表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園の中心で「邪魔しないでよ!」と叫ばれた少女 連載版  作者: 千条 悠里
第2章「騒動の中心で『絶対に!』と叫ばれた少女」
29/36

第23話「引き裂かれる世界」 『第2章エピローグ』



 宮子が目を覚ますと、勇人が顔を覗き込んでいた。


「――宮子!」


 意識を取り戻した宮子の様子に、勇人は思わず叫ぶ。

 その頭を「病院では静かに!」と愛が小突く。

 宮子は周囲の様子を確認して、自分が病院のベットに寝かされていたことを把握した。

 公園で意識を失った後、ここに運ばれてきたらしい。

 どうやら今は、愛と勇人が傍で見守ってくれていたようだ。


「お、俺先生呼んでくる!」


 居ても立ってもいられない、という様子で駆け出す勇人。

 その後姿に、思わず宮子は叫んでいた。


「ゆ、勇人!」


 立ち止まり、振り返る勇人。

 だけど、続く言葉が思いつかず、言いよどむ。

 心の奥底で見た不思議な夢、なのかも分からない、凛との対話で気付いた自分の気持ち。

 しかし今まで勇人に取ってきた態度や、渚達への感情。そしてこの場に愛がいることで、何も言えなくなってしまう。

 そのため、ただ頬を赤くして「な、なんでもない」と、呟くしかなかった。


「あ、ああ……じゃあ、行ってくる」

「う、うん。ありがとう……」


 今度こそ部屋を出ていく勇人。

 そんな、いつもと違う二人の様子を、愛は首を傾げながら見ていた。




 その後、宮子が目覚めたことを聞いた家族や友人達も集まり、無事を喜んでくれた。

 先生からも、精密検査を行ったが異常は見られず、一日検査入院をして問題がなければ帰宅しても大丈夫、と診断された。

 皆、面談時間終了ぎりぎりまで傍にいてくれたけど、付き添いも不要なくらい容態は安定しているということもあり、消灯時間には家族も含めて帰っていった。

 暗くなった病院のベットの中、宮子は天井を見上げながら考える。

 自分の想いのこと、渚達の想いのこと。そして――勇人の想いのことを。

 自分は、今更ながらに気付いたが勇人のことが好きだ。渚達には散々、恋愛対象じゃないだの論外だのと言っておいて、それは許されるのだろうか。

 しかし、他ならぬ勇人自身が『宮子が好きだ』と告白しており、ケジメとして他の女子達にその想いを打ち明けている。

 暗い部屋の中で一人、悶々と考え続けていた宮子だが、結局のところ答えはもう決まっていた。


 (……勇人に、私の想いを打ち明けよう)


 退院したら、勇人の告白に返事をしよう。そう、決意する。

 だけどその前に自分にも果たすべきケジメがある。

 簡単にケジメがつけられることではないけど、それでも。

 自分が前に進むために、それはどうしても必要なことだと思った。



  〇



 翌日。医者のお墨付きをもらい、退院した宮子は勇人を呼び出した。

 だけどすぐに想いを打ち明けることはせず、「ついてきてほしい場所がある」とだけ伝える。

 勇人と合流した宮子は、公園への道中にある花屋で花束を購入した。

 ――九条凛に供える花束だ。

 世界から、存在した記憶も記録も消えてしまった凛には、墓も仏壇も存在していない。

 だけど、せめて事故現場に花を供えたい。それが宮子なりのケジメだった。

 こんなことくらいでケジメになるなんて思えないけど、何もしないまま先に進もうとは思えなかったのだ。



 公園につき、道路傍の電柱に添えるように花束を置く宮子。

 それを見ていた勇人が、深く目を閉じたまま呟く。


 「……兄貴、さ。俺の夢にも来たよ」


 ぴくり、と宮子の肩が震える。

 消えたはずの凛の記憶。だけど宮子がそれを思い出したように、勇人も思い出したのだろうか。

 家族である凛が、宮子を庇ったせいで死んだのだ。責められるだろう――そう身構えた宮子だったが、勇人は責めるようなことは言わなかった。


「俺だけじゃない。父さんと、母さんのところにも行ったらしい。愛はあの頃、生まれてなかったから話してないらしいけど……。

 兄貴、宮子のことをよろしく頼むってさ。お前じゃ頼りないけどなんて言いながら、な」


「……責めないの? 私のせいで、凛さんは――」


「お前のせいじゃない。母さん達とも話したけどさ、宮子のこと責める気なんてないよ。

 兄貴は、自分の命を懸けてまで人の命を救ったんだ。誇りに思う。今まで忘れてた俺に、言う資格ないかもしれないけど」


 罪悪感に押しつぶされそうな宮子に、勇人は優しく話しかける。

 思えば九条勇人という人間は、いつもそうだった。

 自分が苦しくたって、誰かのために優しく振舞える。そんな少年だった。

 抜けているところもあって、時々とんでもない失敗をしたり、無意識に誰かの心を傷つけてしまうこともあるけど。

 昔からずっと、宮子のことを支えてくれていた。最近は疎遠になっていたけれど、今は傍にいてくれる。

 そのことが申し訳なく、そして何より、嬉しかった。


(辛い時、俯いてしまった時。顔を上げればいつも、君はそこにいてくれた。

 私はずっと、その有り難さを忘れてしまっていたけれど)


 宮子はぎゅっと、目を閉じた。

 周囲に人影はなく、二人きり。

 想いを伝えよう――そう意識するだけで、胸の鼓動が高鳴っていく。

 今まで眠っていた感情が、どくんと脈打つように、宮子の中を駆け巡っていく。


 深呼吸。気持ちを落ち着けようとしても、意識するほど頬があつくなる。

 それでも言おう、と覚悟を決めて。目を開く。


「あ、あのね。勇人。私……私ね」


 口を開く。

 自分でもうろたえていることが理解できるほど、その言葉は拙くて。

 だけど勇人は宮子の様子から、何かを察したのか頬を染めながら宮子を見つめる。


「私……勇人にたくさん、ひどいこと言っちゃったけど。

 だけど、やっと気付いたの。自分の気持ちに。ずっと、目を背けていた想いに。

 私は、あなたのことが――」


 躓きそうな心を奮い立たせて、言葉を紡いでいく。

 なんとか、その先の言葉に想いを込めて伝えようとした。

 その時、だった。




「――言わせないわよ、ばーか!!」



 そんな、少女の罵倒の声と共に。

 宮子の意識が、急速に闇の中へ沈んでいったのは。


(こ、の声……くりはら、あや……?)


 意識が途絶える寸前。声の主の正体に心当たりがあることに気付くが。

 その名前を口にすることはできず、宮子の意識は暗闇に飲まれていった。




  〇




「……み、宮子!?」



 突然の事態に動揺して、それでも崩れ落ちていく宮子の身体を支えようとする勇人。

 しかし宮子の背後に突如現れた少女の放つ、禍々しい瘴気が暴風となって勇人を吹き飛ばしてしまう。


「あっはー! いい気味だわ勇者様! 大好きな女の子を守れない情けない勇者様ー! きゃははは!」


 狂ったように笑う少女に、勇人は面識がない。

 しかし連日報道されたニュースに出ていた顔写真から、その少女の正体に気付く。


「おまえ……栗原、綾!?」

「せいかーい! 正解者には……これでもあげるわ!」


 依然吹き荒ぶ瘴気の嵐に踏ん張って耐えていた勇人へ、綾は魔力で作り上げた漆黒の魔弾を叩き込む。

 咄嗟に『抜剣』することで剣と盾を手に、魔弾を防ぐ勇人。しかしその隙に綾は空へと浮かび上がった。

 その傍らに、意識を失った宮子を無理矢理浮かび上がらせて。

 魔力の檻とでも言うべき黒紫の膜に閉じ込められた宮子の身体は、ぴくりとも動かない。完全に気絶させられているようだった。


「ああ、そうそう。ルシフェル様から伝言よ――『我は貴様に敗れたあの頃を凌駕する程の力を手中に収めた。

 この娘を取り戻したくば、我と雌雄を決せよ。我が城の玉座にて待つ』だってさ!」


「ま、魔王……だって!?」


 異世界にて、勇人が仲間達と共に死力を尽くして討伐を果たしたはずの、魔王ルシフェルの名に勇人は驚愕する。

 確かに、倒したはずだった。その身体が朽ちていく様を、見届けたはずだった。

 そんな奴が、何故この世界に蘇ったというのか……まるで分からない。

 だが、ひとつだけ。確かなことがある。

 こいつは、栗原綾と魔王ルシフェルは、自分の敵であり。

 大切な幼馴染、杉野宮子を害そうとしていると――!


「こ、の……宮子を、返せ!!」

「あっははは! なによーこんなモブに夢中になっちゃってさー、ばっかじゃないの!?」


 勇人が必死に瘴気の嵐を掻き分けて前進してくるのを、綾はげらげらと笑い飛ばした。


「この女には散々な目に合わされたからさー、ただじゃ殺してあげない。

 最高の舞台で、徹底的に痛めつけて、這い蹲らせて、命乞いさせながら嬲り殺してあげる!

 あんた、さっさと助けにきなさいよ? でないと、最高のショーを見逃しちゃうんだから!」


「てん、めえええ!!」


 激昂に共鳴するかのように、勇人の身体が眩い光を放つ。

 勇者の魂に宿る破魔の力、だ。それは魔に連なるものにとって致命的な毒となり、刃となり、盾となる、正なる心の力。

 黒紫の嵐を突き破り、宮子に手を伸ばす勇人を嘲笑いながら、綾は宮子を引き連れて虚空へと消えた。

 転移魔法――確かにそれは、この世界に存在しないはずの高度魔法の、はずだった。

 相対した少女は、犯罪を犯したとはいえただのこちら側の世界の少女だったはずだ。瘴気や魔法の力なんて、持っているはずがない。

 それなのに、宮子を一瞬で昏倒させた魔法、勇者である勇人を阻んだ瘴気の嵐、漆黒の魔弾の威力、転移魔法……どれも、異世界であろうとも易々と扱えるものではない。


(あれは、魔王の力、そのもの……!? あの女、まさか魔王と契約して魔人化したのか!?)


 魔人は、人間が魔王と契約を結ぶことで至る存在だ。

 人の身では辿りつけない境地へと、魂を捧げることで容易く辿りつくことができる禁忌の術。

 強大な力を得られることは確かだが、その代償もまた大きく、魔王の死と共に――。


 様々な考えや疑問が頭を駆け巡っていくが、すぐにその思考は断ち切られる。

 勇人の眼前。有り触れた市街地の路上に、黒い沼のような魔力が現れて、その中から多数の魔物が出現したからだ。

 そして、その遥か先――街の上空に、空間を切り裂くようにして闇に包まれた空間が現れる。

 禍々しい瘴気の漂う中、浮上するのは暗黒の城……魔王城。

 その非現実的な、けど異世界の戦いで自分の記憶に深く刻み込まれたその光景に、迷っている暇なんてないことを悟る。

 勇人は叫びながら、魔物達の群れへと斬り掛かった。


「絶対に! 助けにいくから――待っててくれ、宮子!!」


 勇人の全身から、眩い光が放たれてその身を包み込む。

 勇者に与えられる剣と盾。そして……衣服を上書きするように出現した青と白を基調とした勇者の鎧が、光の中から顕現した。


「邪魔だ――どけええええ!」


 一騎当千。そんな夢想の言葉を具現したような存在と化した勇人が、咆哮と共に突撃する。

 群がる魔物達をなぎ払いながら、勇人の身体は空へと舞い上がった。

 勇者の鎧から現れた光の翼を背負い、その身体は魔王城へと目掛けて、空を駆け抜けていく。

 その行く手を阻む魔物達を次々と切り伏せて、勇人は決戦の場へと進撃する。

 全ては、大切な少女を取り戻すために。

 引き裂かれた世界を、取り戻すために。

これにて第2章が終了です。

思えば随分と迷走いたしましたこの物語も、次の第3章で終了予定です。

そしてその後は……ファンタジー要素とか全部取っ払った、甘ったるいくらいの学園ラブコメ版みたいなのを、リメイクというか別展開版として連載できたらなーとか考えています。

けどまずはこの物語を、不器用ながらも最後まで完結させて。それからじっくりと取り組みたいと思います。

ここまで読んでくださっている方々のために、そして何より自分が満足するために、最後まで駆け抜けますので、どうか最後までよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ