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学園の中心で「邪魔しないでよ!」と叫ばれた少女 連載版  作者: 千条 悠里
第1章「学園の中心で『邪魔しないでよ!』と叫ばれた少女」
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閑話「北条健二の、姪への願い」


 北条ほうじょう健二けんじにとって、栗原綾は亡き姉の忘れ形見である。

 両親の反対を押し切って民間の男である栗原雅人と婚約した、姉の北条 めぐみ

 所謂駆け落ちである。当然、激怒した親は姉を勘当した。

 それからは親の目もあり、自身も会社の経営に専念しなければならなかったため、姉と交流する機会はなかった。


 それでもいつか、両親と和解してまた家族で過ごせるようになれば――そう願っていた。

 しかし両親が飛行機事故で死去。悲しみにくれる中、姉夫婦まで交通事故で他界した。

 そんな絶望の中で、唯一生き残った栗原綾は、大切な忘れ形見であった。


 自身の娘である北条 幸恵ゆきえと同い年ということもあり、周囲の反対を押し切って迎え入れた。

 綾を聖クリスティナに転入するよう誘うと快く承諾されて、試験も無事に合格。

 辛いことも重なったが、娘と姪のためにも踏ん張らねばと気合を入れて――。


 その矢先の、事件だった。

 栗原綾が、学園で事件を起こして警察に引き渡されたというのだ。

 最初は耳を疑い、次に学園を疑った。何かの間違いではないか、誰かに嵌められたのではないか、と。

 しかし、提出された証拠の音声、動画データ。そして警察の取調べ内容に疑いの余地はなく、栗原綾の犯行が確定した。

 何より。


「――あいつらが悪いのよ! 私の計画を邪魔して! だから私があいつらを成敗――」


 本人の証言が、犯行を物語っていた。

 証拠、証人、証言。全てが揃ったとあっては、健二にももう認めざるを得なかった。

 ――何故、こんな子になってしまったのだ。

 姉の育て方が間違っていたというのか。しかし姉はとても優しく穏やかな性格をしており、その夫である雅人も、駆け落ち前に数度会っただけだが人格に問題があるような人物と思えなかった。


 駆け落ちを行ったのは問題だが、あの時には両親にも落ち度があり、お互いに非を認め合えば和解もできたのかもしれない。今となっては全て遅いが。

 人格についてはもしかしたら結婚後に何かあったのかもしれないが、最早確かめる術はない。

 もし人格や生活に問題がないのであれば、事故の影響だろうか。

 命に別状はなかったとはいえ、精神的ショックは計り知れないものがある。頭をぶつけたことで性格が変わるという医学的な面での可能性もありえる。


 それでも健二は、栗原綾を見捨てようとはしなかった。

 権力で罪をもみ消す、なんて真似はしない。北条家なら不可能ではないかもしれないが、健二はそのような不正を嫌う。

 未成年の犯罪とはいえ内容が重過ぎる。数年以上は確実に服役することになるとしても……出所したら、やり直そうと。そう繰り返し、伝えた。

 関係者の起こした事件で北条家にも多大な被害を蒙る中、激務の中なんとか時間を捻出して、面会に向かって、言葉を伝え続けた。


 だが、その言葉も届かなかった。

 どのような手段を用いたのか今だ不明であるが、栗原綾は拘置所から脱走したのである。


 7月も近づいてきた、ある日のことだった。

 いつものように起床した際に、ひどく狼狽した様子の秘書から事の次第を伝え聞いた。

 栗原綾が拘置所を脱走。壁が粉砕されていたことなどから、北条家に脱走を手引きした疑いがある、と――。

 眩暈がして倒れそうになったが、倒れるわけにはいかない。

 何故、このようなことになってしまったのか分からないが、自分は北条家の主である。

 会社に勤めてくれている社員達、愛する妻、そして娘……守るべき人々が、大勢いる。


 身支度を整えて、スーツに身を包む。

 北条健二は、守るべき人々のために、今日も倒れ伏す訳にはいかなかった。

 ただ、どうしても思わずにはいれなかった。

 ――綾ちゃん。今からでも自首して、罪を償ってくれ。それが君の未来のためだ。

 これほどの事態を引き起こされても尚、健二は姪の身を案じていた。

 彼は、そういう男だったのだ。

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