野宮子に未来をくれた人の声が。

 そして。


「宮子ー! 返事を……返事をしてくれー!!」


 ――ずっと閉ざしてきた心の奥底で。

 本当はずっと、好きだった男の子の声が。

 情けなくて、だらしなくて、時々信じられない失敗もして。

 だけど……辛い時、傍で支えてくれていた少年の声が。



 満たされていく。

 輝ける日々の中で絆を紡いだ人達の声に、そのあたたかな想いに、心が満たされていく。

 杉野宮子は、視界を覆う闇を払うように腕を振るう。

 無数の人々の悪意を凝縮したような漆黒の閃光は、その一振りで掻き消されて霧散した。


 世界中の人々の悪しき心を掻き集めた栗原綾に、紡いだ絆で立ち向かう杉野宮子。

 両者は同じく、他人の想いを借りて力を得た。

 想いの元となる人数では、栗原綾の方が圧倒的に多い。

 だが、杉野宮子の光は、栗原綾の闇を確かに凌駕した。


「……は、はは、何よそれ……ふざけんじゃないわよ、このチートが!」


 栗原綾は、絶対の殺意を持って放った一撃が傷ひとつ負わせられなかったことに激昂して、次弾を放とうとする。


「――これ以上、宮子に手を出させてたまるかあああ!!」


 それを阻もうと、勇人は死力を尽くして結界に挑み――闇の檻に穴を穿ち、結界の中に飛び込んだ。

 綾が宮子に向けて放った無数の魔弾を、勇人は突撃の勢いのまま魔法陣の床を転がり、射線へと飛び込んで盾と弾き飛ばす。


「宮子! 遅くなって、ごめん!」

「勇人――ううん。勇人が、皆が必死に戦ってくれるところ、見てたよ。

 来てくれて、ありがとう……また、助けてくれたね」

「……ああ! 今度こそ、守ってみせる!」


 勇人は、光を纏う宮子と共に並び立つ。

 想い人を守るように庇い立つ勇人の身体からもまた、勇者の力が放つ魔力が光となって輝いていた。




 こことは異なる世界。剣と魔法が実在する世界の古来において。

 勇者とは、神に選ばれた存在ではなかった。

 人々のために奮い立ち、困難に立ち向かう者。あるいは、無事であってほしいと強く願われた者。

 想いの形は数あれど、人々に強き想いを託された存在。

 そんな一人のために、数多の人々の想いの力が集うことで、勇者と呼ばれる程の力となった。


 九条勇人が神に選ばれた勇者であるのなら、杉野宮子は人に選ばれた勇者となった。

 それは杉野宮子一人では決して成り得ない存在。だが、杉野宮子でなければ成り得なかった存在。

 多くの人々との絆を深めて、その絆を大切にしてきた杉野宮子という少女の在り方と。

 そんな彼女のために自らの異能を使い、人々の想いを届けた早苗優菜の存在。

 最後まで諦めず戦い、早苗優菜の異能が通じる道を結界に穿った勇人。

 勇人を宮子の元へ行かせるために、今も魔王と決戦を繰り広げる人々。

 何よりも、杉野宮子の無事を強く願ってくれた人々のおかげで、今、彼女は希望の光を纏い立っている。



 勇者と呼ばれるに相応しき光を纏う二人が、並び立つ。

 人の形をした悪意に立ち向かい、日常を取り戻すために。

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